妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

67.

「名乗らずともわかる。南斗の男か。これまでの雑魚とは違うようだ、少しは」
「似合わないその青服に身を包んだデクの棒が元斗皇拳か」
ダークグレーの革ジャンが似合うシンも軽口で言い返すが、見た瞬間から温度が上がってしまっている。うなじが騒つく。本能的にこの男が脅威となる敵であると感じている。
リマたちの村を守るため、南斗の看板を汚した者への怒り、、それらは既にシンの内にない。
未知の強者元斗皇拳のボルツを前にして、戦う如何なる理由も全ては後付けの如くだ。拳士の本能と南斗の宿命が血を滾らせる。


「貴様と同じ銀髪の南斗を知っている」
「俺は知らない。興味もない」
かつてキングと名乗っていた時の自分を言っているのだろう。
シンが一歩踏み出した時、シュオン!!、青い光が煌いた。シンの前、硬い土面を刻む線が引かれた。深く刻まれたその奥からは蒸気が発せられている。
この元斗の男は腕を横に切るのではなく、前に突き出しただけだった。南斗の裂波に似て非なるもの。青い光の刃が放出されたのを視た。

 

「俺は元斗皇拳青光のボルツ。青い光と書く」
「俺は南斗聖拳のシン」
「シン?、、、シンか。、、、流派は?」
南斗聖拳とは総称だ。流派を名乗れとボルツは言う。
南斗聖拳だ」
ボルツはフッと笑う。多少は出来るようだが南斗聖拳の最高峰流派でも古の六門の護りに過ぎまいて。聖帝サウザーであればまだともかく。
「線を超えた時、それを開始の合図としよう」
そして後方の兵たちに目を向けて言う。
「下がれ」
正確に十歩、大股で兵たちが二人から距離を置いた。列が乱れない。よく訓練されている。
「もっとだ」
さらに大股の十歩、兵たちが退く。ボルツがここまで言ったことはない。思わず盾を構える。

 

「シン様」
深いダメージを負っているダンが安堵と不安を混ぜ合わせた声を出す。南斗の荒鷲シンの強さは知っているが相手の元斗も並ではない。
それを聞いたボルツ。
「シンとは、そうかあの南斗孤鷲拳のシン、あのキングか?」
「だとしたら?」
「なるほどぉ。広域暴力組織キングが滅んでも張本人は生きていたと。南斗六聖拳に生き残りがいたか。そして合点が行った。呼応したのだな」
ボルツの言う意味がわからない。
「北斗の軍なる反逆者たちが遠方のエリアを陥し、それと同時に南斗の生き残りが騒ぎ始めた。その陰に貴様がいたか」
「何を言っている?」
六聖拳シンを前にしてもボルツの余裕の態度は変わらない。腕を組み胸を張り、見下ろすようにシンを見やる。南斗聖拳何するものぞ。
風と本人の氣により靡く青いマントには十字型の帝都の紋章がある。それぞれ四つの先端は二方向に割れており、威厳と高貴さと格式ばった印象を醸し出す。
南斗聖拳も、聖帝も、そしてキングの血の十字架も十字の紋章。二本の線分が交差しただけの単純な記号。それでも強い象徴力がある。

 

「ふむ、とぼけているでもない。知らぬのか。北斗神拳ケンシロウを救世主と崇める愚かな連中がその再臨とでも言うのか、ケンシロウを待ち望み、遂には待ち切れずに逆徒と化したのだ」
またケンシロウ、、北斗神拳か。
「圧政に苦しむ人民の解放を建前に、自分たちが支配者になりたいだけの貧民のルサンチマン。それらが体を為しただけのものだ」
「知らんな」
「信じよう。それにしても愚かな連中だとは思わんか?」
「、、、」
「圧政とはいうが我らには秩序がある。なのに奴らは再び世を秩序なき混沌に変えることを願っている。
指導者はハタチやそこらの若造とのことだが、いかにもガキが見がちな甘い夢。かつての旧い時代ならまだしも、この時代にそんな夢を描くとは」

そんなことはどうでもいい。
「そうだな、まさに青臭い夢だ」

ボルツの眉間に一瞬皺が寄り、そして首と肩を回してほぐし始めた。余裕で小馬鹿にするような視線はシンから一時も離さない。
「まあいい。弱者は徒党を組むもの。南北連なることになれば面倒な仕事も増えよう。フッフッ、嘘だ。俺はこの仕事が面白くて仕方ない。ワーカホリックだ」

そんなのはどうでもいい。
「話が長い」
気負うこともなくシンは線を超える。