2020-01-01から1年間の記事一覧
数時間が経過していた。 バルバは一人落ち着きもなく、目の前の黒い鉄門が開くのを待っている。そこから離れた石道の曲がり角では、黒いローブを着込んだリハクが遠く隠れるようにして覗き見していた。事実、隠れていた。 南斗五車星を束ね、慈母星ユリアに…
南斗聖拳は六聖拳を最高峰とした総勢108派からなる大所帯だ。 ただ南斗と名乗るだけのような流派がある中で六聖拳の力はいうまでもないが、他にも極一部だけ上位の流派が存在している。 その最たるものが、この南斗鵷鶵拳、、、 短めの黒髪を立てた俺と同年…
小高く、今にも倒壊しそうに傾くビルの屋上から頭を上げ、俺は前方を確認する。既に聖帝勢力下の中心部に近い。堂々と歩いて行けばすぐにでも聖帝兵に見つかるだろう。その一方で北斗神拳によると思しき遺体はなく、兵士たちにも敵襲来を感じさせるような慌…
ヒエンの冷たい身体を抱き、シンは彼らしからぬ悲しみの深き谷の中にいた。 「なんとなく、最後はこうなるのではと予想はしていたが、これは決まっていたことなんだな」シンの独り言ではない。背後の気配に言っている。南斗宗家宗主バルバである。「彼ら三面…
蝙蝠は片膝を着き、高き座に就く男に頭を下げた。広い部屋の壁際には武装した腕利きたちが蝙蝠をやや遠巻きに取り囲んでいる。 「それで頼みとは?」低く渋い声。その主は、、「はい、ナンフー様」ナンフーとはサウザーの遺児を護る南斗将星直属のシュメたち…
変貌を遂げたヒエンから、これまでの彼にはなかった闘気が吹き出ている。闘気が吹き出る、、肉眼にも赤い蒸気が見えるが、これはヒエンの血液が渇いて塵となっている状態である。こんな状態は本来の暗殺拳南斗聖拳ではない。今更だ。なのに何故かそれをしみ…
「うっ、、ぐぅ、、、」 両肩が痛む。レイの奥義で斬られた両肩がだ。あれは別世界の話の筈だ。時を遡った俺の今の時間軸では起きなかったことだ。恐らく、俺がトドメを受けたあの強烈な瞬間を、心が現実にしようとしているのだ。俺は鏡に写して自分の肩を確…
シャワー浴びている最中、こんなことを書こう、、と妄想すると、いいアイディアが浮かぶことがあります。 我ながら、「これいい!」なんて思ったりします。 そして寝て、朝仕事に向かい、ストレスと疲れと共に電車に揺られて、昨夜のプロットは忘れて、空い…
「ライデン、、、これは一体、、?」 久しぶりの、強い雨の日だった。シンは息も絶え絶えに倒れるライデンの半身を起こして尋ねた。胸の刺し傷は深く、雨とともに流れ続ける血の量は多い。「はぁ、はぁ、シン様、、」「ライデン!」助からない、、、ライデン…
「そう、、、」 売りを生業としている馴染みの女だった。つまりはこの時代の女には最も一般的な仕事と言っていい。やや異なるのは彼女は実質的にはシン専属だった、ということだ。シンも南斗の拳士といえ、女を求める衝動はある。感情が女を求めなくても、自…
「謎の男たちか」 複数あるシュウたちレジスタンスのアジト。その一つで合流した俺は、ユダとの対戦のこと、そして結果的にその戦いを止めることとなった四人の男たちのことを伝えた。「その中の一人、岩のように大きかった、と」心当たりがあるのか?シュウ…
「そろそろ時間の筈だが」 自動巻きの腕時計を見て、ガルダは一人呟いた。口調からすれば毒付いたに近い。瓦礫が散乱したビル内の一角だが、外を通る道は広く、その見通しは悪くない。それでもガルダと待ち合わせた、あの連中の姿は一向に見えない。黒いロー…
一体、何が起きたんだ、ユダに。こちらを侮り、見下すような素振りもない。本当にユダか?この男は。そう疑うほどに落ち着いている。というよりも、、、凄味がある。纏っている。この男もラオウと同様に闘気を纏っている。もちろんラオウほど強大なオーラで…
北斗神拳伝承者ケンシロウでなければサウザーには勝てない、、、シュウはそう言い切る。望みはケンシロウだけなのだと。同感だ。ケンシロウはこの乱世の光となる男。口下手で朴訥とした男だが、紛れもなく北斗神拳の正統伝承者。あの圧倒的な強さは決して向…
「やけに」シンはライデンに話しかけた。 「今日は黒ローブたちが目につく」聚聖殿内のそこかしこを宗家のあの不気味な連中が徘徊していた。更に気になることもあった。あの出来損ないの機械のようなぎこちなさで歩いていた黒ローブの老人たちの動きが、この…
流石は三面拳最強と噂される男ゲッコウだった。 彼の南斗月辵拳は孤鷲拳と似た実利追究の拳。実際かなり似ていた。そしてゲッコウの戦法は拳士ではなく戦士と言う方が合っている。拳士という括りで捉えてしまうと見えなくなるものがある。それをゲッコウは思…
「ユダ、うぬも入るがいい」まさかの拳王の申し出に俺は戸惑った。と、同時に俺を「うぬ」と呼んだことに怒りを覚える。もっとも、、、俺はこれからキサマに一泡吹かせてやるつもり。少々のことは多目に見よう。「何を言う拳王。客人をもてなすため用意した…
聚聖殿から出て進むこと一時間弱の距離にある深い谷。そこに今回目的の修練場がある。 谷の遥か下に川の流れが見える、落ちたら南斗聖拳の拳士であろうと助からない高さである。その谷底から数十本の石柱が伸びており、その上、直径1mほどの円形の足場で戦…
拳王を迎えるために俺が準備したのは山間にある、かつて栄えた世界での旧温泉街、、、の近くにある、学校と呼ばれた施設だった。俺は特殊且つ上級国民の家に育ち、後に南斗聖拳組織に送られている。下々の民を寄せ集めたこのような施設とは無縁だった。感傷…
バルバがシンの練習相手にと、紹介したのは三人の男だった。 ライデン。南斗鳳鶴拳の使い手。108派にそんな流派はない。この南斗宗家の中で練り究められた拳だ。名からして鳳凰拳と紅鶴拳の要素を取り入れているかと思われたが、実際は脚技の比率が高く、強…
シュウは俺がレジスタンスに合流することを、喜んで受け入れてくれた。 「好きなところに座ってくれ」さっき救い出した子供たち、、、親からさまざまな形で引き剥がされたばかりだ。その悲しみは計り知れない。そんな彼らの世話をしてくれる女たちも、ここに…
三度目の合図で現れたシュメはチイという名の若者と、他にやはり若い男二人だった。 シュメを呼ぶ合図?何ということはない。シュメなら南斗聖拳の人間をどこかで見守っているだろう。見晴らしの良い平地を進む時に、手で招くような仕草をすればいい。それだ…
ほとんど夢中で秘伝書の数々を読み、知識を吸収している。そんなシンにバルバは気を遣うかのような静かな声で話し掛ける。「シンよ、石像に刻まれた南斗の一撃の話をしてよいか?」 カァァァ、、、と脳が忙しく働いている。そのせいで体内のエネルギーが激し…
「貴様が顔を出すとは珍しいな。ユーディーン」と、帝王は顔も向けずに言い放った。聖帝の紋章が刺繍されたマントが風で揺れている。この男こそ生まれついての帝王だ。 一度この男の失脚を謀ったが、容易く覆された挙げ句に、、、そして赦されている。言うま…
中は思ったよりも狭い。 もっと如何にも、、、なものを想像したが、まさにただの小さな書庫に過ぎなかった。石造りの部屋なのは同じで、中央に木製の本棚があるでもない。壁面に窪みがあり、そこに古い本が並んでいる。これらの本が何を記しているかは想像を…
二人目、、、ここで意外だろうがレイの名を挙げる。 南斗紅鶴拳と南斗水鳥拳は地理的にも比較的近く、そして先代伝承者同士もそれぞれ六将の一人でありながら懇意な間柄にあり、下部流派を含めての交流があった。 レイのことはもちろん元から知っていた。お…
「もう石像は見飽きた頃か? 場所を移そう」と言い、バルバはこの円筒状の石室の奥扉を開けた。先にはまた薄暗く広い石道が続いている。 「北斗神拳もまだ現在ほどの力は有していなかった。それでも間違いなく並ぶもの無き最強の拳。それと互角に戦い、力を…
「聖十字霊拳、、、」 シンでさえ聞いたことがない名であった。これを鵜呑みにするのも如何なものかとは思うが、バルバがそんな嘘を吐いてどうなるのか、とも思える。 「なるほど、、、南斗六星を己の象徴としながら、何故に紋章は十字形だったのかわかった…
もし、俺のここまでの半生で、転機となった人間を挙げろと言われたなら、それは三人、そしてもう一人特別な人、と言うだろう。 そのもう一人と言った特別な存在、、、、南斗聖拳を身に付け、組織の頂点である六聖拳の一人にまで上り詰めた俺でも、誕生の時を…
単騎、、村を訪れたのはたった一人の男だった。かなり久しいが、俺はその男に見覚えがある。長身の身体は鍛えられており、短い銀髪でその目は鋭く、物事の本質を見抜くかのように冷たく光っている。 「リュウガ」トキもこの男を知っているようだ。「久しぶり…