妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

50.

「蝙蝠。ゆっくりでいい。しっかり納得してもらえ。誰もここには入れはしないからな」
とシンは侵入を開始した敵の方へ向かった。


ラオウが来ているなら突破は困難だろうがそんな様子はない。奴がいればとっくに気がつく。北斗神拳暗殺拳としての一面は、少なくともこの新時代にあってラオウには無用なもの。

乱世の覇者となった男が自ら気配を消して、自ら聖帝の後裔を断つためにこんな陰気臭い地下にまで自ら足を運ぶ、、それはどう穿って考えてもあり得ない。

 

であれば残党狩りは雑魚たちの仕事。いかに数を揃えようと、ましてこの狭い中で何ができよう。

 

いや、、、
広くても何が出来る?

南斗の氣を高めて行く。それに合わせて気持ちが上がって行く。


「こっちだ! ここにいる筈だ!」
兵たちが、何とか恩賞を得んと殺到するため、その武具が壁に当たり騒がしさが増す。

 

シンは思う。
鉄の扉を斬り裂く南斗の男がいると知って押し入って来るとは。南斗も侮られたものだ。
聖帝サウザーと白鷺拳シュウが同日に地に堕ちたのだから致し方なしとも思えるが。
南斗聖拳は滅びてはいないことを絶望の淵で知るがいい。

兵たちが最後の角を曲がった時、そこに銀髪を揺らす男の姿を見た!

 

「ああ、始まりましたね。これはいかに聖帝様のご子息や聖后様でもなかなか残酷な場面ですよ。決断が遅いからです。散らかったモノは見ないではいられるかも知れませんが、、いや無理か。

いろいろとアレなものが散らばってますから足元見ないでは歩けない。とにかくそれよりも匂い、これが酷いんです」


敵兵を鎧ごど貫き、斬り、蹴り砕く。
手柄欲しさの喚き声は瞬時に悲鳴に変わる。
突かれる槍を左手でずらし、その左手をそのまま滑らせるようにして敵の胸を貫く。背後から横に斬り付けられる剣を背面跳びのように宙へ避け、下方に置いた敵兵数人を一度に裂く。

壁を蹴っては跳び回り、獣を超えた動きで暴れ回る。無駄な動きであるのを自覚しているが昂ぶる思いを抑えられない。


「だ、だめだ! 逃げろ! 逃げろぉ!!」
「これは無理だ! この南斗の男、かなりの使い手!!手に負えん!まさか六聖拳最後の男か!!」
逃亡して行く兵を追うことはしなかった。恐怖に囚われた味方は敵よりも怖いという。これでキヨミたちが安全に逃げる時間が稼げる。

六聖拳最後の男、、そう思われて結構。都合がいい。南斗慈母星の顕現と正体をラオウに知られればまた大事だ。

外の残党狩りも気にはなるところだが、それを指揮しているのは恐らくただの部隊長程度だろう。

だがその前に別の問題がある。気配があるのだ。すぐ近くに強い獣臭のような氣を感じる。先ほど響いて来た大声の主であろう。誰かを守りながらの戦いはシンにとっても容易ではない。

ならば引き受けるのみ。


「片付いた。今のうちに出ろ」
「え?もう? 早いですね、シン様。しかしこちらはというと、まだ聖后様は応じてくれません。約束してある逃し屋もそうは待ってくれないのですが、、、」
「シン、何故あなたが私たちを」
キヨミが言う。サウザーの子も勇気を振り絞って返り血を浴びたシンを見つめている。
「キヨミ、別にお前やその子の命を救うことが南斗聖拳の存亡に関わるとは思っていない。サウザーに通す義理もない。
そんなことはどうでもいいんだ。俺がここにいるのはただの行き掛かりだ。そこの男に利用されているだけだろう」
蝙蝠は「別にそんなつもりは」な表情と仕草を見せる。
「だが、目の前に捕われて公の前で処刑される運命にある母親と息子を見た以上、それを黙って見過ごせない」

キヨミはシンの意外な一面を見た気がした。プライドの塊で他人のことなど全く意に介さない男だと聞いていたからだ。そしてキングを名乗り悪虐の限りを尽くした外道、そう思っていた。

もちろんそれ自体は否定しようがない事実だ。
だが、それよりも遥かに傲慢で残虐非道であり、「悪」と言われた男の本当の姿もこのキヨミは知っている。もちろん、デレるような男ではないが、誰にも見せない一面があったのも事実。

冬の終わりの風の厳しさがふと和らぐような、そんな優しさがあった。悪と言われていても自分の前では、静かで穏やかな夫であり、息子にとっては強い父でもあった。そのサウザーがいなくなった今、、
「侍女たちと、、この子だけ、、お願いします」
その目が曇った。自分の運命を受け入れる強い覚悟はあっても息子との別れが悲しくないわけがない。しかし瞬時に表情に戻すと、
サウザーは間違いなく悪でした。まさに悪の帝王でした。ですが私たちにとっては」と言うのをシンが遮る。
「いい。そういうのはいい。サウザーは悪の帝王だ。乱世を羽ばたき、最後は北斗神拳と互角に戦い勇猛に散った。それでいい」

「シン、、」

後世、或いは聖帝サウザーも乱世を駆け抜けた英雄の一人として数えられるかも知れない。そして早々と消えたキングでさえも脚色されて語り継がれるのだろう。


膝を折り目線の高さを合わせ、少年に話しかける。
「名は?」
少年はしっかりとした口調で名乗った。
「そうか。でかく強くなれ。父、サウザーに負けないくらいにだ。簡単には超えられない男だぞ。だが、先ずはここから出なくてはならない。逃げるわけじゃない。未来に前進するんだ。サウザーの子だろう? 前に進むんだ」
少年は凛々しく強く肯いた。少年の混じり気のない強さに一瞬だが驚く。将器、いや王器がある。この少年には。

サウザーも「変わる」前はこのように輝く瞳を持っていたのだろうか?

今日も今日、南斗聖拳は最強の男を失った。敵兵を殺戮した後でさえ感傷的になりやすい自分を嗤う。