妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

44.

サウザーがマントを投げ捨て十時陵の石段を上って行く。その目線の先には北斗神拳伝承者ケンシロウ
北斗神拳南斗聖拳最強鳳凰拳の宿命の戦いが、この最高の舞台で遂に!
拳王ラオウ、トキ、そして遠くからは「死人」のキングであるシン。もう一人、南斗六将最後の一人。
豪華な「観客」を前に幕は上がった。 


「シン様、南斗鳳凰拳は階段での戦闘というのはやりにくいのではないのですか?」
たしかにそれはある。あの南斗の、いや他流含めても間違いなく最速の足捌きは階段上では、死にこそはしないものの本領発揮とは行くまい。
だが同時にサウザーには鳳凰の翼がある。レイやユダでさえ及ばない飛翔の技があるだろう。


「あ!サウザー様が刺されましたよ。ケンシロウ様に意識を集め過ぎましたね。あ〜あ、まずいですね、あの少年、、、、お?お咎めなし。なるほどこの宿命の対決にあっては大事の前の小事ほどにもならないということでしょうか」

そんな単純なようには思えず、シンは軽く困惑した。背面からのためサウザーの表情は見えないが、ケンシロウに何かを話している姿は憂いを感じさせる。
サウザーの横顔が見えた。遠いが、やはり悲しんでいるように思える。悲しみというよりあれは悲痛だ。悪の帝王サウザーの悲痛だ。

そして常人には聞こえないほど微かだが、はっきりとした遠い声がシンの耳に届いた。

「愛などいらぬ!!」
叫びだ。魂の慟哭だ。

と、サウザーが恐ろしいまでの疾さで駆け上がりケンシロウに突きを撃つ!
だがやはりサウザーはその疾さを生かし切れてはいない。ケンシロウは上体を引いて突きをかわすとその勢いのまま素早く背転しながら脚でサウザーを斬る!

「あれは南斗白鷺拳の背転裂脚」
サウザー様もギリギリで避けましたね。どうでしょう?まともに極まればサウザー様もあれで肉片でしたかね?」
そうとは認めたくなかった。南斗聖拳にあっても特に高度な技術を要する白鷺拳の裂脚。それを簡単にものにする北斗神拳を、ケンシロウを認めたくはなかった。

 

ケンシロウ様は南斗聖拳も使えるようですし、北斗神拳が通用しないなら押し切るつもりでしょうか?南斗聖拳で」
「それはない。断じてない。北斗神拳が効かないから南斗聖拳で倒した、、、それは北斗神拳の勝利と言えるか?」
「そう、ですね、確かに。ならば剛拳で砕き壊すという戦法でしょうか?」
「それも考えにくい。蝙蝠お前が言った通りだと思うが、強い殺気には威力ではない別の「重さ」が生じる。剛拳とあればサウザーは回避する筈だ」
「ですね。でなければ拳王ラオウサウザー様との戦いを避ける理由がないでしょうから」
蝙蝠とてそれは理解している筈だ。それを敢えて言わせるのが気に入らない。自分の理解度を試されている気がする。だか!今はそんなことはいい。
「以前のお二人の戦いも観れてないんですよね。残念です」


またサウザーケンシロウが言葉を交わす。拳の力だけではない。南斗北斗というだけではない思想信条のぶつかり合いでもあろうか?

サウザーが後方を振り返り何かを叫ぶ。
するとゴゴゴゴと大きな機械音を立て石壁の一部が下にずれ、小さな石室が現れた。
そこに何者かが座している。しかし全く動きがない。生きた人間ではなかった。即身仏、、であろうか?

いや!
あれは恐らく、、、
「蝙蝠、今日は○月○日だったな?」
「へい、間違いありません」
そうか、、サウザー南斗鳳凰拳の伝承者になった日である。
なぜそれを覚えているか、、、その数年後の同じ日に南斗聖拳の帝王である聖帝を名乗った日でもあるからだ。

つまりはあの遺体は鳳凰拳先代伝承者オウガイの亡骸。サウザー鳳凰拳の伝承者になったその日は、それ即ちオウガイの命日なのだ。
ケンシロウとの初戦勝利の日、たまたまかそれとも蝙蝠がいう宿命か、オウガイの命日に近かった。
そして救い出されたケンシロウが再び現れたのが今日この日、、、これも宿命だというのか。
北斗神拳終焉の日が将星の目覚めの日であり、師父オウガイの命日。あるいはサウザーの、聖帝の前進が止まる日になるのか、、、

そしてシンは理解した。南斗聖拳の将の将であったサウザーが激変した理由を。
自分はというと孤鷲拳先代を全く敬うこともなかった。孤鷲拳では我が才持て余すとばかりに早々に他流会得に乗り出してしまっていた。
だからサウザーの深い心情を理解できなかった。帝王の厚い仮面の下を察するには足りなかった。

サウザーはシンと違っていたのだ。南斗鳳凰拳は帝王の支配のためのツールではない。

南斗鳳凰拳は師父オウガイとのサウザーにとっての大切な過去であり、受け継いだ誇りでもあり、何より愛情その全てなのだ。
サウザーは「南斗聖拳」の為にだけ戦うわけではない。師父から受け継いだ「南斗鳳凰拳」の為に戦うのだ。
そして師父が残したたった一人の愛弟子であった自分の為に、止まらない前進を続けるのだ。

 

一子相伝の非情な宿命により、サウザーは歪んだ。
蝙蝠が南斗聖拳を言い表した通りだ。

南斗聖拳は強く、そして弱い。

 

サウザー、、勝て!
キサマの支配がどんな世界をもたらすのか?

政敵がいなくなれば、或いは善の王にもなるのだろうか!? 可能性は低い、、、
だが悪の道を変わらず進むというなら必ずこの命をして止めてみせよう。倒せないまでもその歪んだ道を正せるまでの力を手に入れてみせよう。
その力を「いずれ」と言わねばならないが、必ず示してみせる!

 

だが、、今は、、
サウザー、、、、

「勝て!倒せ!北斗神拳を倒せ!」
サウザー。やはりキサマは南斗聖拳の帝王だ。俺とは格が違う。認める。だから勝て!
キサマが自分のためだけに戦っていても、南斗孤鷲拳の俺のためにも勝て!勝ってくれ!
サウザーお前は南斗聖拳のプライドなんだ!

「シン様」
やはりその炎のような激情、好きですよ。
「それにしてもサウザー様にもあんなところがあったんですね。ますますファンになる。やはり南斗様は、、、ええ、最高です」