妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

47.落鳳

「だが! 俺は南斗の帝王!」
サウザーが痺れてままならない脚を無理に動かし石段を下る。
神速の足捌きを持つ南斗鳳凰拳がただ満足に歩くことさえ出来ないまでに追い込まれている。

「ひ、退かぬ! 媚びぬ! 省みぬ!」
そう言いながらサウザーが前に倒れる。
「帝王に逃走はないのだあ!!!」
倒れながら石段に両手をつくと、封じられた脚の代わりに帝王は腕で跳躍した。
軌道が違う。滑空するような攻めの飛翔ではない。ケンシロウに向かっているのは同じでも弧が高い。
ケンシロウは悲しき思いでサウザーを見やる。赦す道はない。逃げる男でもない。ここで倒すことこそ礼であり、情であり、「愛」である。 

 

最後に見る天空の高さ、、、鳳凰がいかに高く高く大空を飛んでいるつもりでも、真に高きあの蒼天には到底届かなかった。
だが最期の鳳凰の舞は、これまでもよりも遥かに自由で、地上のいかなるものからも解放されていた。

そして、身体が落下に移る。視線の先には北斗神拳がいる。

 

 

「北斗有情猛翔破!!」

 

 

 

サウザーがたどたどしい歩みで師父オウガイの亡骸に向かう。
その表情まではこの距離では分かりにくいが、その動きにこれまでのような力強さがない。その身体が死を前にして弱っているからだけではない。
恐らくは常に自らを帝王としていたその矜持から自由になったからだ。死を前にしてサウザーは本当の自分に帰った。
最期は師父に寄り添うにようにして、、、


サウザー様、、、お見事。いやそれよりもケンシロウ様、なんというお方。サウザー様に縛り付いた呪いをも解き放った、、とでもいうのでしょうか。紛う事なき悪の帝王に対して、最後これほどの情をかけるとは。シン様?」
シンは泣いていた。
次から次へと溢れ出る涙を止めることが出来なかった。

 

何故これほどの涙が流れるのか?
サウザー、、どこまでも傲慢で非情で、他の誰のことも認めない絶対悪とさえ言っていい男。
つい先ほどは同じ南斗六星のシュウに対しても拳士としての戦いの果てではなく、処刑としてのトドメに槍を投げつけるほどの残虐無比な男なのに。
、、、そうか、そうだ。俺の中にも流れる南斗の血が負けたからだ。
無双の剛拳ラオウと天才拳士トキが揃い北斗神拳の強さは先の時代を超える勢いだった。
だがサウザーだけはその二人にも負けぬ力を持った南斗の誇りであった。サウザーがいれば奴らに脅かされることはない。
互角と称されながらもその実は明確な脅威であった北斗の拳に対抗できる男だった。
そのサウザーが負けた。しかもまさかの末弟ケンシロウによって。
つまり、、、、


南斗聖拳は負けた


シンにとっても彼を彼たらしめる最大の要因、「南斗聖拳」が敗れた。破れたのだ。
文字通りの強さと力が全ての乱世になるや早々に南斗聖拳は敗北した。
彼だけがただ南斗聖拳存続のために生きている。

蝙蝠はそんなシンを黙して見つめていた。
頃合いを見て黒いハンカチを差し出す。
シンはそれを拒否し、子供のように涙を手で拭う。

「シン様、、お気持ち分かりますが、我々にはすべきことがあります」
南斗聖拳が今後も生き残るために修練に入るということ、そう言いたいのだろう。
「急がねばなりませんよ、シン様」
「どういう、ことだ」
涙声を恥じる。

「敗北した王様のご家族はどんな運命を辿りますか?」
「何?」
「さ、ここからは私たちの出番ですよ」