妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

レイ15

単騎、、村を訪れたのはたった一人の男だった。かなり久しいが、俺はその男に見覚えがある。
長身の身体は鍛えられており、短い銀髪でその目は鋭く、物事の本質を見抜くかのように冷たく光っている。

リュウガ」
トキもこの男を知っているようだ。
「久しぶりだな、トキ」
次にリュウガは俺に目を向けた。俺よりもやや年長な筈だ。

サウザー南斗聖拳の帝王になるべく画策していた頃だ。俺もまだ十代半ばの頃。
南斗正統血統者故に、やがてサウザーに対抗する勢力になると危険視され、政争の末に組織から排斥されていた。そう聞いている。
あの銀髪も、殉星の男南斗孤鷲拳のシンと同じく、聖銀羅髪というものなのだろうか。
いや、リュウガは南斗聖拳を学んでいないと聞いている。許されなかったと。もちろん、その遠因は、、、いや、直接の原因はサウザーの妨害だ。

トキは、緊張の面持ちで見守る村人たちを気遣い「こちらで話そう」と、村の外れにリュウガを導いた。
トキは寂しそうにしか見えない微笑みで「この男は大丈夫だ」と無言でマミヤに伝える。
リュウガは「うむ」とトキに従い、毛並みの良い白い戦馬から颯爽と降りた。
そして俺にも声をかけた。
「レイ」
意外にも俺のことを覚えているのか、まだ南斗水鳥拳伝承者ではなかった俺を。その理由はこの後すぐに分かった。

村人の姿がなくなったところでリュウガは言葉を発した。
「トキ、、無駄な話は抜きだ。用件を伝える」
「うむ」
「この村を拳王軍に引き渡してほしい」
「な!」
と、そう言ったのは俺だ。トキは厳しい顔のまま無言を貫いている。その理由を探っている。リュウガの真意を探っている。
そうか、、、あの火を吹くことがなかった火吹き男と兵たちを壊滅させ、そして拳王ラオウと見合った俺だ。
それにカサンドラ陥落に際しては、俺自身は大した仕事をしていないがケンシロウの供をしている。
拳王軍からすれば俺は仇。邪魔な男だ。だからリュウガは俺のことを知っている。それこそブラックリストに載せてある、というところか。
「この村は拳王軍の戦略上、重要な拠点となり得る」
そんな俺の意図を無視してリュウガが言い放った。
「何を勝手なことを!」
と、口を挟んだのは、今回もトキではなく、俺だ。そんな俺を一瞥しただけのリュウガはトキに話を続ける。
「この乱世、既に支配の趨向は定まりつつある。我が王ラオウがこの乱世を征することになろう」
それを聞いたトキの表情に厳しさが増し加わった。
「だが、それは決して簡単ではない。サウザーがいるからだ。王と王の戦いだが、これは個人の対決でのみ決まるものではない」
トキは沈黙したままだ。リュウガの真意を探り続けているのだろう。
「軍同士の戦い、、、悲しい言葉だが、これは戦争なのだ。王の力だけで決まるものではない」
拳王ラオウの力は一度、というべきか、、、一度トドメを刺された俺はよく知っている。
一方の王、サウザーラオウに匹敵するほどなのであろうか。言うまでもなく、サウザー南斗聖拳最強の男だが、同じ六星とは言え、俺と他の六星との繋がりはシュウを除けば希薄。
シュウもサウザーの力だけは止めようがないと、それどころか「南斗聖拳では勝てない」とまで言い切っていたが、、、、

ラオウのやり方を知りながら、この村を引き渡せと?」
トキだった。ラオウを拳士として兄として目標としていても、拳王という覇王を認めることはない。
「安心してほしい。この村は俺の直轄地とする。常駐することはできないが、信頼できる部下を置く。もちろんその兵たちも規律ある精鋭たちだ」
「なぜ、、、」
トキがリュウガを睨むようにして話し出した。
ラオウに就いた」
リュウガは、一呼吸分の間を置いてからこの問いに答えた。
「乱世を終わらすのは一人の覇王と決まっていよう。王たちが争い、勝ち残った王が英雄となり治世を築き始める」
俺もトキもこの銀髪美形の言葉を黙って聴いている。
「王としての相応しい能力を持っているのは、、、、実はサウザーだ」
サウザーが」
俺が言った。リュウガは俺を見、「そうなんだ」というように頷いた。
「奴ならば隅々まで構築された新しい世を作るだろう。だが」
「だが恐怖政治以外何物でもない、ということか。ではラオウなら?」
「トキ、その通りだ。サウザーの治世は支配される側からすれば、この乱世と変わらぬ苦痛に見舞われることとなろう。しかし拳王様の場合は違う」
この時、俺は落胆した。このリュウガという男も所詮はこの程度。自分が王として戴いた男を神格化しているだけなのだ。
そう思っていた。
「拳王ラオウという男は、サウザーと異なり、この世界を制圧し我がものとしたいのではない。拳王ラオウはただ内側からの強い衝動故に奔らざるを得ないのだ。それはトキ、お前ならわかるのではないか?」
振られたトキは無言のままだった。そうなのか?トキ。
「拳王ラオウサウザーを倒した後にこそ、重要な仕事がある。拳王様は治世に生きることが出来ない。この地を支配すれば、また別の戦いを求め、我が王は疾る」
「そなたたちがラオウの去ったこの地を、平和な治世へと導くということか」
リュウガは「フッ」と自嘲のような寂しいような笑顔を見せた。
「そこまで自分を評価していない。俺も所詮は拳士なのだ。魔狼なのだ。別の戦地に進む拳王様を追うことになろう」
では、誰がラオウの去った後を支配できる? ラオウの手下どもなど、、、
「勝手なことを言うな! ラオウの手下たちはこの村で何をしたか知っているか? まともに反撃もできない人々を殺し、忠誠を誓うことを拒んだ者には焼いた鉄板に登らせたんぞ!」
個人的にラオウは認められない、という思いもあるが、手下どものやり方は赤い血の流れた人間のすることとは思えない。
「安心してほしい」
できるか!
「この地を拳王様に代わって治める勢力が、、ある。それは拳王様とて知らぬこと」
「そういうことか。それがそなたの真意か」
トキ、、、
「そうだ、トキ。今はまだ詳しく話せないが、この地を平穏のうちに治めるだろう別の王がいる。まだ小さいが確実に、この乱世に台頭して来る」
ラオウサウザーでもない第三勢力?
「レイ、お前が言った拳王軍に属しながらも、その名を汚す腐った者たちを粛清するのも俺の役目だ。あのやり方が拳王ラオウの真意でないことを理解してほしい」
怒りが湧いてくる。俺とてバカではない。ラオウの支配が不在の隅々まで及ばないこともわかる。乱世を終わらすために、争いが続くこともわかる。
だが俺は新血愁を突かれた身だ。どんな狙いがあろうと、拳士として受けた屈辱は忘れない。 、、、、「この世界」の話ではないから思いは複雑だが。とは言え、俺以外の拳士は同じ目に遭っている筈だ。
「レイ、それにだ」
リュウガが続けた。
「レイ、そしてトキ。お前たちは拳王軍にとって厄介な敵であることを自覚してもらいたい」
む! しかしリュウガに敵意はない。少なくとも今は。トキにも「動く」様子がない。
もっとも、リュウガの泰山天狼拳は南斗聖拳の間でも名の知れた流派だが、この拳の神様トキに打ち勝てるようなものではないに決まっている。病という不安要素は別にすれば。

「ところで」
トキにだけ話しているかのような態度だ。弾かれたようで俺は気分を少しばかり害した。いやもっとも、トキがこの村にいなければ、リュウガはいきなり侵攻して来たかも知れない。
それならそれで南斗水鳥拳の武舞を披露するだけだが、下手にリュウガを倒したとして、それではラオウを引き寄せてしまうだけか。
ケンシロウは今どこに?」
「何故ケンシロウを?」
リュウガの問いにトキが返した。
「トキ、今はお前相手であっても言うことはできない。拳王ラオウによる統治の後、、、その鍵を握るのは、ケンシロウなのだ」
ケンシロウ北斗神拳伝承者、世の王になりはしない」
「もちろんだ。それは知っている。だが、鍵を握る男なのだ。いずれわかるだろう」
と、おとなしく待っている白馬に目を向けた。話を終え、この場を去ることを、口より先に知らせて来た。
「返事は急がないが、よく考えてくれ。トキ、レイ、お前たちを倒せる兵士は我が軍には、、いない。だが、いかにお前たちが強くても大勢から村人を守り切るのは困難だ」
その言葉には、「俺を除けば」という意思が隠されているように思えた。
「加えて、勝手な言い分に聞こえるだろうが、トキ、レイ、お前たちがこの村を出るのが条件だ。特にトキ、お前は拳王様との因縁がある。いずれ何かしらの接触と、、ケジメがあるだろう」
確かに勝手な言い分だが、村人を守り切ることの難しさは間違いない。自分だけならまだしも、アイリ、リン、バット、、、マミヤ。
「話は以上だ」
と踵を返し、マントを靡かせながらリュウガは背を向けた。
「ときにレイ」
去り際、まさか俺に話しかけるとは思わなかった。現に「トキにレイ」と思い違いもした。
「お前はどうする気なんだ?」
「どうするとは?」
南斗六星の一人でありながら、何か目的でもあるのか? 軍を起こすでもなく、帝王サウザーに与するでもなく、フラフラしているようにしか俺には見えん」
その言葉に苛つきはあったが、リュウガの言う通りだった。

アイリとは再会できたのだから、今後はケンシロウのサポートに専念したいと思っていたが、奴は奴で既に何処ぞへと旅立っている。北斗神拳の宿命に任せた当てのない旅だ。
「拳王軍は優秀な人間を常に求めている」
「ぬ!」
だが、考え方次第だ。拳王配下に入りこの村を直轄できるなら、、、、いや!レイよ!俺は何を言う!?

俺には迷いが生じている。乱世を終わらせるために、この地は一度纏まらねばならない。それもわかる。
だが、俺は迷いを断ち切るため、というより、リュウガの言葉に乗るのが嫌だった。もちろん、リュウガとて本気のリクルートではないだろうが。
「当てはある」
「そうか」
と、リュウガは横目で俺を見て更に付け加えた。
「いずれにせよ、拳王様はお前のような力ある拳士が放浪していることを喜ばない。士官したければいつでも来い」
トキの返事を待たずして、既にこの男の中では、この村は自分の直轄地となっているようだ。
「では、さらばだ。また会おう」
パカパ、パカパと蹄の音を立てながらリュウガは去って行った。
「トキ、どうする? 俺はあなたの意見に従おう。だから先に言わせてくれ。あの男は危険だ。太極を見るがため、多くの犠牲を出すことを躊躇わないようなところがある、気がする」
「、、、うむ」
リュウガ、奴は何かしでかしそうな、そんな気がするんだ」

トキは恐らくリュウガの申し出を受け入れる。リュウガは危険だとは思うが、しばらくは任せて良いと思えた。
となれば、俺も旅に出なければ。こっちの世界ではまだユダが動いていないようだ。
拳王に従う気もない。当たり前だ。ではサウザーに?というわけにもいかない。
こんな時は、信頼できる友を訪ねるに限る。
シュウなら、また何か新たな知見を与えてくれるだろう。