妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

149.

シンは苦しみの最中に笑っていた。
苦痛に顔を歪め、呻き声を発しながらも、それと同時に口角が上がるのを抑えられない。

バルバの暗黒の呪気は南斗の裂気を靄のように溶かし、そして蒸散させる。
その作用は体内にまでは及ばないものの、宙に浮かされた状態では、氣力を身体能力に回しての脱出もできない。その足場がないのだ。

紛れもなく窮地である、、、、、ただし、ハタから見れば、だ。
そして当のバルバからしてもシンを追い込んでいるという見立てに変わりはない。

シンは自身でその暗黒の氣を浴びたことにより、その性質を理解した。確かに南斗の裂気は通用しない。

なのだが、、、

「闇で斬れ」

以前、繰り返しバルバが言った言葉がシンの心内で反響した。
このバルバほど、膨大な闇の闘気は操れない。一時は狂気に身を委ねたシンであっても、バルバの狂気とは類が違う。
「斗」の拳を究めし者が、完全に闇に堕ちねばこれほどの呪気は使えない。
どう足掻こうと決して戻れぬほど、暗黒の泥沼に浸り、沈み込んで沈み込んで尚も底がない暗い深みへと堕ち続ける。
それで初めて到達できる魔域である。比較すればシンの闇など、ただの日陰に過ぎないほどだ。
とは言え、それでも闇は病み、狂気は凶気である。氣の性質に差はあれど、氣を一点に集めて研ぎ澄ますのは南斗聖拳の伝統芸。
宙に浮かされた苦悶の状態から、シンは右手の指先に「闇を集めた」。
バルバの呪気の量は凄まじい。だが、シンの指先は、バルバとさえ比較できないほど高密度な黒ダイヤの如き暗黒の刃として錬成されていた。

距離は十分!

シンの刃は、約2m下方のバルバを優に射程圏内に収めている。
己の敗北を思いもしないバルバに暗黒の一刀を振り下ろす!
呪気に苦しめられながらもシンの思いは黒く沸き立つ。血が滾るように、黒が滾る。血がドス黒く重くなるように感じられた。

俺を倒せると思っているのなら、自分でケンシロウに挑めば良かったであろう?
それ叶わぬと知っていたから、俺に目を付けたのだろう?
そのキサマが俺を斃せると?
愚か者め!キサマの年は飾りだ!役に立たぬ!

死ねい!!!

シン本人も気付かぬうち、その銀髪は黒き魔闘気で染まり、その目はバルバと同じく深い暗黒の二つ穴と化していた。

シンはバルバの呪気に浮かされた不安定な中で腕を上げた。
引きちぎられそうな痛みは変わらずだったが、その後に訪れる勝利の愉悦を思うと、顔も綻ぶ。
そして、剣を、南斗聖拳の裂気とはまた異なる黒い刃を振り下ろそうとしたその寸前、視界の端に黒い影が映り込んだ。

「(蝙蝠!)」

蝙蝠がこちらに疾っている。南斗の氣を全開で疾って来る。その表情からわかる。またしても蝙蝠はこの俺を助けに!!
決意の目!

「蝙蝠!!」

暗黒の中、青紫と白銀が混ざる微かな光が鋭く煌めいた。






「ちっ、、またこれかよ、オッサン」

浅い一撃がガルダの腹部を捉えていた。弱い痛みの他に僅かな痺れを感じるが、それもすぐに治まり、ダメージはゼロだ。
もちろん、南斗神鳥拳のガルダもやられてばかりではない。同様に浅いが、神鳥の爪は西斗月拳の男シュラインの腹部を斬っている。
秘孔点穴を極められていない軽い一撃では勝負に影響しない。一方で、浅いとは言えガルダの一撃は確実にシュラインにダメージとして蓄積されている。

、、、ガルダケンシロウの真の北斗の拳を受けている。
ケンシロウの情により秘孔術は解かれたが、必殺の北斗神拳をその身を以って知っている。
だからわかるのだ。シュラインの拳に危険はないと。

「そうか! オッサン、アンタ時間稼ぎか!?」

ガルダと同レベルの猛者であるシュラインが、必殺の間合いを割らずにちょこちょこと拳を交える様子は、
もちろんそれはシュメの棟梁モウコから見ても超絶的世界に住む半神半人たちの別次元の戦いなのだが、
当のガルダからすれば、何かの時間稼ぎと思われても仕方がない状況だった。

「フフ、そうじゃあない。言ったろう? お前にはわからないことだ。これが真の最強拳西斗月拳の戦法」
「こんなんで最強は盛り過ぎだろ」とガルダは苦笑した。
「生徒が月経で、流石のエロ教師も突っ込めないってな! あ、突っ込むって秘孔にな。ん?秘孔といえばアレも秘孔だな」

ガルダは両手を腰に大袈裟に笑った。シュラインへの警戒はそのままに。

「あ?」

シュラインへの挑発は大成功であった。
ガルダとのギリギリの魔合いを往き来しながらも、すかした様を貫いていたシュラインの苛立ちが激しい。

「我が拳を侮辱することは、月氏の神を侮辱するということ。ガキにはそれさえも、分からん、、」

ブワサッ!
シュラインが跳んだ!

「、、かくら!!」

シュラインは氣で満ちた虎爪の拳でガルダに攻め入る!

遂に来た!
この間合いは深い!
ガルダもシュラインを迎え撃たんと素早く、南斗の軽功術で石床を砕きながら前突進した。

「南斗神鳥拳奥義! ?? なに?」

ガルダの読みは覆された。
シュラインの跳躍は距離が短い。間合いは浅い。

「くっ」
攻めの奥義に氣を集中していた分、間合いを空かされたその隙は大きく、体勢を戻すのに一瞬の遅れがあった。
両者の間合いは浅いが、一瞬の利を得たシュラインには必殺の好機である。

だが、、、

「ぬ?く!」

やはりシュラインは間合いを割らずに、浅い一撃をガルダの右胸に極めただけで、次の瞬間には距離を取り、安全圏へと避難している。
安全圏とはいっても、南斗の長い手による追撃なら届きはするが、流石にそれをもらってくれるほど、シュラインは鈍くも親切でもない。その意味を込めての安全圏だった。

今回は完全にガルダが打ち負ける結果となった。
だがだ、、、また浅い一撃である。その痛みと痺れはすぐに消え去った。

「、、、、」

ガルダは訝る。
ガルダの若さを逆手に取り、有利な状況を作り出したシュライン。「無名」でありながらも、かなり戦い慣れている。

「オッサン!疲れたのか? なんで今の間合いでも一発太いのをぶち込まないんだ?」

心内に生じる小さな焦りを悟られぬよう、ガルダは悪態を吐いた。
対して、今度はシュラインが両手を腰に当てる高笑いをして見せた。

「西斗月拳は一撃必殺を謳い文句にした人気取りの拳とは違う」
「何だと!?」
「それでも俺は貴様の拳を侮らない。勝利を確信し深く踏み込めば、思わぬ機できつい一撃をもらわんとも限らんだろう?
西斗月拳は戦場の拳。戦場の拳なのだ。その意味は貴様の最期に理解させてやる。小僧」