妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

88.

「まさに混沌としている、というやつだな」

帝都内では兵士たちが、北斗の軍と、それより何より将軍ソリアを倒した北斗神拳伝承者の接近を前にして、これまで類を見ない慌ただしさで軍備を進めていた。
ルール無用の厳しい乱世を生き抜いてきた者たちも一応の平定下においては随分とその肉体と戦闘感覚が鈍(ナマ)ってしまったのではないか?
いずれにせよ、勝敗を最後に分かつ要素はケンシロウと残り二人になった元斗の将軍だ。
ショウキはケンシロウと会ったことはない。だが以前、自分の留守中に村を守った男のことを思い出す。
美しい女を連れていたあの男が北斗神拳の伝承者ケンシロウなのではないか?と。


「流石だ。お前ほどの男がここまで気配を消せるとは。遊ぶなガルゴ」
両開きの大きな扉が開き、ショウキよりも更に大きな男ガルゴが姿を見せた。
「お前こそ流石だ。ショウキ!」
戦闘でもないというのに気配を戻した途端、天井が抜けるかのような氣が満ちる。これほどの氣なら常人でも間違いなく体感できるだろう。
「フッ、暑苦しいわ」
と、ショウキは笑った。


「ファルコには会ったのか?」
「そのつもりはない」
神妙な顔でガルゴは続ける。
北斗神拳伝承者がここに来るのであれば、その相手をするのは元斗皇拳正統伝承者であろう。故に今ファルコの邪魔をする気はない」
ファルコと同じ金色の闘気を持つ男。一方は伝承者として、一方は「聖穢」として穢れた仕事を引き受けている。

(※蒼天の拳リジェネシスへのオマージュとして聖陰としていましたが、天斗聖陰拳の聖陰にはそれなりの意味があるかも知れないと思い、聖穢としました。
音的にもセイオン若しくはセイエンなので良いかと思います。過去に書いたものも直しました。)

「だがボルツを倒した男を始末するのは俺の役目」
「目星は付いているのか?」
「恐らくレッドイーグルとして知られていた賞金稼ぎで南斗聖拳の使い手だろう」

ガルゴの友にして一応の弟子である南斗神鳥拳のガルダが伝えたわけではない。ガルゴの抱える情報屋がボルツの敗残兵を見つけ出して話を聴いている。
レッドイーグルの噂は、にわかには信じられないような話であったが、その人物が南斗聖拳の上位拳士ならあり得ないことではない。
いずれにせよボルツを一人で倒したというのであれば南斗だろうと北斗であろうと流派に関係なく天帝を脅かしかねない危険な存在だ。
元斗「光」拳聖穢の戦士ガルゴが動くに値する。
ショウキはそれほどの南斗聖拳の使い手がまだ残っていたことにも驚いたが、「気の毒なことだな」とその謎の男を憐んだ。
相手がガルゴではむしろ一瞬で葬られるような実力の方がましであろう。南斗聖拳でガルゴに太刀打ちできるのは六聖拳ぐらい。いや、南斗最強と言われた聖帝ぐらいではないか。もちろんガルゴに勝てるまではあるまい。
半端に実力があればガルゴを相手に戦うことの絶望を味わうだけだ。

「ファルコはまだ耐えているのか?」
ガルゴが話を変えた。ジャコウの虐待に誇り高い元斗皇拳がただ耐えねばならない事態を憂いている。
「ファルコは天帝ルイ様と伝承者のサダメのためにあの蛇男の舐めた扱いに耐えている。もちろんファルコは心も強い。しかし、ここに耐えられない男がいる」
「ショウキ、、」
「自分の痛みや屈辱なら耐えられるかも知れん。だが奴は天帝と元斗を貶め続けている。ガルゴ、こうまでしてファルコは耐えねばならぬのか!?」
「それがファルコだ。だから奴こそが元斗皇拳伝承者に相応しいのだ」
「ガルゴ」
「俺は聖穢の務めを果たす。また会おう友よ。ファルコを頼む」
早々とガルゴが部屋を去った。

これだけのために奴は現れたのか?

それに「また会おう」とは奴にしては珍しい言葉を吐く。


金獅子ガルゴ。キメラスフィンクスと呼ぶ者もいる。王の風格を持った金色の戦士ガルゴが去った後の部屋の空気が柔らかさを取り戻す。
ショウキは思う。片脚を失ったファルコよりも、更に多くの死線をかいくぐったガルゴの方が拳技は上ではないかと。
それでもガルゴの言う通り。正統伝承者に相応しく、次代に拳も心も伝えることができるのはファルコのみであろう。
だからこそショウキは迷う。
ファルコと元斗の誇りを重じてジャコウを討つべきか、、、
ファルコの元斗皇拳伝承者として果たさんとする責務、それを尊重しジャコウの横暴に耐えるべきか、、、