「レイさん」
ケンシロウ救出に出る前、そう声をかけて来たのはシュウの息子、シバだった。
「どうした?シバ」
「余計なお世話かも知れませんが、、」
とシバは砂色のバックパックを持って来た。大分膨らんでいる。
「これは?」
「これは、、こんな時もあろうかと、密かに用意してたものです」
とシバは何故か恥ずかしそうに顔を背けた。
受け取ったバックパックの中身を、俺は確かめた。
「! シバ、これは、、、」
「レイさんが行くとなったので、これを託します。必要ないかも知れませんが、念のためです」
「シバ、お前こんなものを、、、」
澄み切っていると言ってもいい笑顔のシバと、バックパックいっぱいに詰められたブツは、まるで真反対の存在のようで、俺は戸惑った。
「これは、先生の力添えなく、私だけで作ってみました。まとめて爆発させたらそれなりにはなると思いますけど、、使ってみないと、、、」
私、、か。レジスタンスと言えば聞こえはいいが言い方一つ、ゲリラと言ってしまえばそれまでだ、俺たちは。
南斗聖拳だって決して華々しい組織ではないが、それでもあの界隈でなら、黒く艶やかな花弁いっぱいの、匂い立つような大輪の花だった。
その最高峰に立つ男、仁星、南斗の重鎮にして良心、白鷺拳のシュウ。それを父に持つということは、このシバにも重圧ではないだろうか?
そんなシバがこんなものを作るということ、、、「爆発」はこのシバの鬱憤というか、、何かを象徴しているのではないか?
そんなことを、俺は考えた。
「フッ、わかった。だがこれを使わずに越したことはない。安心してくれ。これよりも、俺はコレでケンシロウを救い出して見せる」
と、俺は右手の甲をシバの輝くような瞳に向けた。
決してボンボンなんかじゃない。シュウの息子だからって優遇されて来たかどうか、、、
敵をあのサウザー、聖帝勢力とするこのレジスタンス。甘くないのは想像に難くない。なのに、その辛さをまるで顔に出さない。
そんなお前の強さが、俺には染みる。こんな時代を終わらせるのは、シバ、お前のような目をした、俺よりも若い世代なのかも知れない。
そうであってほしいという、俺の願いなのかも知れない。
お前の光は消せないよ。
だから、お前にこんな真似はさせたくない。俺か? フッ 俺は、、もうこの程度で汚れるような余分な空きはない。任せろ。
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「ユダ!」
背後から目で突き刺して来るユダに、声と視線で覚悟を示した。
まだ奴との距離はあるが、奴が本気になれば、この距離も錯覚だったのかと思えるほど近いものになる。
だが奴なら、、俺の視線の中に、一物あるを悟るだろう。
、、、やはり。
ユダは怪訝な表情を刹那浮かべた。だから奴は飛び込んで来ない。間合いを詰めて、しかし詰め過ぎずの裂波で来ない。
「貴様ら追え! 捕らえよ!」
騒がしい今宵にもよく通るユダの声。自ら来ず、兵を動かしての様子見だろう。
いいのか?それで。
いかに俺がケンシロウを背負っていようと、いかに太腿に一本突き刺さった後でも、飛び道具を持たない兵卒に、俺が遅れを取ると?
「ダガール! ギタイ! ゴウライ!」
「!」
それを聞き、俺は戦慄した。
ユダの右手と言えばダガール、なのだが、そいつ含めたユダのお気に入りで妖星麾下の「三爪」と称される拳士がいた。
それぞれが南斗中堅程度の流派の使い手だが、それがここに集ってやがる!
三人! 三人か、、、いやそれより何よりこちらの状況! 太腿の負傷が急に枷になった。
そして背負うは乱世の希望、、、
やり合ったら勝ち目は薄い。そんな状況だ。
「シバ!」
とだけ、何故か俺は叫び、胸の前に掛けてあったバックの導火線を摘んだ。バラにしても使えるし、一気にバン!とも使えるよう導火線が組んであった。
指先に氣を集中し熱に転換する。さほど得意でもないが、ライター程度の火なら容易だ。
チリチリチリッと小さい火が、俺の思っていたよりも速く線を焦がし落として行く。
少し慌てた俺は急いでショルダーストラップを切り裂き、そして振りかぶった、奴らにむけて!
ユダ!お前ならこれを投げても爆発前に回避するだろう? 三爪はどうだ? 一人くらいは逃げるか?確実なのはこれで兵たちはお陀仏ってことだ。
「そら!」
幾分かハイになっていた。それでも十分にこちらが安全圏となるよう遠くへ投げた。
爆発というものの力は侮れない、決して。
そのくらい知ってるつもりだ。爆発物を所持した敵との戦闘も想定されていたのだ。旧世界では。
そして、、
光ったのが見えた。
シバ、、、お前、天才だよ。いや、天才すぎる!
その爆発は、かなり大きく膨らませた俺の想像を絶するほどで、、、
世界は、、
核の炎に包まれた、、、、
そんな勢いだった。