妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

112.

「それには賛成致しかねます。シン様」
わりと珍しい真顔で蝙蝠は答えた。

あれから四日経っていた。シンは南斗聖拳の拳士でありながら、、、風邪をひいていたのだ。
高熱にうなされ、身体は激戦によるダメージが深く、そしてそれよりも、恥辱に塗れた敗北感が更に重くのしかかっていた。
それが回復するに連れ、不思議なことに気持ちの方も整理されて来ている。あの屈辱的大敗で、自分でも拳士としての心は完全に折られたかと思っていたのだが。
あまりにも激戦だったせいだろう。全て出し切っていたし、その凄絶さ故に少しばかり現実感が欠けているのかも知れなかった。或いは記憶も少し飛んだのだろう。


天帝軍を吸収した北斗の軍対提督直轄軍の最後の戦い。その中を蝙蝠に先導され助けられ、命からがら逃げ果せたが、掌に握ったガルゴの遺灰は放さなかった。
結局、最終的にはほんの僅かしか残りはしなかったものの、このガルゴの灰をファルコに届けたい、そう思い立ち、シンは蝙蝠に相談したのである。
高さ数センチの小さなガラス瓶にはガルゴの灰が入れられている。綺麗な夕焼けの見える丘に葬るつもりであったが、ガルゴはファルコのことを思い戦い続けていた。
ならばまずファルコに遺灰を渡し、その後の弔いは任せたいと思った。

同門の友への強い思い、、それはシンが持たない感情でもある。彼だけではない。一枚岩ではない南斗聖拳組織にあって、将星という頂点はいても基本的に六星は互いを牽制し合う状態にあった。
レイとシュウの間には年齢差を超えた友情があったが、それは例外的な話と言ってもいいだろう。
だが、元斗皇拳には他の流派がないためか、いやそれよりもファルコの人徳であろう、ボルツのような輩はいはしたが、概ね確りと纏まっていたと言えよう。

「後は、、元斗の方々はその頂点に天帝陛下があられますからね。ですんで南斗様や北斗様のような下部組織がありません。いえいえ、あるんですよ? ですが、あくまで陛下直属の組織でして、その中に元斗皇拳てのが、、、」
「蝙蝠」
「はい?」
話し続ける蝙蝠を遮った。聞きたいことは山ほどある。

「まず、礼を言う。ありがとう、、、」
「は、あ、、」
シンは深々と頭を下げた。
「ちょちょちょ、何されてるんですか!シン様!シュメの私めごときに、、いえ正確にはもうシュメじゃないんですけど、、」
「では尚更だ。シュメでないのに俺を助けてくれた。これに頭を下げずにいられるか?」
「はあ、、、」
と蝙蝠は唖然としている。

「そうだな、、何から訊こう」
と白いものが多くなった蝙蝠の頭髪を見た。その視線を感じ蝙蝠が答える
「これですね、いやぁ元からわりと白髪多かったんですよ。ですが、私は蝙蝠じゃないですか。私もその蝙蝠っていう自分、気に入ってるんです。そのイメージ、大切だと思いまして」
「フフ、、そうなのか」
シンは疲れたように笑った。蝙蝠に疲れたのではない。まだ体調が完全ではないからだ。

「ええ、ですんで染料を事あるごとに溜め込んでたんですが、尽きてしまいましてねぇ。自分で材料調達して調合するのもいいんですけど、、私もこう見えて実はなかなか多忙でしてね」
と、どこか照れ臭そうに言う。
「それで思ったんですよ。白いコウモリもいますし、、いえもっとも、そのコウモリはユニークな姿でして私のイメージじゃないんですけど、部分的に白い毛のコウモリもいますからね。それで行こうかと」
シンは笑った。蝙蝠も笑った。

「蝙蝠、、もう一度言う。ありがとう」
しみじみと言うシンの姿を見て蝙蝠も戸惑いを制し得ない。
「やめて下さいって!それこそシン様のイメージじゃあありませんよ!?」
と、蝙蝠は背を向けた。
「ちょっとまた色々と物資を持って来ますから。他の質問はその時でもよろしいですか? ここは安全ですし」
砂漠のような荒野に佇むぼろぼろのビル群。雨風を凌ぐには十分だが、水も食い物も付近で調達ができないため、他には誰もいない。

「ああ、その時で構わない」
「はい、ではまたすぐに。ファルコ様にご遺灰を渡すお考えはちょっと保留にしておいて下さい」


スゥ〜と軽い足取りで蝙蝠は階段を降って行く。
「ありがとう、、ですと」
シュメの男としてこなした仕事は多い。こなして当然。礼など言われない。稀に「ご苦労」や「よくやった」はあった。それを、、
「ありがとう、、ですって」

あの南斗の荒鷲が。

「ありがとうか。シュメの蝙蝠として言われたの、、いつ以来でしょう」
地上に戻り、これまたぼろぼろのクルマに乗り込む。

「シン様、もう本当に私を魅了しないで下さい。こういうシン様もありっちゃありですよ」

そしてイグニッションキーを回した。