妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

194.

敗れた、、、肉体の損傷を覚悟して踏み込んだ必殺の間合いに、奴はいなかった。

 

これは、、、ずるい。

 

思わずシンは笑った。

互いに限界の果てにまで及びながら、最後の最後で北斗の究極奥義を出すとは。いや、まさに無意識に発動したのだ。あの、

「無想転生が」

 

無想転生を破らずに最強の北斗神拳伝承者を倒すことは不可能だった。

常時発動しているわけではないだろうから、その隙間に倒せる目はあると考えてもいたが、ここぞの場面に来るのが、このケンシロウだった。

 

シンは自身の肉体を内視した。少なくとも戦闘継続可能な状態にまで誤魔化すにはまだ時間が要る。

最大の勝機と見た先の場面に代償として支払った損傷という代価は、この一戦にあっても、これも最大だった。

当然、ケンシロウがそのシンの状態に気が付かない理由は、残念なことにどこにもない。

シンは何とか体内で調氣し、回復を待つが、よく聞く鉛のように身体が重いという感覚を味わっていた。

回復どころか遂には右膝を着く有様だった。

 

ケンシロウがゆっくりと迫る。その目は悲しいが、強い決意が目ではなく氣から感じ取れた。

 

「シン、この一撃がこの戦い最後のものとなろう」

 

それでもシンは氣を調え続けた。ケンシロウが「最後」と言ったその一撃にスキはないか?

思考が定まらない。油断したら身体が眠りに落ちそうだった、、、死という名の眠りに。それでも氣を調え続けた。

 

違う、、、ここではない、、、

 

「?」

何がだ? 何がここではないのか!?

シンは無意識に浮かび上がる自身の思考の意味と理由がわからなかった。

だが、そのお陰で一瞬冴えた思考が細かく砕けたフロアや壁の欠片が散らばる自身の足元に、「印」を見つけた。

 

「フフ、フ、、、ケンシロウ

身体を起こして顔を向けるのにも体力を消耗する。だから目だけでケンシロウを横目に見て、シンは話した。

「拳士として至高の、この神域の舞台での戦い、、、だが、キサマの奥義は破れず」

「、、、」

この会話で回復までの時間稼ぎをする? そうであろうと無想転生を身に付けた最強者ケンシロウに油断はない。

 

「或いはキサマとのこの戦いで殺気を見切り、俺も南斗聖拳の無想転生に辿り着くことはできんかと思っていた」

しかしケンシロウに、究極の暗殺拳に過剰な殺気はない。むしろ、死を優しく受け入れさせるほどだ。

その実、優しさに似て非なるものがある。考え様によってはそれこそが最恐だった。

 

「すまん、、、そんな奥義など撃ち破ってやるつもりだったが、甘くはないな」

「、、、」

「勘違いはするな。謝ったのは俺が無想転生を破る程の技を持たなかったことではない」

肉体の悲鳴は治まった。回復ではない。そうではなく、漸く満ちた氣が身体を熱くしていた。

 

「俺が謝ったのは、拳士として全て、、技だけでなく紛れのない崇高な志を以って挑むという天帰掌の誓いを汚すから、、だ」

「なに、、?」と返すケンシロウには、やはり一毛のスキもない。

 

「俺は、キサマがここに着くより先にここにいた」

ガクッ、、体勢が崩れ、シンは両手を着いた。しかし氣は全身を急速に流れている。その氣は圧力さえ発生させ、その逃げ場を探しているかのようだった。

 

「俺のような小悪党が、ただ一人ここにいるとな、フフ、、馬鹿なことを考える!」

ギラッ! シンの顔に血色が戻っていた。

 

「仕掛けをしておいた!」

「!」

「破!!!」

 

南斗聖拳の氣でもなく、元斗皇拳でも北斗神拳でもない、ただの圧力の氣を下方に向けて爆ぜさせる!

 

ケンシロウ!! こんな方法しかあるまいよ!!」

 

インペリアルタワー展望台の床が崩れ落ちた。

193.

ここが真の勝負所、、とまでは思えない。

だが、この死闘の幕切れは不意に訪れるのかも知れない。

死闘の濃度の高さに、その幕切れの壮絶さが比例するわけではないのだから。

ましてこの舞台にいる二人は至高も至高、最高の拳士なのだ。一瞬の場の綻びが勝敗に直結する。

南斗聖拳はかつて拳を交わしたことのない「未知」と戦っているのだ。

シンは、サウザーの羽根と化すあの奥義と、そして元斗皇拳から着想を得た独自の秘技で、二度目の跳躍を見せた。

その二度目も彼らにとっては低い跳躍。一度目は約2mの高さの跳躍飛翔だったのを、「動」に転じた今回はやや高い。

この秘技、シンとサウザーそれぞれの性質は違えど、生み出す結果は似ている。

サウザーの秘奥義は相手の攻撃を回避し、ほぼ同時にすれ違いながら反撃を加える。そうなることをケンシロウは知っている。

いかに「視る」ケンシロウとは言え、この猛撃を受け続けるのにはリスクがあった。一方でケンシロウには元斗皇拳との連戦経験がある。

シンが編み出したこの秘技も、サウザー戦と元斗戦の経験から既にその性質を見切っている筈である。少なくとも予想は立てていよう。

よってケンシロウの「動」を確実に引き出すため、シン自らが「動」に転じたのだ。誘いであっても本気の殺気。

 

これでキマるならキメていい。


シンの腕が夥しく増殖し、その一本一本がまるで怨嗟に近いような飢えを以って極上の獲物に食い付き、喰らい尽くそうとする。

一方でその胴体には氣の羽根を重ねた防膜がある。同極の磁石が反発するようにケンシロウの拳を逸らす。

いや、そうではない。その反発を感じて動くのはケンシロウの拳ではなく、シンの身体。

防膜の反発を感じるその無意識の最短反応で、動けない空中であっても身体を捻り、或いは自身の拳にて回避する。


、、、そんなことはケンシロウも知っている、とシンは読む。だから、、、

 

奴は「撃つ」のだ!と。


ススッ、、、

「!」

予想外!

その想定がないわけではなかったが、ケンシロウは「あの奥義」で撃ち抜くでもなく、素早いながらも静かな足捌きで飢えたヒドラの千の首をやり過ごした。

止まった時の中で自分だけが次元の異なる存在だと言わんばかりのその麗舞の域に達したケンシロウの動き。

シンはそこに南斗水鳥拳の要素が、、いや!奥義があるのでは?と軽く沸き立った。

だが、千の首その拳には雑味がない。着地点となるフロアを斬るや砕くはゼロ。それでも確実に空間は斬られている。「流血」の間もないほどに。

その着地の瞬間を、、ケンシロウは狙っていた。奥義を躱され脱力するその一種をケンシロウは見逃さない。

ターンするようにヒドラの牙を逃れたケンシロウは、西部劇のガンマンが背後を撃つかの如くに左脇の下から右手の「銃」を撃ち放った!

まさに弾丸のような氣の秘孔点穴。北斗神拳のこれも究極の奥義である、あの「天破活殺」!


しかし!!


読み勝ったのはシンだった。本気の殺気を纏っていても、着地に一瞬の隙間があったとて、シンの読みはケンシロウの勝利に繋がる絶対の反撃を超えた!

何よりも、、、サウザーの墜ち際を遠方からとは言え確かに見ているのだ。


ドッ!


シンの右掌が「弾丸」を受け止める!

その衝撃の強さに驚きはあった。貫通させない分、全てが瞬間の衝撃に変換され、粉々になり弾け飛び、、消える。

南斗聖拳の裂の氣を右掌に集中させ、点と線の裂気を面にした。受け止めながら破壊した。それで尚強い衝撃だが、想定範囲の内。範囲内ギリギリの上限!

強大な闘気をこれほど圧縮し、且つ弾丸の如くに撃ち出す。いかにケンシロウと言えど、直後にスキがないわけがない。ないわけがない!

ケンシロウがシンの秘奥義の終わりを狙ったように、シンにとっても最大の勝機がここにある!


サウザーの敗北が、、、幾度にも亘る南斗聖拳の敗北が、此度はそれを見て尚ここに生きているシンに、確かな利となった。


右掌に集めた南斗の氣は天破活殺と相殺している。ここで詰めねばならないが、新たに氣を練るその暇はない。体内に残る氣と、そして肉と骨の力を使い、、

ダン!! シンは出た! 踏み込まれたフロアが砕ける。暗殺拳同士の戦いには不似合いな雑な力だ。

限界をまたも超えた。だが構わない。ここで体勢が整う間を待っては機を失する。

「ぬん!」

身体のあちこちが損傷した。踵の骨にヒビが入り、脚の筋繊維は断裂した。内臓にも強い負担がかかる。

全身が、もうやめてくれと懇願し泣き叫ぶように震えた。

命が、この激闘で縮んだ寿命が更に削られた。

一瞬、ほんの一瞬目が霞む。生命を守るべく身体が気絶によって休息を得ようとした。

だが!ここしかない!!

肉体が、脳が無理だと叫ぶ中、シンは強い意思を以って本能を突き破る!

「フッ」と刹那の呼吸から南斗の裂気を新たに精製する。僅かだがそれでいい。小を集め、研ぎ澄まして刃にするのが南斗聖拳だ。

裂気を、シンは弾丸を受けたと同じ右手に集めた。

ケンシロウは背を向けたままだが、北斗神拳には正面も背後もない。死角はないのだ。

必殺の間合いに入る直前から、全てを載せた一撃のモーションに入る。

左足が間合いを割って着地する。

ケンシロウに指摘された、攻めの際に僅かに前へ出る頭部のことも、氣の乱れによって乱雑に破壊する空気のことも気にしなかった。

神域に達した結露するほどに冷たく澄んだ南斗の突きでもない。

何よりも今、この時だけに賭ける一撃、、、


ザクン!!

不格好な南斗聖拳は空間を粉々に破壊し、その欠片が崩れ落ちる。


「な!!?」


しかし、ケンシロウの姿はない。

その直前に気配は完全に失せ、その実体は気付けばシンの数歩先に、いつもの様に構えた姿で、そして悲しみに満ちた目でこちらを見ていた。

 

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夕陽の柔らかな光が降り注ぐ中で、ガルダは軽やかな口調で問いかける。「ところで、天帝さんも来てるんだってね」と彼は微笑みを浮かべる。ギルは少し眉根を寄せ、穏やかな口調で答える。「天帝まで? 来ても不思議ではないけれど」。

彼の目には、かつての反逆者としての自分を忘れることはできない少しばかりの葛藤が見える。かつては天帝の支配を受け入れず、自由気ままに生きていた彼だが、ジャコウが滅びた今、天帝ルイは彼に対してまるで興味も持っていない。彼の存在すらほとんど知られていないのだ。

「あの天帝さんは陽の光が苦手だそうだよ。ずっと暗い地下に閉じ込められていた影響で眼もやられているとか」。しかし、ギルはその情報にはあまり興味がないようだ。「眼の方はケンシロウさんが秘孔を突いて良くなっているって聞いたけどね」。彼は肩をすくめる。

「だからそのお姿は見せず、豪華な山車みたいなものがあって、その奥にいるらしい」。それでもギルの興味はほとんどなさそうだ。「ほぉん」と彼は冷静に返答する。ギルの意識は違う場所に向けられているようだ。

「あと、ナンフーさんなんだけど、さっき別の場所でモウコさんを見ていたよ」。彼の言葉に、ギルは疑問を持って問い返す。「モウコって、シュメの頭の人?」。

シュメの下部組織の棟梁に過ぎないというわけではなく、モウコは南斗将星の中でも特殊で、選りすぐりの忍者たちのトップだ。ギルは元から彼とは関わりがないのだ。

リュウキさんはこないだお亡くなりになったんだけど、他にもまだナンフーさんをやる人がいるんだな」。ギルは無関心な口調で応える。「まあ、知らないけどね」。彼はモジャモジャの黒い長髪頭を掻きながら言う。

 

 

 

虚塵排體……

その奥義がサウザーのものを超えるかどうか、それは問題ではなかった。

たとえ同等であっても、ケンシロウには見切られている拳法だ。

だが、この南斗聖拳極技には狙いがある。誘いなのだ。ケンシロウの一手を誘い出すため、極技と呼ぶほどの仕掛けが必要だった。

もはや最強の北斗神拳伝承者であるケンシロウを相手にするのだから、計算され尽くした戦略が必要だろう。

サウザーの天翔十字鳳とは異なるが似て非なる大技で、ケンシロウの「視る」癖を先ず誘い出す。その間には無想転生はないはず、そう読んでいる。

シンは間合いに入る直前で低く跳躍した。彼にとっては低い跳躍だが、彼らの世界では2メートルは床面から彼の身体が離れていた。

空からの攻撃、宙での位置を変えることはできないが、身体の捻りと千の手でケンシロウの迎撃を回避する。

それは、意識を無意識に委ねるということだ。

そして、彼は声を放つ。「あたぁ!」

ケンシロウが右の剛拳を放ったが、無駄な氣を撒き散らさない強烈な一撃だった。これは明らかな有意。無想の拳ではない。

ケンシロウもまた、シンを倒せるその一撃を放ったが、その中には慎重さと様子見が混ざり合っていた。

南斗聖拳極技と言われるそれに警戒しつつ、同時に興味を持っていた。

拳が着弾するその時!

シンの身体を覆う氣の羽根がケンシロウの一撃を柔らかく払い流した。

「!(これは!?)」

サウザーのものとは違う!?

サウザーは自身を羽根と化し、ケンシロウの拳を回避した。それは極限の技量・見切り能力だった。

シンのこれは言ってみればバリアとでも言おうか、膜と表現すべきか、氣が着弾を防いでいる。ケンシロウの脳裏をファルコが過ぎる。

シンの元斗皇拳の要素も加味された南斗聖拳の新局面!

プシュッ

ケンシロウの鋼鉄よりも硬い左肩が浅く裂け、血が神域に飛び散った。

スッ……シンは着地直後に再び舞う。「低く」跳ぶ。氣の羽根を纏い、飛ぶ。

シンが読み勝った。先のケンシロウの一撃はわかりやすい。回避は比較的容易だ。だが、それが狙いではない。先ずは「観る」という読みが当たったのだ。

ケンシロウを見切ったが、返した一撃は期待よりもずっと浅かった。これを避けたのはケンシロウの無想だった。

 


「無想、無意識……人は無意識の奴隷として描かれる。行動の95%さえもが無意識に遵従するという説さえある。その真実を垣間見るかのように、一場面が幕を開ける。

離れたテーブルの上に置かれたコップに水が注がれている。水を飲もうとするとき、その一瞬の行動に隠された多くの無意識の踊りが始まる。椅子から立ち上がる間、足の位置や歩みのステップ、コップに手を伸ばす瞬間。細かな動作が無意識に誘導され、ただ一つの目的「水を飲む」を果たすために舞い踊る。

脳は見えない裏方として機能し、行動前の「起こり」があって、一瞬遅れてそれを欲求や目的として後付けしているという真実を彼らは知る。神域に登り詰めた二人、ケンシロウとシンは、氣の起こりよりも早い脳の起こりを感じ取る。正確な予測はできないが、未知の「機」の存在を感じる。

そして彼らは実戦の経験から得た知恵で備える。それは境界に備えることと同義であり、ラオウが別の言葉で言い表した哲学でもある。

静かな瞬間がフワッと満ちる。続く第二合。シンは予測を立てる。第三合まではないが、その効果はサウザーの奥義にも匹敵する。打ち破る策を模索する。

シンの本気の殺気が漂い、攻め気が溢れる。しかし、どう撃つかは状況に適応する無意味な感じも持ち合わせている。

ブワワワア!!

シンの手が無数に「分裂」する。彼の無意識が幾度も使用した孤鷲拳奥義千首龍撃が繰り広げられる。龍撃が舞い踊る。

第一合とは異なり、第二合では先を取る。これはサウザーの十字鳳での第三合に似ている。サウザーが「動」に転じた飛翔だ。ケンシロウも「動」に転じ、究極の秘技を繰り出す。

それに似せている。

この舞台はシンの誘いと罠が渦巻く。過去の南斗聖拳の敗北を雪ぐための演出だ。帝王サウザーを看板とし、天空を舞う鳳を撃ち落とした北斗の秘奥義。南斗聖拳の勝利には先にこれを破る必要がある。

192.

「ところで、、天帝さんも来てるね」とガルダは言う。

「天帝まで? 来てもおかしくはないが」と少し眉根を寄せてギルが返す。

 


ガルダは完全に毒が抜けた様子だが、一方で流石に天帝ともなれば少しばかりは畏まるくらいの心情がギルにはある。

もっとも、かつては天帝に叛旗を翻していた、、とそこまでの意図があったわけではないにしても、天帝の支配を受け入れず好き勝手やっていたのは事実。

ジャコウが滅んだ今、天帝ルイはギルを朝敵扱いどころか気にもしていない。それどころかほとんど知ってさえいないのだが。

 


「あの天帝さんは陽の光が苦手らしい。ずっと暗い地下に閉じ込められてた影響で眼もやられてたらしいが」

「眼の方はケンシロウさんが秘孔を突いてで良くはなってるって聞いたが、、」とギルは実はその辺りに興味はない。

「だからそのお姿は見せず、豪華な山車みたいなのがあって、その奥にいるっぽい」

「ほぉん」とギルはやはり関心はないようだ。

「あと、、ナンフーさんなんだが、さっき別の場所でモウコさんを見ている」

「モウコってシュメの頭の?」

 


下部組織に過ぎないシュメの棟梁だから、、というのではなく、モウコは南斗将星付きのシュメの中でも特殊にして選りすぐりの忍たちのトップだ。

元より関わりがないのである。

リュウキさんはこないだおっちんでしまったから、、他にもまだナンフーさんをやる人いるんだな」

「まあ、知らんけど」

「ああ、知らんけどね。しかしあのナンフーさんとやら、、あれは只者じゃないな。押し隠してるけど、只者しゃない感が漏れ出てる」

「まあ、、、知らんけど」

モジャモジャでボサボサの黒い長髪頭を掻きながらギルは言う。

 


「ところで、なんで前は仮面付けてたの? ガルダ君」

 

 

 

 


虚塵排體、、、

これがかのサウザーの奥義に勝るか否か、、、、そこは問題ではなかった。

仮に同等であってもケンシロウには見切られている技だ。

だが、この南斗聖拳極技には狙いがある。誘い、なのだ。ケンシロウの一手を誘うため、極技と呼ぶほどの仕掛けが必要だった。

今更ながらケンシロウとはそれほどの拳士、最強の北斗神拳伝承者であった。

サウザーの天翔十字鳳と似て非なる大技でケンシロウの癖とも言える「視る」を先ず誘う。その間なら無想転生はないはず、、そう読んでいる。

 


間合いに入る直前でシンは低く跳んだ。低いというのはもちろん、彼らでの話。2mは床面からシンの身体は離れた。

空からの攻め、、宙での位置そのものは変えられないが、身体の捻りと千の手でケンシロウの迎撃を回避する。

という、意識を無意識に委ねる。

そして!

「あたぁ!」

ケンシロウが右の剛拳しかし無駄な氣を撒き散らさない強烈な一撃を見舞う。これは明らかな有意。無想の拳ではない。

ケンシロウケンシロウでシンを倒せるその一撃を放ってはいるが、これには慎重さと様子見も混ぜ合わせている。

南斗聖拳極技とまで言ったそれに警戒しつつ、同時に興味はあった。

 


ボッ! 拳が着弾するその時!

シンの身体を覆う氣の羽根がケンシロウの一撃を柔らかく払い流した。

「!(これは!?)」

サウザーのあれとは違う!?

サウザーは自身を羽根と化しケンシロウの拳を回避した。それは詰まるところ極限の技量・見切り能力であった。

シンのこれは言ってみればバリアと言おうか、膜と表現すべきか、氣が着弾を防いでいる。ケンシロウの脳裏をファルコが過ぎる。

元斗皇拳の要素も加味されたシンの、南斗聖拳の新局面!

プシュッ

ケンシロウの鋼鉄より硬い左肩が浅く裂け、血が神域に飛び散った。

スッ、、、シンは着地直後に再び舞う。「低く」跳ぶ。氣の羽根を纏い飛ぶ。

 


先ずはシンが読み勝った。先のケンシロウの一撃はわかりやすい。回避は比較的容易。そこではない。先ずは「観る」という読みが当たったのだ。

ケンシロウを見切ったが、流石に返した一撃は期待よりずっと浅い。これを避けたのはケンシロウの無想だった。

 


無想、無意識、、、人は無意識の奴隷だという。

人間はその行動の95%までもが無意識だとする説さえある。たしかにそれは当たっていると思える。

離れたテーブルの上に置かれたコップに入った水を飲もうとしよう。

どうやって椅子から立ち、どちらの脚をどの程度出し、どこまで歩いて止まり、どのタイミングで手をコップに伸ばすか、、、

細かく考えるなら他にも細かい様々な動作が、ただ一つの目的「水を飲む」によって無意識に為される。

他に例を挙げればキリはない。それほど脳は自動化されている。

それどころか、「水を飲む」という初めの動機さえ、実は後付けなのだという。

脳による行動前の「起こり」があり、一瞬遅れてそれを欲求や目的として後付けするというのだ。

「彼ら」神域に登り詰めた二人は、氣の起こりよりも早い脳の起こりを感じ取る。正確に何が来るかを知れないまでも、その「機」は知れる。

同時に実戦、いや死戦で培った経験による予測で、、備える。「境界」に備える。これをあのラオウは別の言葉で言い表している。

 


フワッ

続く第二合。ここまでだとシンは予測を立てる。

第三合まではない。非なるとは言え、効果はサウザーの奥義。ならば打ち破る策も同じ。

本気の殺気を以ってシンは舞う。攻め気はわかりやすいほどに溢れているが、どう撃つかは状況に適応する無意義に任せている。

ブワワワア!!

シンの手が無数に「分裂」する。シンの無意識はこの闘いで幾度も使用した孤鷲拳奥義千首龍撃だった。上からの龍撃だった。

まず受けから始まった第一合とは違い、先を取るこの第二合。これはサウザー十字鳳での第三合に似ている。

サウザーが「動」に転じた飛翔だ。これに合わせケンシロウも「動」に転じ、これもまた究極奥義とされる秘技を繰り出している。

 


それに似せている

 


これがシンの誘いと罠。過去の南斗聖拳の敗北を雪ぐための、この舞台での演出だった。

帝王サウザーを看板とした南斗聖拳という天空を舞う鳳(おおとり)を撃ち落とした北斗の秘奥義。先にこれを破ってこそ南斗聖拳の勝利には意味がある。

191.

覚悟はできた。

 


ガルゴに敗けた時は死の恐怖によって、取り乱した。恐慌していた。

それと違い今ここ、自分の背骨と重なるように、本当の覚悟は彼の中に据えられている。

それは彼が到達すべき拳の神域に達したからである。思い残すことはない。若しくは、、北斗神拳伝承者がその標的に死を覚悟させるからか、、、

 


上出来だろう、ケンシロウ

この俺が人を理解し、無想転生を会得したキサマに少しばかりは食い下がった。

それと、勘違いはするな。敗北は覚悟したが、敗けるつもりでは戦わない。諦めたなら、そこで拳を下げる。

 


シンはリ・シャンロンの構えを取った。ケンシロウも左右逆に同じ構えで面する。正に北斗と南斗。同じ構えでも相容れない。

そしてシンは自分の中の最後の抽斗(ヒキダシ)を引いた。

今現在の真の南斗聖拳を別とすれば、南斗最強の鳳凰拳を最強たらしめる秘奥義。

きっと全く同じには再現していない。会得していない。いや、既にケンシロウに破られている。だが、意表を突く一手にはなろう。

 


俺は自分の為にしか戦えない

 


限界点は過ぎている。ここから更に力を出すには、更に生命に踏み込まなければならない。

 


影力!

 


「む! シン!」

 


戦闘ではなく生命活動に回される氣を持って来る。更に地獄の蓋を開け憎悪の力を解放する。解放しつつギリギリのところで制御する。

それは闇を踏み付ける彼の銀色の闘気。銀と暗黒の氣が靄の様にシンから湧き出る。

シンを中心に数メートルを満たした時!

「おおお!」

 


「まだ、これほどの力が!」

 


今度は拡がった銀と暗黒の闘気が渦を巻きながら、その渦の目にいるシンに戻る。どんな氣であれ、集中し研ぎ澄ますのが南斗聖拳

 


満ちた!

 


南斗聖拳極技!虚塵廃體!!」

 


サウザーの羽根と化す秘奥義、、シンなりの解釈に加えて、かつてガルゴに見せたこの奥義を更に練った新解釈の極技。

闇を呑み込み銀に統一された闘気を内に秘め、シンは身体の表層を「羽根」で覆った。

無意識無想ではなく、意識と無意識の狭間にあって、そこに溶け入る極致の技量。至高の一点。

もう今この時しか使えないと確信する秘中の秘。ケンシロウ相手だからこそ、ここまで追い込まれたからこそ、「覚悟」を有したからこその秘奥義。

 


フワッ

 


天翔十字鳳と異なり跳んではいない。

無想転生と違い実体はある。

だが、技量と覚悟と、そして身体に張り付いた無数の銀の羽根が、ケンシロウの死の秘拳を一瞬一手先に感知する。

そこに、、ケンシロウの氣起こりあれば!

 


羽根のような軽さでシンは出た。それなりに速いが、神速の手前。異様なのは床面に及ぼす影響がほぼない。

シンが駆けているのに、床面の塵がほとんど浮き立たない。

 


ケンシロウ、、無意識がキサマの拳を感じ取り、意識でそれを避け、そして討つ!

これが、ここが南斗聖拳まことの窮み!

 


南斗聖拳は人の拳の極限! 人の拳、神に届くか!?

 

 

 

 


ザッ

「ん? お、寝ちまったか」

その足音に気が付き、居眠りから覚めたのは、今や「一人」で南斗双鷹拳を再編纂途中のギルだった。

かつてのショーレスラーのような身体はしていない。南斗聖拳らしく痩せて精悍だ。

一見すれば痩せた分だけ神経質にも見える時があるが、性根の図太さは変わらない。

北斗南斗の頂上決戦の最中でも、壁に隔てられた舞台の上の出来事はわからない。

決着次第では、いや、どんな結果になろうと今後の南斗諸派に及ぼす影響は甚大だろう。だが、この男には居眠りをこく無神経さがある。

 


「ダメじゃん、ギルさん。スキだらけだよ」

「おう!」

振り返るギルの先には銀髪の若い男がいる。

ガルダ君! はん、いいんだって。殺気がある相手なら気付くから、多分」

と、ギルは笑う。

「まあ、やっぱりここから、、だよね」

北斗南斗の、あのケンシロウとあのシンの対決、、一度はケンシロウに立会人を申し出、受諾はされたが、二人の晴れ舞台の場所が知れなかった。

二人は待ち合わせもないまま、不思議と舞台に辿り着き、そして「幕は上がった」。そこに呼ばれなかった。導かれなかった。

 


「あん?何がよ?」

「うん、いやねぇ、、やっぱり二人っきりにさせないと、ダメだよねぇ」

銀髪に、今日は漆黒のマント。羽根飾りの付いた肩当て。

しかし、これまでと違いガルダは飄々としている。常に思い詰め鬱屈とし殺気立っていたあの頃ではない。

「なんか変わったか?ガルダ君。フハ!あの仮面もしてないしな」

「あぁ、あれね」

「傷や火傷跡があるってのは、ただの噂か。それとも、自分で流した嘘か?」

「、、、」

「だよな。でもわかる。俺も前はバカみてえな格好してたからよ。昔でいう何だっけ?中学生が陥りがちな、あの」

「そんな病じゃないよ」

少しの気恥ずかしさを誤魔化すようにガルダは顔を上げた。やはりの蒼天。

「遥か彼方の蒼天が、今日だけはあそこにも降りて来てる」

と、遠くの折れ曲がったタワーに目を移す。

 


「いやいや、誤魔化してもダメだから(笑)」

 

190.

違いはある。明白にある。シンの目はただ見開いているのみで、悲しみを思わせるものがない。

それがシンの悲しい目かと言えば、それももちろんにして違う。

では、先のシンのまるで読めなかった動きは何なのか?説明がつかない。

ケンシロウの癖が出た。全てを見切り、知り、自身の分身とする北斗神拳の性質が故に、今この状態にあるシンを戦いの中にあって観察する、、、

 

 

 

肉眼よりも氣眼で対する超越者の拳。シンはタジフの体当たりのみでなく、氣を消し一瞬氣眼から「消えて」みせた。

真円真球のようなケンシロウに開いた刹那一点のスキ、正に盲点。だから氣なくしても効果があった。しかしそれは狙って為したわけではない。

ケンシロウはそれがわかっている。それが異様なことと理解していても、もうこれ以上の躊躇はない。

ケンシロウは互いの間合いを割る寸前から加速し、連撃打を放つ!

「あたたた、、あたたあ!!」

これで極まるとは思っていない。これで決まりとなど考えていなかった。であってもケンシロウの拳を避けた後方上へのシンの空舞には驚かされていた。

この舞台となっているインペリアルタワーは、二人がいるこの展望階から上が折れて倒れている。

その破れた天井を超え、シンは跳んでいた。その様は、、、「レイ、、」そうケンシロウは口にした。

 


そうではなかった。

 


レイではない。南斗宗家の三面拳ヒエンの影である。

氣の適性が悪く、、もっとはっきり言えば才がないため、ヒエンは水鳥拳も紅鶴拳も会得はできなかった。

それでも氣の使い手ではある。才能が足りない分、技の鍛錬と工夫は絶やさず、そして学ぶ姿勢を失わなかった。

 


その後シンは着地したが、その時はまた気配が変わっている。数秒待ってケンシロウは出た。

「ほおぅあ!」とケンシロウは大胆にも南斗聖拳を相手に横蹴りで跳び込んだ。

それを無表情なシンは膝を上げると、器用に膝下を動かして払いながらケンシロウの蹴り足を床面に導きバランスを崩させた。

そこを、シンは気配なくスッと突く。速い突きだが、先までの速度はない。

「!」

それでもケンシロウをあわや取らんばかりの突きだった。そしてこれも無想陰殺が発動しない。

ケンシロウは不思議なことに、意識的に無想転生を使うべきか?という矛盾とも取れる心境に至った。

その思考の乱れが微かな氣の乱れとなり、結果それが感応し、シンは我に返った。

だが記憶はある。自分がある種の催眠状態にあったことを、一歩遠くから、或いは高所から見ていた。感情は働かず、ただ観ていた。

そして理解する。

何故に悲しみの果てに無想転生があるのか。

北斗神拳の奥義に達していることは条件として、生死をかけて闘った強敵は、、全て友と呼べるのだろう。

その強敵は強敵(トモ)となった時、この世にいない。そんなことを繰り返して来た。北斗神拳という最強の拳故に激闘に勝ち強敵を葬った。

更に、北斗神拳には他流からすれば余りに忌まわしい水陰心がある。闘うが故、その全てが記憶に残る。

死んで行った強敵たちへの強い思いが深い悲しみとなりケンシロウの中に沈んで積み重なる。積み重なり黒い水面から顔を出す。

 


「(皮肉なものだな)」

活性化した北斗神拳伝承者の脳は記憶力にも長ける。

敢えて記憶を消す或いは置き場を変えることができても、超人だからこそ、常人の忘却との差を知るのは困難。比較した結果でしか理解できない。

「(なるほど、な)」

ガキの頃、お前はよく笑っていた。感情豊かだった。

それを変えたのは北斗神拳の厳しいサダメと、そして俺だろう。青臭かったお前に地獄を見せた俺だろうよ。

だがそれだけではなかったか。お前は最強故に、最強北斗神拳故に幾人もの敵を倒し、その思いを、望もうが望むまいが、受け止めて来たのだな。

俺にも少しだけ、そんなのがあったってことか。

タジフ、、蝙蝠、お前はまだ生きてるよな、、ガルゴ、、ライデン、、ゲッコウ、、、ヒエン、、、、ジュガイ、、

 

 

 

特に三面拳だった。南斗宗家へのシンの訪れは彼らの死を意味していた。

才が欠けている分を補った技術と工夫と知恵は、遥か格上のシンを教え成長させた。最後はシンとの勝負で死すまでが、、決まっていた。

それに耐え切れずヒエンは狂い仲間を超え兄弟と呼ぶ二人を手にかけた。そして負けるはずのない悲しき戦いにシンは臨んだ。

そしてガルゴ、、、戦闘中にも成長し続けるシンの拳を見ていたかったとさえ言っていた。

 


‥俺は守りたいものの為、死んで行った友の為に戦った。飽くなき血を求める修羅の心よりも、それが強かった‥

 


‥シン、自分のためにしか戦えない者に、、、俺が負けることはない。頂点に達した者同士なら、その小さな差が勝負を分ける‥

 

 

 

そうだった。南斗聖拳の為か俺の為か、何度も自問し、迷い揺れていた。

そして尚、俺は自分の勝利を自分の為に信じ続けた。

俺の中には俺しかいない。ただ一つの例外ユリアはあったが、、、例外だ。

なのにケンシロウ、、お前と来たらその質朴に見える顔をしながら、、

 


ならば、北斗神拳の究極とは愛なのか?

 


ガルゴ、、俺はここへ来ても自分の為にしか戦えぬ。

 


ここまでか。

 


ケンシロウ、、、」

「なんだ」

「驚いてるようだが、俺は無想転生修得とは行かないようだ」

「、、、、」

ケンシロウお前は、俺と比べて感情表現に乏しい男だと、そう思っていた」

「、、、シン、、」

「フフ、確かにその怒りは感情が噴火した勢いだったが、普段はそれだ」

シンは笑った。シンはわかった。

「なのにその厚い面の皮の下には誰よりも深い愛があると?」

「それは、わからない。だが、、誰よりも愛深き男、、ラオウもその愛故に深い悲しみを得て、無想転生を会得していた」

「! あの、ラオウが!?」

 


愛深き、と言えば南斗聖拳にあっては、実はあの悪の帝王サウザーだった。愛深き故に歪み、悲しみを否定するが故に悪に走った。

「そうか、それが、、」

あの鳳凰拳無敵の秘奥義に達したのだ。その無敵を破ったのは、更に愛深き男、このケンシロウだと?

 


「フフ、、、フハハハハ」

シンはいかにも彼らしい高笑いをした。笑えてしょうがない。最強を目指し南斗聖拳を研いで来たが、その行き着く先は「愛」だというのだ。

「ふぅ」

笑って爽快であった。そして決まった。覚悟がだ。

 


ケンシロウ!」

微笑のままシンはケンシロウに目を向けた。

「ここまでだ。北斗と南斗の違いというよりも、俺の性格というか、、俺に無想転生は無理だった」

「、、、」

「いやもちろん、はじめから戦いの最中に会得できるなんて思ってもない。まず無想転生を味わってもいなかったのだからな」

一転、シンは真顔になった。

「一つ、、頼みがある」

「うむ」

ケンシロウは闘気に満ちているが、ダメージは深い。シン自身もボロボロだった。シンは少しの間目を閉じ、想いを走らせた。

「俺が敗れるなら、南斗聖拳はここまでだろう。滅ぶだろう。南斗が滅ぶなら、そのまま滅びるにまかせてくれ」

「シン、、、」

「だがお前の中には腹が立つことに南斗聖拳がある。ここからが重要だ!」

ケンシロウは口をへの字にしたまま推し黙り、シンの続きを待った。口がへの字でも機嫌が悪いのではない。シンの真意を汲み取ろうとしている。

「次代の北斗神拳伝承者の成長のために南斗聖拳という敵は必要かも知らんが、、、他のどんな理由であれ!」

力を込める。

北斗神拳南斗聖拳を復活させるな! それだけは、なしだ!」

それに対してケンシロウは意外なことを口にした。

「そんなことはしない。南斗聖拳の誇りを汚す気はない」

 


よく言う、、南斗聖拳を虐げて来たのは北斗神拳だろうに、、とシンはこの期に及んで毒づいた。

次いでケンシロウは更に意外な言葉を発した。

南斗聖拳とは、そんなにヤワだろうか」

189.

たった一人、、この状況下にあっても尚シンの勝利を信じるたった一人の男、自分自身のため、彼は荒い息遣いの中でも改めて構えを取った。

 


この日の中だというのに、無想転生を使うケンシロウの実体は見抜けない。

そのケンシロウは究極奥義を解きシンの前に悲しい目で立っているが、そこに突き進んだところでまた実体を虚とし、南斗聖拳の全てを無効化するだろう。

 


どうすればいい、、、、と思考のループに陥りそうであった。いや、答えは既にある。常にある。元からそこにある。そう言い聞かせる。

自分の半生と、そして南斗宗家で学んだ全ての中に答えはあるはず、、、そう信じた。

 


ケンシロウが間合いを詰める。ゆっくりとだ。そんな中、なんとなくだがシンは思った。

無想転生の発動中はこちらの攻撃は効果がない。だが、その最中に受ける反撃そのものは、ややその威に欠けるのではないか?

思いながらも先程は一瞬意識を失うほどの衝撃をその身に浴びているが、秘孔点穴による絶命の一撃ではない。

或いは秘孔点穴が効かないシンの胴体を単に力で撃ったから、という考えはある。頭部だけは点穴を恐れ、より強固に守っていたのもあろう。

憶測に過ぎないが、やはりここ一番の一撃となると、「実体化」する必要があるのではないか?

所詮は憶測に過ぎなかった。

しかし、今ケンシロウは実体化して彼に迫っている。

 


時間はない、、、シンはまたも予想する。悲観的で且つ現実的な予想だ。

シンの経絡秘孔は変異しているが、シン自身の氣の流れを、恐らくケンシロウは既に見切っているはず、と。

即ち、ケンシロウの次の一撃は変異したその後の秘孔を極めるだろう。

 


ジャリッ!

ケンシロウが踏み込み、右拳を撃ち放たんとする!

「ふん!」

「!!」

ケンシロウの剛の一撃! 秘孔点穴であればもちろんのこと、そうでなくてもシンの命を粉々に砕く必殺の剛拳

 


身体中が軋む、悲鳴を上げる。自身を信じても肉体は限界を超えている。戦える状態ではない。呼吸が乱れて調わない。

それが故にシンには力みがなかった。勝利を引き寄せんとする意思は強くとも、肉と骨は限界を迎えていた。

重い身体を支える力が不意に消えた。シンの身体は左に傾き、結果幸運にもケンシロウの一撃を回避した。

ヴォン!!

外れたケンシロウ剛拳が数メートル先の壁を破壊し、ついで勢い余ったケンシロウが前のめりになった。

 


「!」 無駄な力!あのケンシロウに!

よろけた身体を踏ん張ったつもりはないが、左脚が体重を支え、そして反発力を生んだ。

刹那の僥倖、ケンシロウが右体側を曝け出し、その何かのまぐれのような一点に、シンは、ドン! と肩をぶつけた。

「(これは!?)」とシンが自身の動きに驚く。

その衝撃に、最強者がバランスを崩して距離が空いた。

 


、、咄嗟に出た。場面を意識して肩を当てたわけではない。単に、鍛錬の結果が生んだ条件反射的な無意識の体当たりでもない。

「(タジフ、、)」

岩のような身体をした戦士タジフが思い起こされた。

タジフは強い肉体の持ち主だったが、「常人」だった。どん底から立ち上がり新たに復活した南斗聖拳の前には敵ではなかった男だ。

なのに、、タジフから受けたただの体当たりはシンの魂を、、揺らした。

乱世を生きるタジフの強かさと、愛する者を喪い、乱世を憂い、ただ死に場所を探していたその瞳の中にある悲しみがシンに何かを感じさせた。

あのただの体当たりに、人間の感情全てが詰まっていたのではないか?

 


一方、その不意の一撃はケンシロウの切れかけた集中力を回復させた。

ケンシロウの受けたダメージも深い。その上での究極奥義無想転生であった。ケンシロウでさえ代償なくして使える便利なものではなかったのだ。

だからこそ集中に欠け、氣配が強く、無駄に余る一撃を放ち、シンに見切られるを許した。

反省や後悔をしない。ケンシロウはしない。ただ鋼鉄の塊のような意思で自身の拳技を調え直す。

かと言って、今すぐに無想転生というわけには行かない。ケンシロウもそれほどまで追い詰められていたのだ。

 


「ハァ、ハァ、ハァ」

シンの体当たりは鋼の男にダメージを与えるものではない。回避の延長にすぎない。寧ろケンシロウを刹那の呆けから目覚めさせてしまっている。

客観的にも主観的にも、より多くのダメージを抱えているのはシン自身である。ガルゴ戦が思い出された。

ガルゴの強大さに及ばず、心は完全に折られた。ただ逃げに徹し、それでも拳士として身に付いた本能だけが、

幾度も襲い掛かるガルゴのトドメの一撃から彼を救い続けた。

その時は、自由の利かない身体でただ逃げ回り、避け続け、恐怖と向き合う他なかった。死物狂いで。

 


「(何故)、、」

何故ここで出てきた?タジフ、、、

 


この機において、、ケンシロウの追撃はない。重い沈黙のまま構えを解き、静かだが重厚に立っている。

「、、、」

それはもちろん油断ではない。シンの状態を見極めんとしていた。

だがすぐに何か得心が行ったのか、改めて構えながら間合いを詰める。

その一方で、シンは恍惚とも放心とも取れる面様でケンシロウを見つめ返している。彼らしい強い攻め気も、刃のように鋭い目線もない。

 


「シン、、、もしや」

ある疑念がケンシロウの頭を過(ヨ)ぎる。先の一撃はたしかにこちらに過失があった。見切られて当然の大振りの拳だった。

今のその損傷と疲労状態でも、南斗聖拳の窮みに立つこの男なら当然の様に躱すだろう。

躱して尚、、、逆に一撃を入れられた。氣の起こりは感じなかった。故にケンシロウの無想陰殺も無反応だった。

大振りの一撃その放出後、防御力が低くなるその瞬間に、ほんの僅かなその一瞬に体当たりを受けている。

「、、、シン!、、、、ほぉおおぅ!!」

両の拳を握り氣を洗い直す。コォォ、、、青白いケンシロウの氣が放出、、ではなく肉体を満たして行く。

さすがに恐ろしい男、北斗の拳を継ぐ者だった。肉体に負った傷、それはそれだが戦闘をほぼ最高水準で継続させる状態に持って行く。

 


実際のところ、、、シンは限界に来ている。それ故、無駄に動ける体力を失っている。それが幸いし、シンはこれまでない無心の集中力を得ていた。

しかし、彼はこれを「無心」とは呼ばない。この状態は彼曰く「一心」である。

無心は元斗皇拳でいうところの不完全な無想転生。一心はただ一つにのみ集中すること。

シンは一心にケンシロウの動きを待つでもなく待った。

後の先を意識するでもなくただ一心にケンシロウを肉と氣の両方で、ただ観ていた。

だらしなく口を開けるほどに、シンはケンシロウにのみ意識を置いた。

両腕はダラっと下げており、その様はサウザーの構えなき構えとはかけ離れている。全身立っているのが不思議なほどに力が抜けている。

反面、まるで北斗と南斗が相反するが如くケンシロウは力と氣で満ちている。それでいてシンにこれ以上間合いを寄せるを躊躇った。

 


力まないことは正しい。柔の中には力がある。、、、そういうことではなかった。

数多の実戦を経験したケンシロウが異様に感じるほどシンは得体が知れない。

過去と先程までのシンのみならず、何人もの南斗の拳士と拳を交えた。

同門北斗神拳はもちろん、華山流に泰山流、元斗皇拳と、そして北斗琉拳。その中にこんな異様な気配を持つ者はいない。

しかし、似た様を知っている。かつてケンシロウ自身が経験していた。そう、無想転生会得の前触れに似ている。