妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

36.シン

リマや花の村近辺に賊と化した危険な輩はいなかった。


聖帝から派遣された精鋭小部隊と建設部隊は村の直ぐ近くに自分たちの砦を建設し始めている。
建設部隊までほぼ全員がモヒカンヘアスタイルなのが滑稽だった。
急ピッチで進められた建設はわずか数日である程度の体を為し、機能的には既に完成と言ってもいいものだった。
次いで部隊長に対し、村人たちの要望には出来るだけ応えるように、少なくとも話し合いは念入りの行うよう伝え、おまけに脅しをかけておく。その隊長も元は南斗の一人。シンの恐ろしさはよく知っている。
村の者たちとはあれ以来会ってはいないが、女長である花は機転が利く。上手くやって行く筈だ。
これで安泰とまでは言えない時代だが、とりあえずは肩の荷が下りた。


当面の目標も目的も無くなってしまったシンであるが、気になるのはサウザーの、あの南斗鳳凰拳の拳技であった。まず己の武を見直すためには、サウザーの言う通り、下の舞台に降りなければならないのかも知れない。

 

 

夜、、、
わりと状態の良い屋敷を見つけ、今宵の宿とした。荒らされた跡はあるが、寝るには丁度いい。
携帯食糧を摂り睡眠に入る。やや肌寒い。
庭の焚火の灯りの中、静かに目を閉じた。


現在、聖帝と拳王の争いは各地で聖帝軍が勝利を収めているという。もちろん拳王不在の影響で軍の統率が乱れているからだ。

本来なら一気に聖帝軍が拳王勢力を駆逐するところだが、サウザーとしてはやはりラオウとの決着をつけての覇としたいのであろう。

いや、結局のところ数を以ってしてもラオウは倒せない以上、いずれは直接やらざるを得ないのは明白。

 

シンにとってもこの二人の戦いの結末は全く読めないが、互角と言われる北斗神拳南斗聖拳も、拳士が上級になるほど北斗有利ではないかと考えている。
単純に考えるなら経絡秘孔を極めなければならない北斗神拳と、秘孔に無関係に致命傷を与える破壊専門の南斗聖拳では南斗に分があるように見える。
しかし、実情は違う。
北斗神拳伝承者、、その名に相応しい拳士であるならば、戦闘中の秘孔点穴はほとんど無意識に出来るであろう。
それでもまだ南斗に分があると思えるが、更に達人の領域の住人ならば話は変わるのではないか。
一点を浅く突いた南斗聖拳では敵を倒せないが、その一点で必殺とすることが可能なのが北斗神拳だからである。
達人同士の戦いにあっては互いの僅かな、その一点の隙を狙う神経戦になるだろう。

南斗聖拳もその差異を埋めるべく進化は重ねているが、、、

 

とても眠れはしなかった。

サウザーラオウのどちらが勝つにせよ、それは更に恐るべき世界への突入を意味するようにしか思えない。

そこに、、、ケンシロウがどう絡んで来るか、、、


サウザー南斗鳳凰拳には構えがない、、、これは攻撃に特化したからだ。強いて言うなら鳳凰拳の防御とはあの迅い足捌きで間合いを外すことか、、、
水鳥拳、紅鶴拳、白鷺拳、、、他の六聖拳も個性に富んだ独自の進化を遂げている。
しかし、孤鷲拳は鷲の名を付けてはいても、元々は南斗聖拳源流の直系である。手技足技のバランスもよく、南斗聖拳においての万能型というところだ。
あえて悪く言うならば他の六聖拳と比較してこれと言った特性に乏しい、ということか。
だがどうだろう。北斗神拳にも決まった型がない。伝承した拳士の個性に任されている。
仮に北斗神拳が一子相伝でないならば、ラオウ剛拳もトキの柔の拳もそれぞれ流派となるだろう。
ケンシロウはどうなのであろうか。サザンクロスで対決したときは、やや力に偏っていたかも知れない。剛の拳であろう。
だが、ケンシロウはあのラオウとさえ引き分ける力を持っている。ならばサウザーとも互角の力を持つに至っているということだ。

ケンシロウ、、差をつけられたものだ。


シンは立ち上がり、焚火だけを光源とした薄暗い中で神経を尖らせた。
静かに、徐々に、南斗の裂気を拳に集中させ身体全体も戦闘時の状態に変える。普段は動かない左手もこの時ばかりはある程度の自由が利く。先程までの肌寒さなどは一瞬で解消され、むしろ昂り熱くなる。
シュ!
虚空に向けて突きを撃つ。撃つ。また撃つ!
「、、、」
自分の拳が乱れているのがわかった。空気を斬る南斗聖拳の突きの純粋な「斬る」という力の中に、「散らす」とも言うべき無駄な力があるのがわかる。修練を怠ったツケだ。
人間の秘められた能力を覚醒する南斗聖拳であっても自分の拳技を見つめることをやめればこうなるのだ。
ユリア強奪以来、特にユリアを五星車に託してからはまともに技を見直していなかった。
全てを破壊することを極意とする南斗聖拳の、その突きに生じた小さなブレ。或いはそのブレは迷いか。
北斗神拳前伝承者リュウケンの言葉を思い出す。