妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

90.

「ガッカリだ。こんな男を南斗聖拳と呼ばねばならないあのジジイどもにも、こんな男に南斗聖拳を託したあのユリアにも、、、!!」
反射的にガルダは退いた。殺気が鋭い。見えない数多の刃が二人の間の空気を斬ったかのようだ。

「ハッ、全く激しいな。あのジジイどもはその激しさが好きらしい。いかにも南斗的なんだとよ。ヒステリックでな」

南斗は北斗の女ではない!!
女を連想させる言葉を俺に使うな!!

沸点が低いシン。沸点に達した途端身体が動く。
右手の突きを構え、間合いを詰める直前!
シンが止まった。
「、、、、」
「何故止まる? いや言っとくが来たところで俺は避ける。撃ち返してもいい。何故止まった?」

ガルダの反撃を警戒したからではない。無意識にシンの拳を止めたもの、、、無益な殺生を嫌がったのだ。
ガルダは挑発に弱いシンを敢えて挑発した。ユリアの名を出し、次いで南斗を貶す発言をした。
殺意は湧き上がったが「命を奪うほどか?」との自問が足を止めたのだ。
あの異形とも言えるガルダの両手は、厳しい修行の果てだと言っていた。南斗聖拳組織からの援助も受けられず、六聖拳の一人になる資格がありながら、慈母星降臨のため亡星となり報われることのないサダメに堕ちた男。
そんな男を一時の感情に任せて破壊してもいいのか?

「ハッハハ、アンタ俺よりは年上でもまだ老け込む歳じゃあない。なのにもうお師匠さんみたいな境地にいるんじゃないか?」
「、、、」
「敗北から立ち上がる人間もいる。敗北に呑まれる人間もいる。優しさとかそういうのやめてくれよ?俺たちに必要はない。アンタ、、呑まれたな」
「何、、、」
自覚がある。そうなのだ。拳は確実に技量を増した。それは間違いない。だが、かつてあの時のような勢いが失せている。自分の行動に善悪の理由があるか否かと自問する足枷が付いている。
避けようがない戦いに臨むのか、或いは敵がかつての暴凶の王だったシンから見ても人外の狂人であるならばともかく。
だがこれは決して恥ずべきことではない。暗殺拳の伝承者とは言え標的は無差別なわけではないのだ。
ふと昔聴いたシュウの言葉を思い出す。

「私を南斗の良心と呼ぶ者もいる。だがそれは違う。私も南斗白鷺拳の伝承者になるにあたり、幾度も人を殺めて来た。何度も何度もだ。南斗聖拳に善人はいない。だからこそ南斗聖拳の使いどころは間違ってはならない」
「、、、」
「暗殺の拳を伝承された以上は人の命に敬意を払わねばならない。南斗は決して表で暮らす人々に知られてはならない組織だ。我らは活人拳でなくてはならない。
人を生かすために悪虐な者を討つ。しかしこれも綺麗なことであったり格好の良いことではない」
「そういうところが南斗の良心と呼ばれる謂れだ。そしてシュウ、これも俺との見解の相違というやつだ」

、、、、、
敗北に呑まれたのか?
そうではない。以前の俺は間違っていた。血迷っていた。とち狂っていた。


「でもいいさ。それなら南斗聖拳、、、孤鷲拳。それを伝えて行けばいい。あのジジイどもは頭が逝かれてるが気長なんだ。何ならその前にオレが北斗神拳を滅ぼすことになるだけだ」

「俺は、、」
「何だ?」
死兆星を見ている」
「!」
すぐにガルダ吹き出した。
「まさかアンタあんな迷信を信じてるのか!? これは笑える。北斗神拳の六番目の星の脇に、、元々星はある。むしろ見えぬようでは死が近いというものだ」
ガルダはシンを嘲る視線のまま続けた。 

ケンシロウラオウサウザーと戦うとき死兆星が見えなかったから挑んだのか? 
サウザー死兆星が見えていたのか?
あの拳王ラオウ死兆星を見ていたのか?
そして今、ケンシロウ死兆星を見ていないから帝都に向かっているのか?

「本当に失望した。南斗六聖拳の一人に数えられたアンタがこんなだとはな。その死兆星とやらが真実の話なら、アンタに死をもたらすのはガルゴだろう」
「かも知れん。だが死兆星は絶対ではない。逃げるではなく立ち向かい進む先に生を得るものだ。弱い南斗聖拳では残す価値もない。俺は北斗神拳を超えるため、ガルゴを喰らう!」
シンが左拳を握り込んだ。空気が圧縮され隙間から抜け出る空気が南斗の裂気となった。