妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

75.

やはり。
ボルツの戦意は死んでいない。その一撃に全てを載せている。それでいい。その状態でもこちらの命を断ち切ろうとしている。

ここで敢えて危険な賭けに出よう。

シンの落下地点でボルツは迎撃の構えにある。前に出した指のない左拳は防御に徹したものだ。場合によっては棄てる覚悟だろう。
であれば右の拳にこそ、その実がある。

シンはボルツの動きを宙にて読み、頭上から蹴り砕く選択を棄てた。いや、元より猛鷲脚の構えは誘い。それに乗りボルツは下からの迎撃に出た。
直後、宙空のシンは腕を広げ無防備な体勢でボルツに対した。
ボルツにも一瞬の戸惑いがあったが、既に全霊の氣を込めた一撃を引くことは出来ない。

「元斗猛天掌!!」
ゴアッ!!
だが、、、
「!?、これは!?」

シンはボルツの一撃を宙で躱し、フワッと通り過ぎると静かに着地した。
完全ではない。完全ではないが形にはなった。躱しながら一撃を加えることはまだ困難だが悪くない。
羽根と化す南斗鳳凰拳の奥義、天翔十字鳳。シンはこの奥義の名は知らないが、体験することでその片鱗を覗き、そして遠方からだがケンシロウとの戦いで見てもいる。
誰にでも試せる技ではない。相応のリスクは必要だった。故にボルツほどの男でなければ試すことは出来なかった。
反省点もある。最後の一撃に賭けたボルツの動きを見切るのはあまりに容易いという点だ。それでも得たものは大きい。
真のサウザーの奥義にはまだ遠いが、まずまずの出来ではあろう。

ザッ!
ボルツが振り返るより速くシンは向き直りながら腕を胸の前で交差し、その腕を前方ボルツに向けて大きく開いた。極星十字拳ではない。あれは帝王に反逆した者への断罪の刻印だ。

斬!!

十本の指先から極限まで研ぎ澄ました鋭い裂気の線を発し、それがボルツの巨体を通過する。
ボルツはシンに振り返る途中で崩れ去った。
強敵だったが、斃すときはあっけなかった。

「おお!やった! さすがシン様だ!」
とダンは駆け寄ろうとしたが、まだまだダメージは抜けていない。バランスを崩して手を着く暇もなく顔面から地面に倒れた。
そんなダンのことはまるで気に掛けもせずシンはシュメ一族のコダマに顔を向けた。
先程、一度はもう崩壊した南斗聖拳からシュメを解放してやろうと、そう考えていた。
今は違う。
南斗聖拳はここからだ。再構築が始まる。「聖拳」を会得することもない武具の扱いだけに長けた流派など今後南斗を名乗ることは許さない。
その新しい南斗聖拳にもシュメの影働きは必要だ。
「コダマ」
「は」
コダマの表情は死を受け入れていることを伝えて来る。即ちシンによる処刑をだ。
「今回の件は不問に処す」
「、、、、」
シュメの一部の改革派により南斗下流諸派の居場所が帝都に知らされ、その結果として少なくない犠牲者が出ている。それを赦すというのは、言ってみれば乱世の大恩赦だ。
コダマは土下座しシンと南斗聖拳に詫びた。むしろこのまま背中を撃ち抜かれた方が良いとさえ思っていた。逆に、これでシンにはこれまで以上の絶対的忠誠心を示さねばならない。
コダマは思う。
シン様が見せたボルツとのこの戦いは、かつて南斗の荒鷲として名を馳せていた頃とは違う。未知の強敵に対して受けに回り、じっくりと元斗皇拳の本質を見極めんとしていた。
真の南斗聖拳、五聖拳の唯一の生き残りであるという事実がシン様を変えているのだろう。まさしく立場が人を作ったのだ。
胸と背中に刻まれた十字型の傷、、、今私は新しい南斗聖拳の歴史を目の当たりにしているのだ。
だが、元斗皇拳ファルコを中心とした帝都の猛者たち。加えてボルツが言ったもう一人のとんでもない男と評された元斗の男。
更にはシン様と同じ銀髪の南斗、、、

それはコダマにもわからなかった。
シュメが把握していない南斗聖拳などない筈。あり得るとすれば108派に数えられない、過去に滅んだ流派であろうか?

でないとすれば、、恐らくあの、、、

そんなコダマの意図を差し置いてダンが「シ、シン様、お待ちを」と間抜けた声を出す。別にシンは今すぐどこへ向かうということではないのだが。