妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

レイ.38

世界は確かにひっくり返った。

あの以前の生活には、もう二度とは、、、かどうかはわからないが、俺が生きている間に人類があの繁栄を取り戻すことは、絶対にない。

「絶対」と物事を言い切ることは難しいが、この場合に関して言えば絶対に、と言えるだろう。


ところでだ、以前の世界は滅んで、そしてこの新しい世界になっても、人間は意外に生き残っている。

つまり、脈々と受け継がれて来た知恵と知識は、この時代にも生き残っている。もちろん、それは俺の南斗水鳥拳もそうなのだが。

確かに、知識だけでは再興できないものも多い。いや、ほとんどがそうだろう。

 

この乱世にあって自分の生命を繋ぐには、「力」が必要不可欠だ。

鈍器、刃物、棍棒に槍、、、それらは割と簡単に作ることが可能な武器だ。だから、同じ武器を用いるなら強い肉体を持った者が勝ち残る。

 

もし、、ここに銃があったなら?

 

なるほど確かに、銃を作り上げるのは知識の他に様々な道具に設備に原料に、と色々要るだろう。

どこぞの誰かの、ある憶測を聞いたのを思い出した。この乱世に銃器が少ない理由を、だ。

元々この国には、かの大国のように銃器の類は多くはなかった。

とは言えだ、すぐ向こうにいるサウザーラオウのような軍にも銃器は少ないか、ほとんどない。

拳王聖帝の大馬鹿野郎たちでさえ、銃器を構えた兵に囲まれれば困ったことにはなろう。もちろん、そんな状況になるヘマをやらかすことはないにしてもだ。

とにかくだ、銃器というのはタチが悪い。だから銃器や、そして爆弾というものをロストテクノロジーにしてしまおうという企みがあると、聞いていた。

そうすれば、「個」の力で覇業を為すことが容易になる、というのだ。容易? 俺は笑いそうになった。

その「個」の力を持っているのが、ただ一人だけなら話はわかるがな。

 

俺の必死の防御を通り過ぎた二本の矢。

本来ならあんな弓兵や弩兵、そしてノロマな火炎放射器野郎の的になるような親切さを、俺が示すことはない。

ケンシロウを庇わねばならないという世にも、それこそ乱世にも珍しいケースが二本の矢を通過させたのだ。

既に別の一本が俺の太腿を刺しているというのに、、、

 

「!!」

 

だがだ、、その矢は俺の胴体に突き刺ささりはしなかった。狙いは逸れていないのに。

その理由は、、、

 

ケンシロウ!!」

 

俺の背後で倒れていたケンシロウが膝で立ち上がり、腕を伸ばして二本の矢を、それぞれ二本の指で止めていたのだ。

 

二指真空把!!


俺はケンシロウの眼を見た。まだ、朦朧としている気はする。だが、ケンシロウは目で言った。確かに言った。

 

「大丈夫だ!」と。


俺は翔んだ。奴が大丈夫だと言ったんだ。

だから、そうに決まっているんだ。

太腿は矢で負傷しているが、片脚で俺は跳躍した。生憎、飛翔ではない跳躍だが。


上から敵兵たちに目を落とした時、ケンシロウが投げ返した二本の矢が、敵兵の二人を絶命させていた。

そんな中でも冷静に俺に狙いを付けたままの兵士は、いない。一人もだ。

こいつらが南斗を侮ったこと、俺はちゃんと根に持っている。


数秒後、派手に暴れた甲斐もあり、増援は数名到着したが、新たに戦闘に加わる者はいない。それでいいんだ。俺も殺しを楽しんではいない。


「あれれれ? 何で俺だけ助かってるかなあ!!?」


放火魔は間抜けな声を上げた。

決まってるだろう? テメェだけは別のやり方で葬るためだ。


ガツ!

「あいて!!」


そして放火魔は不思議そうに俺を見て、そして現状をやっと理解し、怯えた顔をした。


「さっき言っていたな? 南斗109個目の流派だと?」

「あいや、あれは、そのもちろん! そのアレ、でして!」


奪い取った火炎放射器を俺は背負い、そいつに射出口を向けた。


「おい、汚物野郎。南斗聖拳はテメェが名乗っていいものではない。テメェの言う通り、汚物は!消、、」


ブボボボ〜!!!


あ、、引き金はやけに軽かった。決めセリフと共に燃やしてやるつもりだったのが、ほとんど暴発してしまった。


まあいい、、そんなことは、まあいい。もういい。

ケンシロウは!? な!?

黒く焼け焦げた放火魔野郎や既に肉の塊と化した彼らの残骸の中から、俺はケンシロウに走り寄った。

さっきの真空把で力を使ったせいか、またケンシロウはその場に、、倒れていた。

!!直後だった!


「レイ!」


やや遠く、背後から声がかかる。この声は、、ユダ!!

やはりこの街にいたか!!


「聖なる捧げ物を持ってどこに行くつもりだ?」


、、、ニヤけていない。言ってることは皮肉めいていても、ユダの声は笑っていない。やはり、今のユダは危険な敵だ。


「貴様ら!逃すな!」


よく通る声が空気を斬る勢いで響く。こいつ、声にも南斗の裂気を乗せられるのか?

厄介だった。俺を恐れる気持ちよりも、上官ユダを恐れる方が勝って当然だ。敵兵は一番厄介な、死を恐れない死兵と化した。

防壁の上にも弩を構えた兵士が走り寄って来ている。

ケンシロウを背負っていても、雑魚どもからは逃げられる。だが、ユダがそれをやらせる筈もない。


バックパック、いや今はフロントパック。その中身、、、今こそ、ここで!!