妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

65.

ガス欠前に四駆を大きい建物内の展示場だった広いスペースに乗り入れた。
シュメの男コダマは四駆を奥に駐め目立たないよう入念にカバーした。状態が良い自動車は稀少だ。次いで広いスペースの一角で火を起こす。手慣れている。

 

新世界と言われて久しいこの時代の、当たり前に静かな夜だった。


進攻中の帝都軍のおおよその位置は掴めている。自動車での移動はかなりの距離と時間を稼いだ。追いつくにはまだ時間がかかるが、今夜はここで休息である。


「蝙蝠はどうしている?」
コダマは言いにくそうに答えた。
「蝙蝠、、ですか、、あの男は我々の排除対象になっています」
「、、、なぜだ?」
「あの男はシュメでありながら南斗様の拳を修得した疑いがあります」
南斗聖拳血統主義ではない。才ある者であるなら受け入れる」
拳の才だけではない。南斗の中で生きていけるという才能も必要である。
「シュメは南斗様を絶対の君主としてこれまで繁栄して来ました。この世紀末戦争で我々も数を減らしましたが、、掟は掟です。そしてこの掟もただ徒らに掟となったわけではありません」
理解はできる、その考えに。理由はどうあれ蝙蝠が俺に勝負を挑んだことを知ったらコダマはどう思うだろうか。


、、、、、シンは一つ疑問を持った。
天帝の名の下に元斗の拳士が南斗を滅ぼすべく動いている。南斗の一部が、天帝の圧政に対し反旗を翻したからだという。

結果、シンが「南斗聖拳」と認めない下流ばかりが襲撃されているとはいえ、南斗の看板を汚す者には黙っているわけには行かない。
シュメ側としても南斗諸派が滅亡の危機に追いやられている以上は唯一の六聖拳であるシンに助けを求めるというのも筋は通る。
だがその襲撃者、元斗皇拳はシュメにとっても未知の筈。少なくとも楽な相手ではないことくらいは知っている筈だ。

 

南斗聖拳存続を託されているシン、、、

シュメとしては真の南斗聖拳を支持するか、あるいは数の多い亜流を支持するか、、、
単に自分たちの存続を考えるなら「数」を選択することも不思議ではない。

どちらにせよ、シンが敗れることあれば南斗聖拳全体の命運も決まることになる。

 

或いは別の考えも持っているのではないか、、、、

 


「日の出前に出る。もう休むぞ」
明日からは徒歩での移動になる。


あの後、、、
キヨミたちは南斗最後の将の治める街へ避難していた。だが、ユリアがケンシロウと共に街を出ると自然と街は衰退して行き、その後のキヨミたちの足取りはシュメでさえ掴めていないという。
そして今、帝都の軍が向かっている方向にはリマや花のいた村がある。一応は聖帝勢力に属していたが、元々僻地であったためか聖帝滅亡後にも拳王勢力が押し寄せることはなかった。
気になるのは、村の警護を任せた聖帝所属の小隊の長が南斗の男ダンだったことだ。信用はできる男のようではあったし、何より脅しをかけてある。バカなことはしていない筈だ。
やがて兵達はリマたちの村と自然に熔け合い、シンは稼いだジュドルを物資に替え、ダンを仲介に村が安定するまでの援助を続けていた。もちろん、名は伏せていたが、その匿名の援助者の正体は花たちには明白だっただろう。

シンにとって「再生」の場となった村だが、もう彼らの前に姿を現す気はない。
だがだ、この度の帝都軍の侵攻がその村にいるダン抹殺を目的としている可能性は高い。そうなると、あの村の人々にも危険が迫っていることになる。名ばかりの南斗より、彼ら村人たちを守りたいという思いがほとんど全てだった。


シンは浅い眠りに就いた。
危険な荒野での眠りでシンが夢を見ることはない。