妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

68.

開始の一線は超えたが未知の相手元斗皇拳に対して速攻を仕掛けるほど今のシンは迂闊でも自信過剰でもない。
ボルツもマントを大袈裟に翻しながら四駆車から億劫そうに降車した。シンを侮れぬとは認めつつも、南斗聖拳下流の雑多な流派に過ぎないという思いを内含している。


互いに中距離攻撃を持っている。恐らくボルツに上位南斗聖拳との戦闘経験はないだろうが、裂波のことは知っている筈だ。
シンは内面に熱い血の滾りを感じつつも気負うでもなく一見平静とした歩みでボルツに寄って行く。まだ構えも取っていない。
シンもボルツも知る由はないが、かつてジュウザがラオウ相手に恐怖することもなく平然と間合いを詰めに行った様子と酷似している。唯一異なるのは目付き。
ジュウザは不敵だった。
シンは鋭い。鷲が獲物を狙うような無機質なものでもない。ボルツを格上と認めたわけではないが、その目は挑戦者のものだった。

ボルツもシンに合わせて距離を詰めるが、やや斜めに誘導する。せっかくの四駆車を傷めたくはないという思いと、そしてシンを少しでも長く観察するためだ。
そしてシンに隙がないことを認める。南斗聖拳と言えど頂点の六聖拳が一人。
戦闘用の呼吸を開始する。既に数撃分の氣は体内に練られていた。


3m、、、二人が同時に足を止める。
シンは初めて構えを取った。右脚を前にした半身の構え。右腕は前方に伸ばし指先は口の高さ。左腕は肘を曲げて胸の高さに手を置きやや離す。
孤鷲拳の基本的構えの一つにしてシンが得意とする双鷲の構え。利き手の右は牽制、左手は防御と迎撃。前方への意識を集中したバランスの良い構えだ。
一方のボルツは半身に構えることはなく仁王立ち。
「ふおお」という呼気と共に両腕を腹部の高さに構えた。


セット!


帝都の兵たち、そしてダンも息を呑み二人を見守る。
まだ二人は動かない。


半身になるでもなく悠然としたボルツの構え。これは絶対の自身の現れだけではない。元斗皇拳は天帝守護の拳。まさに防壁の如くシンの前に立つ。
このボルツが元斗最強の男でないことはシンも知っている。エリアを活動拠点としていたのだ。金色のファルコの名を知らない筈もない。ボルツがどれほどかはこれから知ることになるが、容易な相手ではないことを肌で感じ取る。

ジリ、ジリ、とシンは油断なくゆっくりと距離を詰めて行く。ボルツの構えからして後の先を取るであろうと読む。あの体勢からでは瞬時に間を詰めることは出来ない。
しかし思い込みは危険。だからこそシンは攻守に優れた構えで警戒を怠らずに寄る。

二人の間合いは2mを切った。
南斗聖拳の軽功術なら神速一瞬の詰めで手が届く。
だが!
元斗皇拳ボルツにとっては「至近距離」の間合い。既に「手」は届く。

 

シンの様子を伺っていたボルツが先に仕掛けた!
シンが受けに回っているのを確信しての先制。
左手を青く光らせながら「撃つ」。横に広い一撃。
その気配が南斗と異なっている!

 

斗士及び高位の泰山や華山との対決になれば、目で見てからの反応では遅い。
身体の予備動作でいち早く反応するのは当然だが彼らは更にもう一つ早く、氣の「起こり」を視る。
氣の起こりで攻めの機を察し、身体の起こりで筋を見切る。もちろんこれを一瞬の一瞬で行わなければ間に合わない。
そして生死をかけた実戦の経験の数が正確な予測を可能にして行くのだが、今回はその培った予測があてにならない。


飛翔は間に合わない!しゃがむ間もない!
受けるほか選択肢はなかった。
伸ばしていた右腕を戻し前腕に氣を集める。南斗聖拳にとっては得意でない氣で受ける防御だ。得意でないのは致し方ない。対南斗、対北斗ともに氣弾を受けることはほとんど想定されていない。
シンとてラオウの剛の氣やサウザー戦のケンシロウを見ていなければ、このボルツの一撃に致命的な遅れを取ることになっていた。

 

バッ!!
「!?」
それでも強く圧された!
氣弾でこの衝撃。詰めた間合いが広がる。
間を入れずボルツが右手での氣弾を放つ。真昼間でも青い閃光が眩しい。しかし流石に二撃目は距離もある。シンは横に避け青い氣弾をやり過ごした。
避けた氣弾は猛烈な速さで地面と水平に飛び、15mほどで不意に蒸発するように消えた。

シンは構え直してボルツを改めて見据える。

 

焦げ臭い。
革ジャンの前腕部が焼けていた。微かにタンパク質が焼ける匂いも混ざる。

これが元斗皇拳か。いや、まだ元斗の扉を少し開けただけに過ぎない。この先に何があるか?

 

元斗皇拳に対する興味でボルツから目を離せない。
元斗皇拳に対する警戒でボルツから視線を移せない!