妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

43.

「シュウ、、、見事」

 

南斗六星の重鎮、南斗白鷺拳仁星が聖帝十字陵の頂、冠岩の下に、、遂にその光を消した。
いや、その光は消えたのではない。自らの死を以ってここにいる多くの者たちの心に宿ったのだ。
特にケンシロウの心に。

 

それにしてもケンシロウ、、、こんな遠くから見ているのに圧倒的な存在感がある。最強の暗殺拳北斗神拳が気配を消すのをやめた時、これほどの人気(ジンキ)を発するのか。

仁の星シュウの生き様と死に様はケンシロウのみならず一部の聖帝兵の心さえ動かしているだろう。
世界が変わるとしたら、きっとこんな時だ。そしてその中心にいるのは北斗神拳伝承者、、、ケンシロウなのだ。

シュウの悲しみを心に刻み、奴はまた俺に差をつける。

俺はシュウの死にさえ涙を流せない。

 

「いよいよですね」
と蝙蝠は努めて冷静に話すが興奮を隠し切れていないようだ。
遠くにはラオウとトキの姿も見えている。

 

時は少し戻り、、、、

「それはダメですシン様。もしサウザー様が再びケンシロウを倒しても、まだあのラオウとトキもいるのです」
話口調は普通のようでも興奮しているのか、蝙蝠は北斗側に「様」をつけていない。
サウザー様がもし敗れることあれば南斗聖拳はあなただけしかいなくなります。南斗様を滅ぼすことは許されません」
「だからといって俺に、この南斗北斗の宿命の闘いを隠れて見ていろというのか!」
「そうです」
「!」
上目遣いでニヤけるような蝙蝠が、今回ばかりは真剣な眼差しでシンを真っ直ぐ見返した。
「いいですかシン様」と昂ぶるシンを諫めた。
サウザー様、ケンシロウラオウ、トキ。その列に今の貴方が並べますか?」
「!!」
「貴方はこの新世界早々に敗れた身。力ではラオウからユリア様を守れず、ケンシロウに惨敗した男。まだです。まだあの列には加われません。しかし、先がある。貴方には先がある」
言い返す言葉が見つからずシンは硬直した。
サウザー様が勝つならそれでいい。しかし、北斗三兄弟を連戦で倒すことは可能でしょうか。いかに北斗神拳が効かないといっても、あの三人の拳はサウザー様と互角の力を有している。
サウザー様敗れたとき、南斗聖拳の未来はあなたがつなぐしかないのです。ここは忍耐し傍観者を貫いて下さい。ケンシロウとトキには今更貴方と戦う理由はないでしょう、貴方が仕掛けない限り。
しかし、ラオウは違います。あの男は豪胆でありながら同時に用心深い。後の脅威となりかねない南斗聖拳の生き残りの貴方を見過ごしはしないでしょう。完全に降伏するならばまだしも、ですが」

説き伏せられた。返す言葉がない。下手に言い返そうものならそれは恥の上塗りだ。そう、南斗北斗にあっては敗北は恥。誉ある敗者など認めない。

だが、ただ南斗聖拳の命脈を保つために屈辱の生を受け入れろというのか?

そして、、、蝙蝠はこの期に及んでも南斗六将の最後の一人には言及しない。やはりこの男はその正体を知っている。


シュウがサウザーの兵達を南斗白鷺拳裂脚空舞で文字通り蹴散らしている。あれがシュウの見せる本気の白鷺拳。脚で斬り裂くという南斗聖拳にあっても特異な流派。
「流石に南斗白鷺拳シュウ様。あんな兵士たちでは物の数にもならないでしょう。シン様、あの方の拳、よく見ておいて下さい」
何故に蝙蝠はそんなことを言うのか、、、

そして、やや離れた小高い丘にいる小集団。旅人のような体を為しているが、その立ち居姿からただの旅人ではないとわかる。この宿命の戦いを検分に来ている者たちだ。
皆顔を覆っているが、あのガタイのある男は恐らくリハク。フドウはいないようだが、「あの時」にいた他の二人とリハクの娘はいるかも知らない。

そして一団の中央にいる者は線が細い。消えかけた想いが込み上げそうになるが、シンは強引に気持ちを切り替えた。

タイミング良く蝙蝠が話しかける。
サウザー様は恐らく負けます。南斗聖拳の宿命、役目を為さないからです。天が驕り高ぶったサウザー様を罰するのです。北斗神拳伝承者によってね。

一度は北斗神拳に勝ちを収めても、このように反撃の機会を与えてしまうのもまた何かの働きだと思いませんか?」
シンの温度がやや上昇した。それは自分にも当てはまったからだ。
「サダメというやつか。俺には理解出来ん。そんなサダメは誰かが天を騙り決めたことであろう。そんな自虐思想が南斗聖拳に限界をもたらすのだ。南斗聖拳北斗神拳に永久に勝てないとでもいうのか!」
「シン様、、、私がサザンクロスで貴方をお救いしたことの顛末はお話ししました。あまりに出来過ぎだと思いませんか? そしてその左手のことも」
「何をいきなり」

その時、遠くでシュウがサウザー目掛けて跳んだ!
狙いは玉座サウザー
しかし、その突きをサウザーは座ったまま頭部をずらして見切り、一方、シュウは何を言われたのか続く斬撃に行かない。
いや、元よりサウザー相手にあんな単調な突き、しかもかわしやすい頭部を狙うとは。まさかこの期に及んでまだ情を?
もちろん、それならそれでサウザーも対応する筈であるが、明らかに達人シュウらしからぬ攻め。サウザーの後方に捕らえられた人質の命を気にかけたのか。

 

そして、、、、
「シュウ!」
「シュウ様!」
両腿を斬られたシュウがサウザーの高き御座から転落した。