妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

155.

「フッフフ、フフフ」

 


シュラインは細い石造の道を走っている。一人走っている。

ガルダの爪による傷と氣炎で焼かれたダメージは軽くないが、並の人間以上には走れていた。

走りながらシュラインは笑っている。

途中すれ違う者は誰もいない。既にこの聚聖殿は、ほとんどもぬけの殻と化しているだろう。

切り札であった彼自身が敗れ去り、南斗宗家も滅びを待つばかりであることは想像に難くない。かのバルバもどこで何をしているのやら。

そんなことはどうでも良かった。

若造と侮ったガルダにしてやられたのは屈辱だが、奴の甘さがおかしくて、それでシュラインは笑っている。

ちょっと改心したフリをして、「このまま焼け死ぬとしよう」と一芝居打てば、すぐに情が揺れて氣の炎を自ら消し去った。

 


全く、、この国で育った連中は、、、とシュラインはその甘さに呆れる。

 


闇側に属する人間だというのに、平和ボケはそこまで侵食していたか。奴らはすぐに「道」だの何だので飾り付ける。

南斗聖拳も戦場の拳だぁ? 笑わせる。

どんな手を使おうと勝利し生き残るのが戦場の拳であろう。

ガルダの行いは愚の極みだ。戦いはこれで終結したと思っているようだ。敵の息の根を止めてこそ勝利となるのだ!

 


「バカめが!」

 


シュラインは一人吐き捨て、笑う。

だが、焼かれボロ切れとなった衣服、多数の傷、ガルダたちを嘲りながらも歪んだその表情は、シュラインが敗北者であることを語る。

 


 


「あのオッサン、いつの間に消えたのか、、」

ガルダ様、見事でした」

と、シュメの棟梁モウコは片膝を着き、激戦を制した若き南斗聖拳に敬意を示した。

そして、付け加えたいことがあった。今言わねば、次に会うことはないかも知れない。場違いなのは理解しているが、今しかない。

南斗だろうとシュメだろうと、この過酷も過酷な狂える時代に安易に約束できる、そんな「次」はどこにもない。

それに、強敵シュラインによるダメージはどう見ても浅くはない。実際、ガルダのダメージは軽くはなかった。

何よりも深刻なのは、秘孔封じのため自ら身体の一部を氣によって滅殺したことによる酷い傷だった。

南斗の刃で秘孔の流れを断ち切ることも可能だったが、ガルダ経絡秘孔にそこまで明るくない。

故に、氣によって秘孔周囲の細胞を滅殺せざるを得なかった。

下手を打てば命に関わる危険な行為ではあるが、そうしなければ西斗の多撃必殺の秘孔術で命を落としている。

やらない選択はなかった。

死戦を生き残ったガルダだが、少しばかり長い目で見るなら、生き残ったとは言えない事態も考えられる。

 


ガルダ様、私はご存知の通り、南斗将星サウザー様にお仕えする、シュメの中でも特別な役目にある者です」

 


南斗聖拳が一枚岩ではないように、それぞれに仕えるシュメも自然とご贔屓の流派に固くつくようになる。

その一方で、南斗慈母星の空位を埋める補欠のような南斗亡星神鳥門の立ち位置は、あまりにも冷遇されていた。

南斗108派にも含められず、シュメを使役することもできない。何故にここまで冷遇されるのか。

それでいて慈母星不在の時代にあれば、非公式ながら六聖拳に数えられるという栄誉にも与る。

理由はちゃんとある、、、

その理由故に忌まれ、そして神鳥拳の力が故に崇められていた。それは「陽」として広く唯才を掲げた南斗聖拳だからこそ、であった。

ガルダがそんな自分たちの処遇がために組織南斗聖拳を疎んじ、「南斗神鳥拳は南斗聖拳ではない」と言うのも、彼の若さだけが原因ではない。

そして、天帝守護という誉ある役目を放棄せずにいた元斗皇拳の中で、暗殺という穢れた役を引き受けたガルゴに、何かしらの共感を持ったのも、その背景があるからである。

 


「誤解は、、説いておきたく思います。サウザー様は神鳥門の村を襲撃してはおりません。ビナタ様のお命を奪っても」

「いいんだ。知ってたさ。知ってたというか、、そうじゃないかと思ってた」

と、ガルダは白い街中の白い家の前にある白い石段に腰掛けた。その様子はいかにも重傷者そのものであり、西斗月拳との壮絶な戦いを無言で告げる。

「だが、サウザー憎しでこの拳を磨いてきた」

と、自分の手を見やる。磨いてきたという表現よりも、岩場にぶつけ続けたかのように粗い、彼の誇りの、神鳥の爪脚だ。

強敵西斗月拳のシュラインに勝利したことが彼としても喜ばしく、その「醜い」両手が一段と愛おしい。

 


そう、、予想はしていた。

南斗聖拳にあっても破格で、闇の世界の人間ながら陽の男サウザー。決して陽気な、という意味合いではないが、サウザーは間違いなく陽の男。

もちろん、帝王というものがそんな単純な話だけではないことも知っている。サウザーが裏で人を使い暗躍したことも人伝いに散々聞いてはいる。

南斗の将の将とはいえ、やはり一人の将。独裁の将星といえども他の五将たちを無視はできない。

シンもレイもユダも、一個の将としては個の力以外は心許ない頃であったが、一人の将には有力な補助者もいる。

他にもユリアを南斗の真の将として囲む者たち、そして何よりシュウがいた。

六聖拳の重鎮シュウがいて、サウザーのそんな暴挙、いや虐殺を許すはずはない。

もちろん、許さないと言っても独力でサウザーを止めることは難しいが、反対にサウザーとて純粋に力だけでは南斗聖拳組織を掌握することはできない。

その状況で南斗聖拳の有力流派を急襲し、村ごと滅ぼすというような、それほどの大事を、悪い意味でも注目の的であるサウザーが、

シュウのみならず南斗諸派の重鎮たちに知らずに行えるわけはないのだから。

そんなことをしでかし、そして知られることになれば、それこそサウザー打倒の理由を反目派に与えることになる。

さらに付け加えれば、あのサウザーが南斗神鳥拳を恐れ、或いは邪魔であったとしても、村ごと滅ぼす理由はない。

何らかの理由をでっち上げ公に断罪する、そのくらいのことはやれる男のはずだ。

となれば、、、恐らく全ては南斗宗家の仕業だろう。南斗亡星という特異な立場にあるガルダに「保険」をかけていたのだ。

サウザー北斗神拳を倒せなかったときの、せめてもの保険として。

 


掛け捨ての使えない保険だったな、、、俺は。

 


ガルダの全身から力が抜けて行く気配をモウコは感じた。

ガルダ様、、、ガルダ様!」

今や風前の灯と言ってもいい現在の南斗聖拳は、惨状という言葉もさほど言い過ぎではない。

モウコは南斗将星専属のシュメではあったが、この状況では、忌み血とされようと有力な拳士の生き死には、自分たちに直結する大問題である。

ガルダ、、様、、、」

 


しかし、、

スゥ、、スゥ、、

 


「寝息!?」

 


モウコは笑った。

再び動き出した天帝軍と、精鋭のみで構成されたシュメたちがちらほらと姿を見せ始めた中で彼は微笑んだ。

先ほどまでの死を匂わすような刺々しい緊張感は既にない。この空気は勝軍による最後の後始末のものだ。

とは言え、モウコに油断はない。ないが、彼の険しい目も幾分か和らいでいることに気付く者は、馴染みのシュメの中でも数人程度だろう。