妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

49.

「探せえい! 拳王様に逆らった暗帝サウザーの血を絶やせい!」


2mを超える巨体。ラオウにも迫るばかりの大男が野太くややかすれた声で兵士たちを奮い立たせる。
拳王麾下三泰山の一人、バイケンである。(本編連載前読み切り北斗の拳の梅軒オマージュ的見た目)
狙いはサウザーの妻子だけではない。捕らえられたリュウガの救出もある。
三泰山としてリュウガやヒルカと並び称されるバイケンであるが実質的にはリュウガが拳王軍のNo.2である。
バイケンはそれが気に入らない。拳の腕と人望ではリュウガにやや劣ることを認めざるを得ないが、そのリュウガを自らの手で救い出したとあれば彼の名は上がる。
さらにサウザーの血筋を絶やしたとなれば、聖帝が滅亡し拳王がこの乱世の覇者になった今、リュウガを抜かしての二番手となれる目もある。そうともなればほとんど何もかもが思いのままだ。
拳王がほとんど支配を完了しても尚、力が基本の世界であることに変化はないが、新しい身の振り方を模索すべき、とも考えていた。

「バイケンさん! リュウガ様発見しましたぜ!」

と、バイケンと同じような野太い声が谺する。本当ならリュウガの野郎と言いたいところだが兵たちの耳がある。
「よし! リュウガ将軍を救護隊へ急がせろ!」

このバイケンも、腐れ南斗の穢れた血筋野郎と言いたいところだが、兵たちに聞かれてしまうことは避けたい。後々面倒なことにならないとは言い切れないからだ。
そしてバイケンの元に現れたその野太い声の主は、こちらもかなりの巨体に短い黒髪のモヒカンと髭、そしてこの点も同じくどう見ても悪人顔の男ゴウダである。(同じく読み切り北斗の拳のオマージュ的見た目)
この男も泰山流の使い手で、栄華を誇ったあの時代にあって、決して光の当たらない世界の仕事に従事していた。
バイケンとゴウダは泰山流の戦士として暗殺を生業とした最高級の位であるA級戦士であった。

 

 

「シン様、すみません。鍵を受け取るの忘れてました、さっきのリゾ様から。お願い出来ますか?」
ピゥ!! シンが一瞬にして鉄扉を斬りつけ、先の道を開く。

蝙蝠が鍵を受け取り忘れる、、そんなミスを犯すだろうか?

そもそも鍵そのものをリゾが持っていたら倒された挙句に鍵を奪われてしまい侵入を許すことになる。単に自分の鋭い裂気を見たいだけではないのか?

しかし、そんなことはいい。

 

「はあ、さすが南斗様。って、感心している場合ではありませんね。こちらかと思われます」
と、シンを誘導する。
敵方は各部屋各通路を虱潰しに探しながらだが、ここに到達するまでの時間にそうは余裕もない。
蝙蝠が足手纏いになることはないにせよ、人を守りながら戦うというのは難しい。
いや、答えは簡単だった。サウザーの妻子は蝙蝠に任せて自分が守りに徹すればいい。南斗聖拳の恐ろしさを間近に見せれば自軍の勝利を味わいたい雑兵どもには逃亡しか選択肢はない筈だ。

すべきことが明確になりシンは心が晴れるのを感じたが、南斗聖拳の敗北そのものは心底にドッサリと場所を取ってしまっている。思いを振り払う。
「恐らくこの扉の向こうです」
ではまたお願いします、、と蝙蝠が言う前にシンは鉄扉を除去した。扉のすぐ裏側に人間がいないことは気配でわかる。扉と一緒に斬ってしまうことはない。

蝙蝠が恐れたのは彼女たちの自害である。敗北した王族の末を思えば辱められ苦しめられるよりも潔く自ら命を絶つというのは容易に想像がつく。
そして少し進むと、、、
強い目線でこちらから目を逸らさない美しい女が立っていた。サウザーの妻であろうことは一瞬でわかる。上等な身なりだけではない。
立ち姿、気品、何よりこの場この状況を理解しての覚悟がある。自害も考えにはあったであろうが、そうなる前には間に合ったということか。

その貴夫人ともいうべき女が何か言いかけ息を吸い込んだとき、先んじて蝙蝠が言う。
「お迎えに上がりました。すぐそこまで敵が来ています。さ、こちらです」
流石蝙蝠だ。余計なことは言わない。名乗りもしない。
そして彼女の後ろには、まだ5,6歳だろうか? 怯えながらもしっかりとした強い目線を母親と同じくこちらから逸らさない少年がいた。一眼でわかる。サウザーの子だ。
年老いた侍女たちが、恐怖と不安を感じつつも庇おうとするのを跳ね除け、シンと蝙蝠の前に身体を小さく震わせながらも立っている。
何となく、、理解出来た。シンにはもちろん子はいないが、サウザーと同じ髪の色と質、そして真っ直ぐなこの少年の目を見た時、サウザー南斗鳳凰拳を学ばせない理由をわかった気がした。

「あなたは!?」と王妃が問う。焦りは感じているようだが強い声であった。
聖后様、あなた方を保護することを出来る方がいます。もう私たちが敵でないことはわかっておいででしょう。時間はないのですよ」と問いには答えず行動を促す。
その時、王妃は漸くにして蝙蝠の背後のシンに気が付いた。まさか生きているとは思っていなかったのだろう。
そしてシンの方にも見覚えがあった。キヨミ、、確かそんな名前だった。凛とした美しさは少しも変わっていない。サウザーが選ぶとしたら確かにこんな女だろう。

聖后←これはキヨミとも読むようです)

しかし、キヨミはシンのことには敢えて触れない。六星の一人としてかつては敬うべき存在だったが元は顔見知り程度。それよりも、、
「いえ、私は行けません。私はサウザーの妻です。サウザーが死んだのなら、私」
それを蝙蝠が遮る。
「はっきり言います。あなたの考えはどうでもいい。私は依頼を必ず成し遂げることでよく知られています。無理にでも連れて行きますよ」
その時、声が響く。
「バイケン様! こちらに扉が破断された跡が! ここでしょう! しかし!!この扉の有様!! 南斗の残党が中にいるかと!!」