「お、お前は!?、、ブレイ!」
何故だ!? 何故にお前が??
「フハハッ! 流石ガルゴ。化け物め!」
そう言いながら銃口を向けているのはかつて友と呼んだ男ブレイだった。長く癖の強い黒髪と色白な肌は少しも変わっていない。
少数精鋭で構成された自軍兵も全滅。それよりも遥かに多い数百もの敵の屍が散らかる血みどろの戦場に最後に現れた敵将が、まさかの旧友ブレイだったとは。
「銃器で武装した者がこれほどいたというのに、この兵士たちを全て素手にて葬り去るとは流石に元斗皇拳。いや?元斗でありながら天帝守護を棄てた聖穢の拳だったか?」
今では狂気に満ちた、それでいて神経質そうな顔をしている。
何故だ? 何故ブレイお前が天帝を敵に回して帝都に攻め入ろうとした?
「だがその傷、、それでは流石の貴様でももう指一本動かせまい! 猛獣キメラスフィンクスも人間の狡猾さには及ばぬか!」
ピユン!
金色の光が瞬き、刃となってブレイを斬り付けた。
「長く話し過ぎたな。勝機を逃さず早く引き金を引くべきだった」
確かにガルゴの身体は受けた傷と氣の消耗で限界に来ていた。その状態から彼を救ったのはブレイの傲り。落ち着いた一呼吸が元斗聖穢の一撃を蘇らせた。
逆袈裟に斬られた傷から血と生命力を吹き出させブレイは後ろに倒れた。紅い夕刻の空が霞んで見える。
沼地に入り込んだように重い身体を引きずりガルゴはかつての友に歩み寄った。せめてその死顔は拝んでやろうと。
「は?ブレイ!」
横たわるブレイの顔に満足げな笑みが浮かんでいるのに気が付く。
「フフ、フ、、これで、、いい」
「ブレイ!!どういうことだ!?」
「これも、、俺の宿命、、、呪われし宿命だ、、」
「ブレイ、、、まさか! お前!?」
かつて、、、
天帝の敵は彼を抹殺せんと大小幾度も武力による侵略を試みた。
だが、いかに策を練り上げ攻め入ろうとも、大軍を引き連れようとも、天帝の御傍に仕える北斗と元斗は元より、六門の守護者である南斗六聖拳を突破することは不可能であった。
六門の一つとして破られたことはないのだ。
ならばどうするか。
組織内に紛れ込ませ、内部から崩壊させればいいのだ。それこそまるで北斗神拳のようにだ。
ところがその巧みな潜入者でさえ、北斗神拳伝承者の前では隠し通せる嘘や企みを持ち得ない。
では、、侵入者本人がそれを自覚しなければ?
幾世代に亘り信用を作り天帝の忠臣として仕えるまでの地位を得る。そしてやがて遂には懐に潜ませた凶刃を光らせる、、、。
「だがブレイ! この時代を見ろ! 既にお前が仕える王たちもおるまい!!」
「宿命、、なのだ。この汚れた我が役目を嫌っても、お、俺は忌み役の元に、、、生を受けていた、、、」
苦痛に顔を歪ませながらブレイは言う。
「天帝を衛る元斗に、お前に、、正義があるように、忌み役にも守らねばならない義がある。、、、天帝とは絶対の正義、、善なのか?」
善悪の話などどうでもいい。正義など見方による。そんなことはわかり切っている。それであろうと俺たちは、自分たちの上に正義の旗を掲げて戦う。そういうものだ。
「ブレイ、、」
「だ、、が、、もういい。これで、、」
苦痛に歪んでいたブレイの表情が柔らかくなって行く。それが何を意味するかガルゴには理解できる。
「もう、俺は自由だ。忌み役もこれで、、終い。俺はお前の友として、、世を去れる」
「ブレイ!」
「ガルゴ、、お前は、お前が守るもののために、、生きろ。お前やファルコたちの、、強さもそれだ。、、守るもの、護りたいものが、、、ある、、からだ、、、 、 」
「ブレイ!」
ブレイの亡骸を抱きながら立ち上がったガルゴは激しく泣いていた。顔に付いた敵の返り血が涙と混ざり流されて行く。それでも涙が止まることはない。
「ブレイ、ばかな! 何故俺を撃って命を得なかった!? 何故サダメなどに囚われた!?」
仮にここで俺を倒せたとしても兵力は失っている。ファルコやソリアたちが構える帝都を陥せるわけはない。ならばせめて、ここを逃れて新たに生きれば良かったのではないのか!!
ブレイ!、、、
「いいだろうブレイ!」
天帝守護の拳元斗皇拳を用いながら、闇に紛れて先に敵を討つ「積極的に」護る拳。守護ではなくそれは「殺」。
「俺はこれからも変わらず元斗のサダメと聖穢の役目を守り抜く! これはファルコのためであったが、今日この時からはお前のためでもある!」
「南斗千首龍!」
ブレイ!! ファルコ!!
カッ!
「何!!? 躱した! この間合いで!!」
無数最速の連突きが躱された!
ガルゴが完全に「氣」を失った瞬間だった筈だ!
骨と肉の力では避けられない間合いだった!
どうやって!?
「ガルゴ!」
油断はなかった、、つもりだ。氣の消耗度を読み間違ったとは思えない。
とはいえ、驚くのはひとまず後でいい。既に勝負は決した。
バシュ!!シュゥ、、
ガルゴの身体から夥しい出血があった。
千の突きのどれもガルゴの命に届きはしていない。どれも浅い。しかし、浅くても多数の龍の牙がガルゴを捕まえている。
完全と思えた間合いを外したのは見事且つ不可思議ではあっても最早戦闘の継続はガルゴとて不可能。
勝てる!
元斗最強の呼び声高く、あのガルダが俺より遥かに強いと言い切ったガルゴに! 俺は勝つ!
南斗聖拳は終わらない! 今日からここで新しく始まるのだ!
「見事だガルゴ! だがもう躱せまい! キサマを倒し、南斗はここから強く眩しく天空に輝く星となる!」
右の拳に裂気を集め、全身には軽功の氣を満たす。神速の前進で詰めて、最強の突きで全てを破壊する!
それで終わりだ!
ギラ! ギラン!!
「う?何だ、、光が!」
先ほどガルゴが空けた天井の穴からギラギラと強い光が射しており、それがシンの両眼を煩わしく刺激した。
「!!」
ドン!!
シンの見上げる先に、、
「あれは、、、死兆星!?」
分厚い雲にも穴が開き、そこに光り輝くは北斗七星。
その隣の小さな筈の蒼い星が、今や北斗七星よりも大きく輝いている。今にもシンに目掛けて落ちて来そうなほどに。
「バカな! 何故?」
何故に死兆星が消えない!?
何故にこうも強く輝いている!?
「影力と、そしてこれぞ、、」
「!?」
ガルゴの声が混乱を来すシンの正気を取り戻す。見ればガルゴの様子が先と違う。思わずシンは数歩退いて構え直した。
そのガルゴが静かに言う。
「これぞ元斗「光」拳奥義 無心」