妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

レイ.37

ラオウとの睨み合いで、サウザーにこちらを気にする余裕がない、それを見計らい、俺はケンシロウを背負って走った。

目指すはこの街の外、という曖昧な目的地点。

もちろん、街からの脱出が成功しても、それならそれで追手は来るだろうが、先ずは脱出だった。

 


予想外に重く感じた。人を背負って走るなど、修行時代は日常と言っていいほど頻繁にあったことだ、、、それは言い過ぎか。

氣に感化し始めてから、急に荷物、この場合は背負う人間だが、それらが軽くなった。

 


今、ケンシロウを異様に重く感じるのは、状況の違いによるものだ。

 


修行も、決して甘いものではなかった。命を失いかねない時も、幾度かあった。

しかし今は、ケンシロウという乱世に射す一条の光を背負っている。さらに加えて言えば、北斗神拳千八百年の歴史を負っているのだ。

北斗神拳のことは、所詮他流の事情ではあるが、南斗と北斗は表裏一体。どちらが欠けても未来はないと、俺にはそう思える。

つまり俺の背中は、時代の今後を決定付ける最大の要素、鍵を背負っている!

 


「中央だ! 拳王がいるらしい!!」

「けけけ、拳王が!!?」

 


文明の大部分が滅んだこの時代にはあまりに不釣り合いな明るい街中を、俺は走り続けた。

聖帝兵の連中と違い、モヒカンでもない俺を怪訝な目で見て、声を掛けようとするモヒカンどももいるが、拳王が単身で現れたこととは比較にならない些事だ。

そうか、或いはこの街にも兵士以外の様々な奴隷たちもいるだろう。

拳王が現れた→巻き込まれて負傷した→そんな仲間を背負って避難している

そんな構図もでき上がりそうなものか。むしろスピードを抑えた方が目立たない。体力も温存できる。

 


中央ではまだ二人の睨み合いが続いているようだ。少なくとも「始まって」はいない。酔っ払いの喧嘩とは一億倍もスケールが違うのだ。

始まっていれば南斗水鳥拳伝承者の俺でなくとも、いやこの街の全ての生き物が気付くだろう。

 


門!

 


流石に門兵たちは持ち場を離れていない。こいつらを脅して門を開放する。それは全く容易だ。

 


「むぁあちやがれぇい!!」

 


ぬ!?

 


振り向くと男がこちらに向けている、火炎放射器を。

モヒカン頭は同じだが、いかに周囲がやや明るいとは言え、昼間でもないのにサングラスを掛けている。

そうか、、もしそのグラスが火炎の光から目を守る目的であるならば、こいつは相当焼き慣れている筈だ、、人間を!

ケンシロウを放し、、ケンシロウはその場に倒れるだろうが、今更その程度のダメージは関係ないだろう? 俺は放火魔を始末しようと考えた。

が、相手もただのバカではないようだ。あっという間に弓兵や弩兵、それにニードルガンナーたちに包囲されてしまった。

 


「惜しかったなぁ! 南斗義星のレイ! だがお前はこれからただの犠牲になるんだぁ!」

 


なんというテンションの高さか! 南斗聖拳を前に!

よくいる。こういう輩はよくいる。南斗聖拳を知りながら、その恐ろしさを理解できない輩が。

 


「構えろ!!」

 


放火魔の声によって、20名以上の飛び道具兵が一斉に構えた。その狙いは言うまでもなく、俺だ。しかもまだ敵の数は増え続けている。

 


「やっぱり、拳の腕は恐れるほどでも、戦場の機微ってのは理解してないようだなぁ。聖帝様を選んだ俺たちは最高についてるぜ!」

 


その下品な放火魔野郎の言葉に合わせて、下卑た笑い声が連鎖する。

、、俺は本当に不思議に思うことがある。

俺の南斗水鳥拳の力は少なくとも噂くらいなら聞いているだろう。

なのに、こいつらと来ると、数と武器の優位に恃んで、その間抜けなニヤケ面を隠せない。

距離を取り、手には飛び道具を持っている。なるほど猛獣や巨獣相手ならそれも良かろう。

 


俺を猛獣程度と考えるか?

こんな奴らにはわからせないとな

 


何人来ようが、銃を構えようが、俺は捕まえられない。狙いを定め引き金を引く、或いは矢を放つ、、、そんな悠長な暇があると?

 


「思い知らせてやろう」

そう呟いたとき、俺は気付いた。

 


!!!!

 


しまった!!

ケンシロウがいるじゃないか!!!

 


流石にケンシロウを背負っては、この包囲網を崩すどころか突破も、、できない!

 


「聖帝様になあ、歯向かうきったねえテメェはよう、、汚物だよ。汚物はどうするか知ってるか?」

「何!」

「消毒するのが正しい。抗菌、除菌、殺菌、滅菌いろいろと言葉はあるが、一番良いのは熱消毒だ!」

「黙れ!」

 


放火魔はやはりバカだ。その火炎放射器で炎を発すれば、神聖なる生贄をも焼いてしまうだろう。

それよりもっとバカなのは、南斗六星の一人を侮っていることだ。

 


良いだろう、、南斗聖拳の最高峰、南斗六聖拳の力を思い知れ!

全ての矢を断ち、火炎を斬り散らしてくれる!!

 


「おおお!!」

 


俺は全身に力を込めた。氣を込めた。

 


「んあ? 舐めるなよ! 俺は南斗聖拳109個目の流派! 南斗火炎放射器取り扱い術だ!!」

 


殺す、、、許せない冗談だ。

あいつだけは絶対に殺す!

俺は南斗水鳥拳に誓った。

 


「行くぞテメェら!! 汚物は!!?」

 


奴らの声が大合唱となって荒野の暗い空に響き上がる。

 


「消毒でぇああ!!」

 


結局、最初より倍には増えた敵兵が一斉にそれぞれの飛び道具を射ち放った。

 

 

 

クワッ!!

 


南斗聖拳の力を全開にしたことで、迫る矢の全てにスローモーションがかかる。

最初の着弾はボウガンの矢、次いで弓兵の放った矢。

ニードルガンはその針の重さ故に、この距離では僅かに放物線を描いていた。有効射程はかなり短いのがニードルガンだ。

こちらに到達するタイミングがまちまちで、流石に掴んで投げ返すことはできない。

 


だが、叩き斬り落とすことはできる!!

 


一点、ただ放火魔野郎だけを睨んで、俺は全ての矢を、太い鉄の針を叩き落とした。

だが! 僅かに遅れて届いた火炎に、俺は視界を遮られた!

それでも俺は、闇雲に南斗の突きを撃ち、撃ち、撃ち放ち、火炎に対しては南斗の空刃で空間ごと消す勢いで、掻き消した。

 


しかし、、三本の矢が俺の守りを通過していた。

矢の進む速さでは耳を頼りにして、正確に叩き落とすことはできない。射つ人間の気配を感じ取れても、氣を発しない矢や鉄針を「視る」ことはできない。

シュウならば視れるであろうが、俺には、、できなかった。

 


その内の一本は右の大腿に突き刺さり、そして残りの二本は、、、、