妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

レイ.31

義の星、、、

俺の歩みが、まさしくその宿命の星に導かれているとは、、自分では言い難い。「義」とは生半可な覚悟で体現できるものではない。
振り返ってみれば、「あちらの世界」での最後のユダ戦での俺は、「義」というものに近付いていたのかも、、知れないが。


、、、困ったことになっている。
強敵セイランの亡骸を葬ったが、そのセイランが、俺やシュウを誘き出すために用意した「罠」の後始末に困惑しているのだ。
こうしている間にも、ケンシロウサウザーの元へと近付いている筈だ。
ケンシロウがあっさりとサウザーに勝利するということも考えられなく、、、いや、それはあまりに楽観視しすぎているというものだろう。
あの拳王ラオウと並んでこの乱世に覇を敷く男。それがサウザーケンシロウと言えど南斗最強の男を相手に、約束された勝利はない。

「まったく、、、」

思わず毒突いたその言葉はケンシロウの無謀で無思慮な行動と、そして「罠」に対する二つの意味を含んでいる。
「罠」たちが悲しげな泣き声を上げている。多くは親たちから力づくで無理矢理に拐われた子供たちだ。
幸運にもかの「ハルマゲドン」を生き残ったというのに、その後に人として最も原始的な暴力によって引き裂かれるというのは、、、
俺もその気持ちは痛いほど理解できる。他人事ではない。南斗聖拳を身に付けた俺にも、まだ一般人に共感できる領域はあるということだ。

鉄の檻から子供たちを救い出すのは、南斗の拳を身に付けた俺には容易だが、つまるところはその後なのだ。
放っておけばサウザーの手の者たちが彼らを見つけ、再び拉致して奴隷にするのは明白だ。

大局を観よ、とはよく聞く言葉だ。

ならば、ここを後にしてケンシロウに助力すべく向かうのが正しかろう。
もしかしたら、シュウたちがこの幼い彼らを保護するかも知れない。
仮に聖帝の手下どもに再び捕まったとしても、ケンシロウサウザーを倒せば彼らを解放できる。

すまぬ、、、

俺は非情な決断をし、この場を去ることにした。

「、、、、、」

幼い泣き声、、、
気丈にもそんな子たちを励ますやや年長の少女。
そして、妹を守らんとガッチリ抱いている兄と思しき少年。

「くっ、、、」

すまぬ、、、、ケンシロウ

俺は大局よりも目の前の悲劇を無視できぬのだ。
一度そう思ってしまうと、俺の中にこの選択を正当化する考えが続けて浮かび上がって来る。
シュウたちがこの少年少女たちを見つけるより、この領地を治める者たち、即ち聖帝兵が見つける方が遥かに確率は高い。
そもそもケンシロウに助力しようとしても、サウザーとの戦いに割って入ることは許されない。
つまりは、俺に何ができる?ということだ。
ケンシロウがもし敗れたなら、サウザーのトドメが刺される前に救えと?

「、、、、」

南斗の帝王を名乗るサウザーが、北斗神拳伝承者、、ラオウやトキでもなく、北斗神拳の正当な伝承者と拳を交えるということ、、、、
それは北斗と南斗の宿命の対決、しかも、場合によっては「決着」とも言えるほどの大事だ。
何を以ってにしろ、邪魔は許されまい。


「、、、、、」

結局俺は、少年少女たちを荷台に乗せたままのトラックを運転し、シュウのレジスタンスと合流することになった。
もちろん、聖帝の手下どもに尾行されないよう細心の注意は払っている、つもりだ。
タイヤの跡を辿って来る者もいるかも知れない。シュウたちに彼らを任せた後は、しばらく尾行を警戒しておく必要もあろう。




シュウや世話好きな女たちは、哀れみを極力隠した優しさと、満面の笑みによる喜びで彼らを迎え入れてくれたが、食い扶持が増えればその分要るものも要る。
もちろん彼らも、まだ非力ながら可能な範囲で労働力を提供することにはなるが、隠れるにしても移動するにしても、悪い言い方だと足手まといだ。
現実的な視点を失ってはならない。

俺は思わずため息を吐いていた。

それにしても、ケンシロウの帰りが遅い。あのケンシロウのことだ、サウザー目指して最短で向かっているだろう。
既にケリが着いている、まであってもおかしくない。

と、思案しているとだ。

「シュウ様ぁ! シュウ様ぁ!」
と急いで駆け寄る男の姿が目に留まった。

「どうした? 何を慌てている」
そう俺は冷静さをその男にも伝染させるべく、静かに言った。しかし本当のところ、俺の胸騒ぎはほとんど騒音と言っていいほどに騒ついていた。

ケンシロウサウザーを倒したか?
それも確かに急いでシュウに伝えたいことだろう。だが、目の前いる髭の濃い男の顔は、朗報を伝える者の顔では、、、ない。

「レイ様!!」
「落ち着くんだ、どうした?」
「ケ、ケンシロウ様が!!」

最悪の事態を、、、予想しないわけにはいかなかった。

ケンシロウ様が! サウザーに、、、」

なんということか!

「敗れました!!」