妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

レイ.36

バックパックを胸の前に掛け、そして瀕死のケンシロウを背負った。
いかに南斗水鳥拳伝承者でも、大の男をおぶってまで、自由に動くことは難しい。もちろん、この状態でも常人よりは遥かに超人的に動くことは、可能だ。
しかしだ、そう、しかしなのだ。
外の騒ぎからして、陰に隠れてこそっと脱出というわけには、行かない。
それよりも先ず、サウザーの脇を通り過ぎなければならない。それがどれだけの難易度を誇る問題なのか、この期に及んで俺にもよくわからない。
やはり、この壁を破壊して進む方が、時間はかかるが安全だ。いや、時間がかかるというだけで安全ではない。
俺は胸のバックパックを睨むように凝視した。この中身が、、脱出の鍵だ。

「ん?」

声、、サウザーと、何者かが話している?
さっきの強い氣を発した者であろう。
予想はある程度つく。というより、奴しかいない。
むしろ、そうであってほしいと、俺は願った。何故なら、そんな面倒な男がまだいるなんていう現実に、俺は耐えられないだろう。

ラオウしかいない。

だが何故?

とにかく、今は好機。ケンシロウを背負ったまま、俺は来た道を引き返す。


「フン、やはり貴様ら北斗は、南斗聖拳には負けられんという意地があるようだな」
「笑止! ただうぬを倒すためにケンシロウが必要なだけだ」
「ほう、あの死に面した小僧のどこにまだ利用価値があると?」
「物書きどもが現れた途端に饒舌だな、サウザー。それとも上等なワインに酔いが回ったか!」

 

二人のやりとりを聴きながら、俺はスキができることを願った。その時を待った。
それにしても、サウザーの相手はやはりあのラオウだったか。
奴らがこの乱世の初期も初期にやり合ったことは、俺も聞いている。
互角の戦い、そして互いに余力を残しての痛み分け。
サウザーラオウも自ら軍を退くことも、わきに逸らすことも良しとせず、なんと、両軍すれ違いながらその場を去ったという。

 

サウザー! うぬの秘密を解き明かすのにケンシロウより相応しい者はおらぬ! 純粋な拳士としての能力はケンシロウのが上だったようだな」

 

高笑い、だがそれはサウザーだった。

 

「フッハハ。バカをいうなラァオウ。貴様にそれを報告した者は、俺の遊びが本気に見えたか。それに、小僧が俺より上なら、貴様よりも上であるということだ」
「ぬう、、」
「たしかにさすがは正当伝承者。かつての貴様が見たように光るものはあった。だがあんなヤワな拳ではこのサウザーの不死身の肉体を破れはせぬ」
「ほざけい! 貴様など、秘密さえ掴めばただの妄想狂。この拳王の拳にて粉々に砕いて見せるわ!」

 

秘密?
サウザーに秘密?だと?
ただでさえ、南斗聖拳最強でありながら尚、ラオウケンシロウでも解けぬ謎があると?

は!
二人の話に集中し過ぎていた。逃亡経路を確認せねば。

 

「その秘密が故に、拳の王様を名乗りながら逃げたのであろう?」
「やはり妄想が好きか?サウザー。うぬこそ我が剛拳に恐れをなし勝負の時を延ばしたのであろう」

サウザーの両脇の二人組は忙しく、この二人の王のやりとりを記録している。
、、、どうだろう?
今走れば、あのサウザーラオウとの睨み合いをやめてまで追って来るだろうか?
それは、あまりに聖帝サウザーという男にそぐわない。
しかし、そうならない保証もまたない。

 

「勝手に歌え、ラオウ。貴様とは天の下の全てを賭けて戦いたいのだ。こんなむさい男たちの前で、しかも夜に決するような勝負ではない!
俺は聖帝! 我が道には、迷いも弱みも心咎めもない。正々堂々真昼間、全ての目の見つめる中で「覇」という一本の柱をおっ立てる!!」
「奢るかサウザー!!」

 

黒い服が大柄な身体に、意外にもよく似合っているラオウが激昂した。
くっ!この強力な氣!
いや、受けるな、逆らうな、流せ。或いは流れに乗るんだ、レイ!

 

「うぬこそ、言い訳を重ねこの拳王との対決を避けるつもりか! その証拠にアレ以来、うぬは身を潜めていたのではないか!?」

 

ラオウ、、、ここでやる気なのか?
それならもうやってくれ! そして二人とも相討ちで消えてくれ!
そうなればこの世界は、、世界は、、、、

、、、、、、、ケンシロウが治めるとでも言うのか? サウザーの言うとおりだ。
この二人が共倒れすれば、世界は平穏には、、ならない。また再び、今よりも更にまとまりのなかった乱世初期の混乱に逆戻り、ではないか?

 

ラオウ、、挑発するな。俺の覇道は思い付きではない。故にはじめが肝心なのだ。土台がヤワでは巨大化したとき総崩れとなろう」
「いかにもサウザー、うぬらしいわ。たまにはその賢い頭ではなく」
ドン!
「この心の思うままに進んでみい!」
ラオウ、、やはりお前は大した男だ。この聖帝が最大の朝敵とみなす男。お前は伝説だ。後世、拳王の伝説は多くの民に語られるだろう」
「次は誉め殺しと来るか?サウザー
「だが!!」
「、、、」
「この聖帝は神話となる男。貴様のことは民が口で語ろう。だが、この俺は歴史が語る! 見ろ! この一歩が悠久の歴史にサウザーを刻むのだ!」

 

サウザーが踏み出した!?
まさか、ここでやる気なのか? さっきはやる気を見せなかったが、ラオウの挑発に?

 

「ぬかせい!!」

 

ラオウも?か!?
どぅを!!
また強力な爆流が如き闘気が! ちっ、流すんだ。

 

「は!」

俺は見た。爆流闘気で聖帝兵たちが後退り、記録官が意地でペンを止めない中、サウザーだけは、この闘気を切り裂いている!
ラオウとは性質の違う鋭い南斗の氣。身に纏った南斗の裂気が、爆流をサウザーの前で斬り分けている。

なんという二人!

トキ、教えてくれ。この二人や、あなたと俺の差は、実はそれほどでもないと、、本当に言うのか?

 

「は!」

 

またもや俺は二人のやり取りに気を取られていた。

!!

だが直後に気が付いた。
わざとだ!
ラオウはわざと激昂して見せている!
俺たちに背を向けているサウザーラオウとの油断ならない対面がため、俺たちに気が付いては、恐らくない。
一方でラオウサウザーと向き合っていても、俺たちの姿が目に入ったのだろう。サウザーの背後で脱出の機を伺っている俺たちに気が付いた。
だからだ。
敢えてサウザーの気を引くべく、大袈裟に振る舞い、俺たちの脱出を、いや、正確にはケンシロウの救出を手助けしているのだ。
それが仮に、ラオウが言うようにサウザーの秘密とやらを暴き、自身の勝利のためにケンシロウを利用しようと考えてはいても、だ。

 

流石にこの機を逃すような俺じゃない。
ケンシロウを背負っていれば、確かに重く遅くなる。
だが、今のところサウザー以外に、そんな「遅い」俺たちを捕まえられるような奴はいない。
もし、ユダが突然に現れたとしても、俺にはコレがある。

そのバックパックならぬ、フロントパックの中身を頼りに、俺は、俺たちは「ゆっくり」と、しかし、その辺りのモヒカン野郎たちの誰よりも速く、街の外を目指した。