妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

191.

覚悟はできた。

 


ガルゴに敗けた時は死の恐怖によって、取り乱した。恐慌していた。

それと違い今ここ、自分の背骨と重なるように、本当の覚悟は彼の中に据えられている。

それは彼が到達すべき拳の神域に達したからである。思い残すことはない。若しくは、、北斗神拳伝承者がその標的に死を覚悟させるからか、、、

 


上出来だろう、ケンシロウ

この俺が人を理解し、無想転生を会得したキサマに少しばかりは食い下がった。

それと、勘違いはするな。敗北は覚悟したが、敗けるつもりでは戦わない。諦めたなら、そこで拳を下げる。

 


シンはリ・シャンロンの構えを取った。ケンシロウも左右逆に同じ構えで面する。正に北斗と南斗。同じ構えでも相容れない。

そしてシンは自分の中の最後の抽斗(ヒキダシ)を引いた。

今現在の真の南斗聖拳を別とすれば、南斗最強の鳳凰拳を最強たらしめる秘奥義。

きっと全く同じには再現していない。会得していない。いや、既にケンシロウに破られている。だが、意表を突く一手にはなろう。

 


俺は自分の為にしか戦えない

 


限界点は過ぎている。ここから更に力を出すには、更に生命に踏み込まなければならない。

 


影力!

 


「む! シン!」

 


戦闘ではなく生命活動に回される氣を持って来る。更に地獄の蓋を開け憎悪の力を解放する。解放しつつギリギリのところで制御する。

それは闇を踏み付ける彼の銀色の闘気。銀と暗黒の氣が靄の様にシンから湧き出る。

シンを中心に数メートルを満たした時!

「おおお!」

 


「まだ、これほどの力が!」

 


今度は拡がった銀と暗黒の闘気が渦を巻きながら、その渦の目にいるシンに戻る。どんな氣であれ、集中し研ぎ澄ますのが南斗聖拳

 


満ちた!

 


南斗聖拳極技!虚塵廃體!!」

 


サウザーの羽根と化す秘奥義、、シンなりの解釈に加えて、かつてガルゴに見せたこの奥義を更に練った新解釈の極技。

闇を呑み込み銀に統一された闘気を内に秘め、シンは身体の表層を「羽根」で覆った。

無意識無想ではなく、意識と無意識の狭間にあって、そこに溶け入る極致の技量。至高の一点。

もう今この時しか使えないと確信する秘中の秘。ケンシロウ相手だからこそ、ここまで追い込まれたからこそ、「覚悟」を有したからこその秘奥義。

 


フワッ

 


天翔十字鳳と異なり跳んではいない。

無想転生と違い実体はある。

だが、技量と覚悟と、そして身体に張り付いた無数の銀の羽根が、ケンシロウの死の秘拳を一瞬一手先に感知する。

そこに、、ケンシロウの氣起こりあれば!

 


羽根のような軽さでシンは出た。それなりに速いが、神速の手前。異様なのは床面に及ぼす影響がほぼない。

シンが駆けているのに、床面の塵がほとんど浮き立たない。

 


ケンシロウ、、無意識がキサマの拳を感じ取り、意識でそれを避け、そして討つ!

これが、ここが南斗聖拳まことの窮み!

 


南斗聖拳は人の拳の極限! 人の拳、神に届くか!?

 

 

 

 


ザッ

「ん? お、寝ちまったか」

その足音に気が付き、居眠りから覚めたのは、今や「一人」で南斗双鷹拳を再編纂途中のギルだった。

かつてのショーレスラーのような身体はしていない。南斗聖拳らしく痩せて精悍だ。

一見すれば痩せた分だけ神経質にも見える時があるが、性根の図太さは変わらない。

北斗南斗の頂上決戦の最中でも、壁に隔てられた舞台の上の出来事はわからない。

決着次第では、いや、どんな結果になろうと今後の南斗諸派に及ぼす影響は甚大だろう。だが、この男には居眠りをこく無神経さがある。

 


「ダメじゃん、ギルさん。スキだらけだよ」

「おう!」

振り返るギルの先には銀髪の若い男がいる。

ガルダ君! はん、いいんだって。殺気がある相手なら気付くから、多分」

と、ギルは笑う。

「まあ、やっぱりここから、、だよね」

北斗南斗の、あのケンシロウとあのシンの対決、、一度はケンシロウに立会人を申し出、受諾はされたが、二人の晴れ舞台の場所が知れなかった。

二人は待ち合わせもないまま、不思議と舞台に辿り着き、そして「幕は上がった」。そこに呼ばれなかった。導かれなかった。

 


「あん?何がよ?」

「うん、いやねぇ、、やっぱり二人っきりにさせないと、ダメだよねぇ」

銀髪に、今日は漆黒のマント。羽根飾りの付いた肩当て。

しかし、これまでと違いガルダは飄々としている。常に思い詰め鬱屈とし殺気立っていたあの頃ではない。

「なんか変わったか?ガルダ君。フハ!あの仮面もしてないしな」

「あぁ、あれね」

「傷や火傷跡があるってのは、ただの噂か。それとも、自分で流した嘘か?」

「、、、」

「だよな。でもわかる。俺も前はバカみてえな格好してたからよ。昔でいう何だっけ?中学生が陥りがちな、あの」

「そんな病じゃないよ」

少しの気恥ずかしさを誤魔化すようにガルダは顔を上げた。やはりの蒼天。

「遥か彼方の蒼天が、今日だけはあそこにも降りて来てる」

と、遠くの折れ曲がったタワーに目を移す。

 


「いやいや、誤魔化してもダメだから(笑)」