妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

91.

「それは楽しみだ。俺の見立てではアンタは俺より弱い。そしてガルゴは俺よりも強い。前にも言ったが勝負は見えている」

度重なるシンへの挑発だが、今この男を敵として見ることができない。どうにもこの挑発や歪んだ性向には訳ありな気がしてならないからだ。
それにシンとて自分がガルダに劣るとは思っていない。このガルダが侮れないのは事実としても。
ただ、それだけに本気でやり合うとなれば、また疲弊し負傷してでガルゴ戦にはとても臨めないであろう。

と、考える自分を客観視し、冷静に努める中で、苛ついている自分がいるのも事実。

低い沸点を少々高めたところで、、、、


「俺の拳を見ていないお前が何を知った気でいる?」
「ん?」
「そんな手になってそれで尚自分の拳を究められずに元斗に頼る? フハハハハ! 才なしが! 良かろう殺してやる!」

言葉だけでの挑発返しのつもりが、、、自ら吐いた言葉に煽られて火に油を注いでしまう。
これでは成長したつもりでいたのも台無しだ。全くどうしようもない。
だが、、、、


気分がいい
すこぶるいい


挑発に弱いのはガルダも同様である。
シンは生来のプライドの高さ故に、ガルダは自分に拳の才がないという思い込みによる劣等感から。

先に動いたのはガルダである。
しかし、この男にも高く無駄で邪魔で愛おしいようなプライドがあるのか、先制を仕掛けるにしてもその気配を隠さない。
「貴様に死兆星を見せたのは、、、」
ガルダの右手から炎のような闘気がメラメラと燃え上がる!

「俺のようだな!!」
伝衝裂波のように下から燃えた右手を振り上げる!
「南斗神鳥拳!地走り炎(ほむら)!!」
バザズズズズ!!と不吉な音を立て、炎がコンクリートの床面を裂きながらシンに迫る!!
凄まじい速さの裂炎!
本物の火炎でないため、その速さでも炎が消えることがない。

だが!
「(炎など、、余計なものが加わっているだけ。この距離で避けるのは容易い!)」

シンは左に回避し裂炎をやり過ごす。
その後方でエアコンの室外機を載せていた架台が破壊された。鋭く切断した後、残った炎が断面を溶かしている。

そもそも「来る」機を隠さないのだから常人ならともかく南斗聖拳の上級拳士、、、今や唯一の上級拳士シンに当たる筈がない。
それがわからないガルダではない。だからシンはこれを目眩しと判断。回避した先、床面を破壊する踏み込みの勢いで前に出る!
しかしこれも「先」ではなく、ガルダの「後の先」を誘うためのフェイク。ガルダの攻めを先読みし、その守りの崩れに南斗の手刀を撃ち抜く!

「炎狂い咲き!」
ガルダが裂炎を乱撃する!
「!!」
シンはそれに合わせ裂波でガルダの裂炎を突きで合わせて無効化する!
氣の炎が花弁のように舞い散る中をシンが詰める。

間合い!!

が! シンの右手突きをガルダは身体をずらして見切り! ながらのカウンターで燃える右手の突きを放つ!
シンは外れた右手を戻しながら左手でガルダの突き外へ受け流し! ながら顔面へ下方からの突きを撃つ!
しかしガルダは頭部をずらして突きを回避! 読んでいる!
そして左手でシンの右腹部を狙うが!
これはシンのフェイク。
狙いを外された右腕を畳みながら肘を突き出し、震脚を地面に踏み打ち強力な肘撃でガルダの右胸部を強撃!
指先ほど南斗の裂気を集中させることはできないが、その硬度と破壊力はコンクリートブロックを打ち砕く。

バギャ! 
「ぬぐぉ!」
氣にて強化された筋肉をも貫く衝撃がガルダの上部肋骨を折る。
押され退がったガルダをシンが追い討つ!

ギラン!
ガルダは退がりながらも左手刀で横凪ぎに斬るが、動きが大きい。シンは容易に右腕でガルダの左手首を受ける!
「くっ」
ガルダの右腕はダメージで遅い。シンの左がガルダの胸部に狙いを定めた時!

ブワァ!!
「!?」
受けたガルダの左腕の一撃から微かに遅れて左肩周辺から、まるで炎の翼のような闘気の一撃が発せられた!
「ちっ」
身体の動きと連動していないために予測ができない一撃だった。それでも幸運なのは既に元斗皇拳を見ていたこと。
ボルツの元斗皇拳も腕の動きとやや異なる光の刃があった。その経験が生きた。
最速の反応、、とは言え、「予測に勝る反応なし」の教えの通り完全な回避は不可能だった。
裂炎の左翼に打たれてシンも間合いから弾き出された!
「ゔっ!」
最速の反応故に全身で浴びることはなかったが、炎の翼の威力と熱量は予測以上。シンの銀髪が焦げる。

シンの上衣右半身は火翼の威力で散り散りになり、その布切れは焼かれて灰になった。右肩の防具も衝撃でひしゃげて表面は溶かされている。

シンの身体も戦闘中の気で護られているが軽い火傷は負った。

 

これが南斗神鳥拳! 厄介だな。

これが南斗六星の一人! 侮った!


睨み合う形となった。
次はどう出る?どう来る?
予測!
脳がフル回転する!
氣を読む!気配を察する!現状の態勢から繰り出せる最適の技を選び抜く!


シンは戦闘の高揚で既に恍惚とさえなっていた。

 

「ちっ、、もういい!」
敗北宣言ではなさそうだが、戦闘を急に打ち切ったのはガルダだった。
「何を言っている?」
ジンジンと湧き立つような刃が体内を巡っている。

「はぁはぁ、ジジイどもはガルゴにアンタがやられるのは黙認するが、俺は許されてない。クソッ、痛えな!」
ガルダから熱い闘志が急激に消え始めた。しかしその言葉からして、まだシンを倒せるだけの抽斗はあるということだ。


「いいぜ。今日は負けを認める。クソッ!噂通りの才だな、アンタ」

 

シンも逆上による勢いに任せた闘いを省みる。あのサウザーだったらこの勢いを空回りさせる技量があるだろう。今のケンシロウであれば尚!

しかし、久々に自制なしの「かつての自分」に戻り、シンの気分は上々だった。
それに素直に負けを認めるガルダだったが、まだ出し切っていないことくらいは発した言葉からじゃなくても容易に察せる。

 

「大方、南斗宗家に人質でも取られてる、ということか」
ガルダは答えないが、表情がそれを肯定している。
「そっちにも事情はありそうだ。勝負はなしにしておいてやる。それよりもキサマの安い挑発で昔に戻れたことを感謝しよう」

互いの呼吸が通常に戻った。これにて戦闘は完全に終了である。

「アンタ強えな。だが、それでもガルゴのが上だ」
右胸を押さえながら肩を回す。ガルダは「うっ」と右目周りは仮面で覆った若い顔を歪めた。
「ガルゴはどこにいる?」
「俺がアンタの居所を掴めたように、ガルゴもアンタを見つけ出すのにそう時間は要らないだろう。待ってりゃいいさ」
右胸を押さえたままガルダが踵を返す。
「でも生き残ってみろよ。そうなりゃあ、アンタのとこの看板もそれなりには高く掲げられるんじゃねえか?この乱世に」
「待て。もう一つ訊く」
面倒そうにガルダは振り向きシンの言葉を待った。
「ナンフーという男を知ってるか? その男は南斗宗家の者なのか?」
「ああ、ナンフーな。ただの部隊長だ。ジジイどものパシリじゃない。だが面白いことにナンフーってのは包帯で正体隠してるが時々中身が変わってるんだとよ」
「、、、」

ガガ、、、ガラガラガラガラ!!
南斗神鳥拳の裂気に刻まれ、シンの激しい踏み込みと震脚で損傷したコンクリートの床が下階へ落ち始めた。
シンはサッと軽く静かに後方へ跳ぶ。

「あれだろ? 北斗の軍に資金回してるって話。事実らしいが関心はねえ。どうでもいいだろそんなこと!」
ガルダは降りて行った。

「たしかに、、」
辺りを見渡す。

南斗と南斗のぶつかり合いの跡を見て笑いがこみ上げそうになる。

「たしかにどうでもいい」