妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

92.

北斗の軍は既に帝都の最終防衛ライン(急遽定められた)付近にまで進軍して来ていた。
ケンシロウを先頭にしたその軍勢を止める術はなく、そして帝都内においてもボルツ、ソリアの将軍が敗れるという未曾有の事態が混乱を加速させている。
さらに追い討ちをかけるのがファルコに次いで人望の厚いことでも知られる赤色将軍ショウキの謀叛であった。
天帝謀殺を企てるも金色のファルコ将軍がこれを事前に察知しショウキ将軍を処刑とした、、、となっている。
帝都内においても、この叛逆劇を言葉通りに受け取らない兵士たちも少なくなく、混乱に尚一層拍車をかける展開となっていた。

 

「明日には、、、北斗の軍の総攻撃が、、、始まるでしょう」
片膝を着きながらそう言ったのはシュメ一族の男サクマンである。短髪口髭の中年で大きな傷痕が横に額を通っている。

そしてサクマンには言葉をいちいち変に区切る癖がある。


「それにしても、、シン様、、、ガルゴとの闘い、、今は、、避けられませぬ、、か?」
ガルダとの手合わせの後、入れ替わるようなタイミングでサクマンはシンの前に現れた。その時シンはガルゴの捜索を命じている。

ガルダの火翼に打たれたシンの右肩と右腹は翌日にはボロボロに皮が剥けはしたが、既に差し障りなく完治している。
暗殺拳としての南斗聖拳直系の孤鷲拳には回復を助ける特異な氣の用い方がある。孤鷲拳は長期の作戦を含む、最も「現場」に則した流派なのだ。

しかし、サクマンはシンにダメージが残っていると危惧している。もっと言えばガルゴという危険な敵との戦闘が時期尚早ではないかとも考えていた。

 

帝都を基準に見たとき、ケンシロウたちが北から進軍しているのに対し、今シンがいるのは真反対に位置する小さいエリア(郡都)の一角である。
そしてガルゴは、、、片脚を失くしたファルコよりも既にその拳技は上と見られる元斗の金獅子は、ここから程近い第三エリアに滞留しているとのことである。
ガルゴ側がシンの居所を掴めているかどうかは不明だが、先に相手の居場所を知ったところで抜き打ち的に攻め込むわけではない。
あくまで拳士としての誇りをかけた戦いとなるのだ。十分に見合ってからの「始まり」となる。

「既に、、、そのエリア、、も北斗軍の接近に伴い、、、ほとんど、、もぬけの殻。帝都から近い、、、ということで、ゆくゆく、、はシティ(市都)への、、、格上げも視野に、、入れていたようですが、この事態ではそれも叶わず、、、です」
こんな話し方だが性格はクソが付くほど真面目で、先日会ったばかりのリハクのように険しい目付きをしている。


「住民たちも消えたのか?」
「大商人たちは、、、持ち前の、、勘の良さで店を畳んで、、避難。奴隷たち、、や兵士相手に金、、を稼いだ者たちも、、相手がいなければ、、、商売上がったり。今では、僅かな、、兵たちを置いてるだけ、、、となっています」

 

ということは既にゴーストタウンと言った体であろう。帝都を包囲できるほどの数ではない北斗の軍。一方向からのみの攻撃が故に兵の配置もそちらに集中させているというわけである。

 

「しかし帝都には巨大な火砲が数門これ見よがしに据え付けられている。軍で押し寄せても当てるのに容易い的に過ぎないのではないか?」
「あれは、、、だだの飾り、、です。機能して、おりません。ですが、、、他にも、それなりに、、敵を想定した、、、軍備は、、」
「わかった」
サクマンのじれったい話し方を遮った。

「ご苦労」
「は、、ではこれにて失礼致します。南斗様の再建のお手伝い、今後もさせていただきたく存じます。御武運をお祈りしております。また再びお会いできることを切に願いながら」
急に流暢に話しだしたサクマンに対しシンの表情も奇異な物を見る目に変わる。


「左様なら、これで失礼します!」

 

南斗にも変わり者は多かったが、シュメも流石に南斗の下請け。個性的な面々の集まりだな、とサクマンの鍛え込まれた後ろ姿を見送る。
サクマンは慌ただしい人混みを数秒眺めると、自分の設定を決めたようで一瞬にして北斗の軍の襲来に怯える商人に変じた。表情と仕草だけでの見事なる変身に感心せざるを得ない。
シンは旧世界時代これほどシュメと接したことはないが、今こうしてシュメに度々助けられる状況に置かれると、その個々の能力の高さに驚くばかりであった。
むしろ、ある種の諜報活動に関しては南斗の下請けとして多数こなしているだけに南斗よりも遥かに卓越しているのだろう。
以前のシンなら拳こそ全て、力こそが全てであった。それが今では別の分野の匠たちの技に敬意さえ持ち始めている。

かと言って、シュメのためにもガルゴに勝利するという思いは微塵もない。シュメはコダマたち革新派の存在も明らかになったように、そんな柔で弱い組織ではない。気にする理由はない。
それよりも、、、


シンは晴天の空を見上げた。

この眩しい昼間の大空に、太陽ではない一つの星が強く眩しく輝いている。星を背負う者たちとそれに密なる関係者にしか見えず、しかも死が迫ることを意味するあの死兆星である。
ガルゴとの戦いは不可避。逃げたとしてもガルゴは追って来るだろう。聖穢の務めのため、天帝の脅威となり得る南斗聖拳を放置はしない。

ならば立ち向かい死兆星を覆さねばならない。
南斗聖拳のためではない。南斗聖拳伝承者である自分の誇りのために。