妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

48.

素早い足取りで蝙蝠がシンを先導する。
「もう少しです」


十字陵の麓の一角にあるビル。割れたショーウィンドウからくぐるように中へ入り、薄暗い中を迷うことなく進んで行く。
行き止まりで足を止めると蝙蝠はそこに集められたガラクタの数々を、らしからぬ乱暴さで退かし、「この扉からです」と隠されたドアを開いた。
扉の向こうは通路になっており、驚くことに各所に設置された電灯が中を照らしている。
「さ、こちらです。急がないと電気も止められるでしょう。もっとも、急がないといけないのは別の理由ですがね」

サウザーは正当な王妃即ち正室の他に多くの側室を抱え込んでいたという。本人の口からも「まだ鳳凰拳会得へ覚悟が決まった者がいない」と自分の子たちのことを語っていた。
それらを聖帝の血筋を守るために救うというのだ。この蝙蝠は。
「蝙蝠、お前の依頼人は誰だ」
自分の件を含めた蝙蝠一連の行動。いかに南斗の大ファンなどと嘯いても蝙蝠個人の考えだけとは思えない。
「私も一応はプロです。依頼人のことは言えませんよ」と応え、依頼人がいることは否定しない。
そして「今はね」と付け加える。先ほど言いかけたこの左手のことにも関連するのかも知れない。

電灯が照らす通路はちょっとした迷路のように広がっている。その中を確かな足取りで蝙蝠は進む。蝙蝠の持つその情報量の多さに何度も驚かされる。
「ここはですね、以前地下街だったのをそのまま利用してるんです」

そのとき電灯が消えた。
「あ、ちょっとお待ちを。今灯りを」
と言い、ゴソゴソと懐を探っている時に再び電灯が光を取り戻した。
「なるほど、そりゃそうですね」と蝙蝠が独り言のように言う。
「侵入するのに真っ暗ではままなりませんからね。奴らは聖帝の血を絶やしに来ているわけですから」
電灯の装置を管理していた兵士が襲われて一旦灯りが消され、これでは不便だということでまた装置を起動したということだ。

 

角を曲がり、また曲がる。
「この辺は、実は¨あの頃¨よく使ってた道なんです、任務外でね。シュメにも自分の時間はありますから。この黒装束とは真逆の真っ白い、、フフ、趣味の悪い上下白のスーツばかり来てました」
意外な一面。サウザーの、即ち南斗の敗北から意識を逸らすため、その蝙蝠のナリを想像する。
「そんな姿ですから目立ちましてね。周りが¨蝙蝠¨の名を知っている筈はないのですが、ほとんど反対の名前で何故か白鳩さんと呼ばれてました」と含み笑いをした。
「さて、再利用はしても道そのものをいじることは困難でしょうから、、、こちらです」
角を曲がったその先、両開きのドア前に三人の警護がいた。皆殺気立っている、というよりも「覚悟」が出来ていた。
「お?おお!シン様!」
聖帝見廻り警護統括責任者リゾであった。

「もう他の者たちは離散。でなくば残党狩りで命を落としているでしょう。しかし私は聖帝様に命を託しました。ここで逃げるわけにはいきませんので」
「リゾ。この先にサウザーの子供たちがいるのか!?」
「たち、ではありませんよ」とリゾではなく蝙蝠が答えた。
「あの方には一人の奥様と一人のお世継ぎしかおりません。表向き数十人の側室とそれぞれのお子様たちがいることになってますが、全て偽情報です」
「はい、それは我々のような極一部の側近しか知らない話。側室というのも実際のところは侍女たちです」とリゾが引き継ぎながら蝙蝠を訝しげな表情で横見する。何者だ?何故内部情報に通じている?と。
「聖帝様が女を愛することなどありません。愛そのものを否定する方ですから」
リゾは敢えて過去形で話さない。
「しかし、一人だけ、そのお妃様だけは別でした。聖帝様が愛するに相応しい美しさと気丈さをお持ちの方」

と、遠くからほんの僅かに、しかし野太い声が響いて来る。
「探せ!サウザーめの血は絶やさねばならん!」
シンと蝙蝠は耳を澄まし足音から敵の人数を推測する。少なくはない。一軍丸々だろう。
「リゾ、話はわかった。ここは任せろ」
「しかしそういうわけには参りません。私は聖帝様に殉じる覚悟! シュウも、、シュウ様も亡くなった今、私も南斗の身ですし、運命を共にします!」
生真面目な男だ。シンは自分より年長なこの男を微笑ましく思えた。
「リゾ、お前にも家族がいるんだろう」

リゾは一瞬だけ痛いところを突かれた、という表情を見せたがすぐに切り替える。
「はい!しかしあやつらもこのリゾの妻と子。この時あるは覚悟して来たでしょう」

リゾ、、、、その家族は避難させてあるのか?

「いいか? 南斗聖拳は死んでいない!俺は誰だ!?南斗六星の一人殉星のシン! 必ず俺がもう一度南斗を興してみせる! だから今は、ここは任せろ。行け!」
「ですが!」
ギラン! シンが激情と殺気を込めて睨みつけた。
「う、わかりました。はい、、わかりました。行くぞお前ら。、、シン様!」

リゾは振り返った。

「ならば約束して下さい。いずれ必ずもう一度お会いできると!」
シンは黙って頷いた。そして早く行けと目で伝える。リゾたちは迫る足音と反対方向に走って行った。
「これでいい。死ぬ覚悟も結構だ。だが生きて家族と過ごすことに勝りはしない」
リゾたちとその家族が拳王軍の残党狩りから逃げ延びることを願った。
「シン様、、、」と蝙蝠が神妙な顔を見せる。次いでこれは参った、とばかりに首を左右に振りながら、、、
「そのお言葉お聴きしたかった。全く、、、これ以上私を魅了しないでいただきたい」