妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

レイ.35

俺の背後に、追って来るサウザーの気配はない。
この先が行き止まりなら多少は面倒なことになるが、壁を斬って逃げ道を作ることは、俺、つまり南斗水鳥拳にとっては、それほど困難なことではない。
それよりも、サウザー南斗聖拳最強と謳われる男とはいえ、同じ六聖拳という一応は同格の男からから逃げているという事実が情けない。
それはそれで現実というものを意識しないわけにも行くまいが、今ここでこそ、ことの大局を観るべきだ。
意地も結構、矜持も結構。されど、この乱世の唯一の希望として、そして友としてのケンシロウの命を護ることが、最優先!
それにしても、、あのサウザーの注意を逸らすほどの強い氣、、、一体何が? 一体誰が!?

「は!」

旧世界居抜きの建物内の廊下に、わざわざ石を敷き詰め、それらしく作った道の先、、、血の匂いがした。
嫌な光景を予想しながら俺は早足で進む。
そして、、!!

ケンシロウ!!」

なんということだ!あのケンシロウがこうも見るも無惨な姿で!
倒れようにもそれができず、両手首を鎖で吊られて、無理矢理に身体を起こされたまま意識を失っている、完全に。

ケンシロウ、、」

下手に刺激したくはないと思い、今度は優しく声をかけたが、だからと言ってケンシロウが俺に気が付くことは、余計にない、、
幸いにしてなのか、全身を南斗の刃で切り刻まれているが、手足はもちろん、指の一本や耳の片方の欠損もない。
目は?
俺はケンシロウの瞼を開いてみる。輝きと力を感じさせない黒い瞳が確認できた。恐らく、問題はない。
それにしても、ケンシロウほどの男がこれでも気が付かないとは、一体どれほどのダメージなのだ。
或いは既に死に瀕した状態なのか? そのくらいケンシロウからは、俺がよく知るあの強い氣の躍動が感じ取れない。
俺は思い出す。あのカサンドラの獄長、名を、、なんと言ったか、、忘れてしまった。
ウイ、、ウイングだったか? 違うか、いや、どうでもいい。
あのウイ何とかのダンプカーの如き体当たりを、しかも、何本もの鞭で衝撃が逃げぬように固定された状態でまともに受けたケンシロウを思い出す。
結果、鞭の全てを引きちぎるほどの衝撃がケンシロウを襲い失神に追い込まれた。
ウイ何とかは、ただ素早いだけの巨体ではなかった。

ウイ、、ウイ、ウイグル!!

そう!ウイグルだ!

そんなことは、今はいい!!

 

あの体当たり自体は泰山流ではないらしいが、あの「力」には間違いなく氣が働いていた筈だ。
並の人間なら人の形を残すまい。俺なら?
俺はそれ以上考えるのを止めた。俺なら鞭に捕まった瞬間に手で斬り裂いて脱出する。いや、そもそも捕まらない。
どうにもケンシロウには、相手の技を受けてしまうような癖がある、、のではないか?

「は!?」

今はそんなことを考えている場合じゃあない!
俺は指先に南斗の氣を集めて、ケンシロウをガッチリと掴む鎖を断ち切った。

鎖がうるさく石面を叩き、その音が狭い湿気た廊下に谺する。そのまま倒れるケンシロウを受け止めたが、問題はここからだ。
逃げるにしても、追っ手が雑魚ならともかく、ケンシロウを背負ってサウザーから逃げられるのか?
とりあえず、考えもまとまらぬまま、俺はバックパックを一旦降ろし、ケンシロウを背負うことにした。

「、、、」

バックパック!!



「フン、、これぼどの強い氣線。知る限り一人しかいない」

サウザーは、その強烈な氣が発せられた方向を見上げた。

「フフフ、、やはりな。貴様ら、照らせ!」
とのサウザーの声に従う、というよりも反射的に動いたと言った方が合っているかのような機械的速さで数人のモヒ官たちが建物の上をライトで照らした。
松明を持ったモヒ官たちも火を頭上に上げる。役に立たないようでも、それが幾人にもなれば、それなりの明るさで「それ」を照らす。

ビルの最上階の縁に、男が立っている。その黒い影は腕を組み、微動だにせず立っていた。

「フフ、無駄にでかい身体でも、一応は暗殺拳。気配を消して闇に紛れるは得意科目か?」
と言い、南斗最強の男は一歩踏み出し大きく息を吸うと、

「降りて来い!!」

と声を張り上げた。

その声に呼応したか、黒く、そして大きな人影が、ビルから飛び降りた!

ブオオ、、

ドン!!

という着地音の直後!

ボワン!!

という音とともに衝撃波が拡がった。
それはもちろん、その黒い巨体が放った、その場全て掌握するかのような覇気である。
サウザーを除く全てのモヒ官たちが、腰を抜かさんばかりの後退りを強要されていた。

威風堂々!
王権神授!

闇夜に紛れる黒い服ながら、その男が発する圧倒的な氣と、涼しい夜の空気に微かに混じる獣のような臭気が、サウザー以外の全てを重い沈黙の中へと押しやった。


サウザー!」

獅子の咆哮を思わせる声が夜の街に反射する。
しかし、その呼び掛けに応えず、サウザーは無言のまま、そしていつもの不敵な笑みで正面の男、もう一人の王ラオウを睨んだ。

「、、ん? どうした? 臆して声も出せぬか?」
「、、、、、」

まさかサウザーさえもラオウの氣に圧されたのか?
サウザーは無言でラオウを睨むに終始していた。

類稀も稀なる二人の神王の邂逅の時、慌てて走り来る複数の足音があった。その足音の主は四人のモヒ官で、それぞれ手に平たい道具入れをもっている。
サウザーを軸に、二手に分かれると道具入れをまさぐり、せっせと何かの準備を始めた。手慣れた動きではあるが、その所作にサウザーへの畏敬が垣間見れる。
一方、眉間の皺が深く刻まれたラオウだが、その皺が幾分か険しさを増す。銃器の準備かと予想したからである。
もっとも、北斗神拳をベースに古今様々な武術を会得しているラオウにとってたかだか四人の銃兵など、ほんの小さな脅威ですらない。
しかし、ラオウの予想とは違い、彼ら四人のモヒ官たちの整えた準備は、銃器は元より弓でもニードルガンでも、それどころか武器でさえなかった。

ペン、、、
そして分厚いノート?であった。

サウザー、何のつもりだ? この拳王を倒せる術なしと、剣より強いペンを持ち出したか!?」

ラオウにとっては渾身のユーモアのつもりであった。
しかし、サウザーの反応は薄い。ラオウのユーモアセンスを小馬鹿にするように鼻で笑っただけだった。
四人のモヒ官は揃って正座し、その内の一人がサウザーに対して「準備できました」なのか、こくっと頷いた。

 

「拳王とは、大軍を率いた王のことであろう? 敗れた愚弟を救うため黒服に身を包み暗闇に隠れる男のことではない。違うか?ラオウ

急にサウザーが話し出したと思った時、脇に正座している筆記モヒ官が忙しくペンを走らせた。

「この者たちは、俺の、すなわち聖帝の書記官。俺の言葉を記録し、俺の姿を描く。こっちは」
と、今度はサウザーの右側の二人の筆記モヒ官に目線を移して言う。

「貴様の言葉と行動を記録する。下手なことは言うべからず、だ。言動に気を付けろ。拳王ラオウの伝説を自ら損なうな」