妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

93.

第三エリア。

帝都から最も近い大型の街で、衛星都市の役割も持っている。ただ、この場合の衛星都市とは都市機能としてのものではなく、文字通り「衛星」、衛る役目を意味していた。
しかし、兵士の大部分は北斗の軍来襲のために駆り出されており、たまに見かける兵士たちは一目見れば残された理由が容易に推察できるような質の悪い者たちばかりだった。
街の中央にはこのエリアを象徴する高いタワービルがあり、そこにこの街の高官たちが詰めていた筈だ。

今は違う。

いかに敵軍が迫っており、そちらに兵力を集めていたとして、これほど閑散としているわけがない。既に中央帝都の支配力が低下しているのか、或いは何者かの策略によるものかも知れない。ナンフーとやらの。

だが丁度いい。
それがシンの率直な感想だった。
ガルゴとの対決には邪魔者はもちろん立会人も要らない。ましてケンシロウサウザーが戦った時のような大勢の観客など御免被る。

曇天を見上げれば、まだ昼間であるのに強く輝くあの星が変わらずに見えていた。
霊的なものは信じてはいないが、超自然現象と言えば南斗聖拳自体もその最たるものだ。受け入れるのに困難なことはない。
それよりも、その星が持つ意味の方が遥かに重大である。

逃げ遅れた、若しくは逃げることなど諦めている老齢者や、この機とばかりに建物内を物色するコソ泥やその同類に堕ちた帝都兵たちを脇に見ながら街中央のタワービルに向かう。
ガルゴはそこにいる。
シンはこのエリアにガルゴがいる、という情報しか得てはいないが、奴は最もわかりやすい場所でこちらを待っている筈だ。


死兆星を見ていても悪い予感に捉われてはいない。ガルゴという強大な敵と戦うというのに恐怖はなく、それよりも何故か高揚感で身体が熱く軽い。
ベストだった。絶好調というやつだった。
「復活」して以来、多くを学んで来たつもりでいる。拳技も高まったという実感がある。ガルゴと比して格下の男のものとはいえ元斗皇拳は見ている。

自分がここで敗れるなら南斗聖拳は終わるが、そんな責任は感じていない。弱い流派なら乱世に埋もれて当然だ。勝って前に進むしか南斗聖拳の存在意義を証明できない。存続させる価値も見出せない。
今のシンにとって死兆星は強い動機付けとして働き、彼の半ば眠っていた闘志が全開で燃え上がっていた。


タワービルの最上階。
各部屋の仕切りはなく、直径1mほどの円柱が多々あるのみである。外壁も所々取り払われており、昔の自分の居城サザンクロスを思い出させる。

広いその空間の中、、、
そこだけ重力が異なるような一点があった。そこに長く豊かな金色の髪の男が座っていた。重苦しい沈黙を纏った巨体。

「ガルゴ」
南斗聖拳のシンか」

ガルゴは座したままでシンをじっくりと観察した。シンの所作には迷いも恐れもない。実に晴々とさえしているように思えた。
「なるほど」とガルゴは独りで納得しながら立ち上がる。その風貌はどことなくラオウを彷彿とさせた。


今の俺ならサザンクロスに現れた拳王ラオウを退けることができるか?
俺はサウザーと互角にやり合える舞台にまで上がっているか?

それはこれから自分で証明するしかない。


「ボルツでは相手になるわけはなかったな」
「そのボルツに元斗皇拳は見せてもらった」
「俺の拳は、」

ボルツとは比較にならない、と言うのだろう?

「貴様の知る元斗皇拳とは違う」
「違う?」
違うとは?

「俺の拳は元斗聖穢の拳。技は元斗皇拳だが使い途が異なる」
と、シンに寄る。

「、、、」
違う。なるほど違う。
ボルツが見せた元斗皇拳は基本的に待ちの拳。強固な盾で守りながら押して来る。そして生じた隙を剣で攻めるというような拳だった。前提に絶対的な防御があり、それ故に堂々と構えていた。
恐らくそれが天帝守護を主目的とした拳である元斗皇拳なのだろう。

ガルゴは違う。
帝都の将軍のようなマントは身に付けておらず、身体中に多くのプロテクターを装備してはいるが、自由な動きを邪魔するようなものではない。
まだ始まってもいないがガルゴの重心は僅かに前方に偏っており、その拳が守ではなく攻に重きを置いたものであると推察できる。


防具と言えば、、、
彼ら半神とも言うべき超人たちの氣で強化された肉体は防具の強度を超えている。かと言ってそれらの防具が無意味なわけではない。傷を浅くしたり、拳撃の直撃を逸らすには役立つこともある。
シンが着ているシュメに調達してもらったばかりの黒いシングルライダースジャケットにも、その両肩に薄い鉄板のプロテクターが装着されている。
実用性もあるが、それよりも何故かこの時代の流行り傾向であって、少なからずこの乱世を力で生き抜いてきた者たちの肩にはほとんど必ず大小様々なデザインの防具が備え付けられていた。


シンとガルゴ、、、間合いを遠くに保ち向き合うことしばし、、、
互いの出方を読み合う長い沈黙を破ったのはガルゴだった。
突然気が変わったかのように巨体を反転させ、背後の景色に目を向けた。

「見ろ。あの帝都の不吉な塔を」
言われるままにガルゴの後方遥か遠くに見える巨大な鉄の黒塔に目を移した。
「、、、これは!?」

中央帝都その巨大な建造物の真上辺りであろうか、厚い雲に覆われた天が、、、
「天が、、割れている?」

その割れ目からは神々しいまでに美しい光が射していた。
ただの自然現象といえばそうなのだろうが、そう言ってしまうには不自然なほど帝都の上空から横一線に天が南北に分かれている。南北と言っても南斗と北斗が天を分かつわけではない。
北からの来訪者ケンシロウと、それを迎え撃つファルコとの間にできた巨大な天の断裂であった。