妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

42.

「南斗の帝王サウザー様と北斗神拳伝承者様の因縁対決でしたが、わりとあっさり勝敗は決まりました。内容は濃密でしたがね」

 

蝙蝠が用意した四駆車に乗りサウザーの拠点へと向かっている。崩れたビルの並ぶ破壊された街中を往く。人は誰もいない。代わりに骸骨が夥しく転がっている。

ケンシロウ南斗白鷺拳シュウと接触したという情報を得た蝙蝠は聖帝十字陵周辺に情報の網を張った。
サウザー軍の動きを遠目に見張るようにして張り付き、ケンシロウとの遭遇を待った。そう長く待つことにはならないのは明白である。
サウザーの行進には必ず聖帝軍のエリートが周辺を調査するが所詮は常人。先にその偵察を見つけ避けることは容易であったという。
 

そして遂にその時は訪れた。

「驚きました。サウザー様には北斗神拳が効かないようです」
「、、、そうか」
「ご存知でしたか?」
そのような噂は聞いたことがあった。そして、ただの噂ではなかったということだ。
それにしても経絡秘孔の位置が違うというのは人間である以上考えにくい。
秘孔を突きさえすれば北斗神拳の秘術が効果を生むわけではない。北斗の拳の氣の流れが必要だ。であるならば、その氣の流れを止める何かがサウザーにはあるということだろうか。
ラオウとの対決も、その北斗神拳が効かないという特性ありきの話であったのだろうか?

それにしてもサウザーケンシロウを倒したという事実は喜ぶべきことか、、、


南斗聖拳北斗神拳伝承者を再び破ったというのは誇るべきことではあるのだが、シンは複雑な思いを抱いていた。
自分の敵わなかったケンシロウラオウにも匹敵する力を有するに至り、サウザー南斗聖拳最強の名に相応しい男。
拳士としての格の差がさらに空けられたような気がしてならない。ある意味、隔てられたのだろう。
遠い存在の拳士同士が、遠く自分に無関係な世界で戦い合った、そんな劣等感に塗れた。
だが事実、まだサウザーには勝てない、、、、まだ。

 

「しかしケンシロウ様はまだ生きていらっしゃる」
「なに?」

サウザー様はケンシロウ様を、つまり北斗神拳伝承者を聖帝十字陵の人柱にするために、その時まで生かしているようです。体はサウザー様に刻まれていますが、指の一本も欠損はありませんね、あれは」
「なるほど、犠牲として捧げるものは完全でなくてはならないからか」
「そういうものなんですかね。ところでケンシロウ様が敗れたことで、拳王ラオウ様は姿を現すでしょうか? トキ様はどう出るでしょう」

 

何故自分は聖帝の元へ向かっているのか?
サウザーの勝利を祝いたいわけではない。捕らえられたケンシロウを救いたいわけでもない。
ただ、情けないことに蝙蝠が言うがままクルマに乗っていた。だが、「行くべきだ」という心の声がある。
そして、ケンシロウ敗れたいま、シュウはどう動くのか。
予感がある。まだこの戦い、南斗聖拳北斗神拳の戦いは終わってはいない。

「蝙蝠」
「へい」
蝙蝠の運転は手慣れたものだ。器用に瓦礫を避け運転し、振動や横にかかるGの不快感が少ない。
ケンシロウが聖帝十字陵の人柱になるのはいつだ?」
「さあ、、、しかし数日置いてるってことは何かに合わせてるのでしょうかね? 暦、、月の位置とか。何か南斗聖拳の特別な日でもあるんですかね」
たしかに南斗にも南斗六星に因んだ祭の類はあるが、あくまで儀式に過ぎず実質的な意味は持たない。他にもいくつかの行事もあるにはあるがサウザーが重要視するとも思えない。
「蝙蝠、今日の日付はわかるか?」
流石に蝙蝠だった。ついでに曜日までも知らせてくれた。
「私どもが知る南斗様の行事はここしばらくありませんね。もっとも、今この状況で行われているわけがないんですが」
シュメ、そして南斗の大ファンなどと自称する蝙蝠が知らなければ、恐らくケンシロウを犠牲に捧げる日付に意味はない。あるとすればサウザー個人の何かしらの拘りであろう。
そう、もちろんあるとすればの話だ。
サウザーはその自らの覇の道を進み、その後ろに多くを従えて行く。サウザーの歩みこそがむしろ未来に残る何かを作っていくのだ。

 

 

「今ね、シン様。面白い話を仕入れました」

途中の街で物資を仕入れた蝙蝠が少しばかり楽しそうに言う。
「どうやらケンシロウ様は逃げ出したようです。逃げ出したというか救い出されたとのことらしいですがね」
何者かに殴り倒された兵たち、それに加えてケンシロウを追った者たち一隊が爆発によって命を落としているとのことだった。
そこからケンシロウの足取りは掴めていない。
「ここにも私に情報をくれる、と言っても交換ですがね、そんな奴がいるんです」
そう言って無駄のない動作で運転席に座る。

「さ、急ぎましょうか。サウザー様も放置しているわけありませんし」