妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

レイ.33

南斗聖拳の本質は暗殺拳
闇に紛れた時、その真価を発揮する。

松明の下にいる柄の悪いモヒ二人の背後を、俺は駆け抜ける。

「ん?」
「どうした?」
「いや、、風、だな」
「ビル風が強いからな」

わざわざ見張りを死体にして騒ぎを起こすことはない。俺は誰にも気付かれることなく街の中を深く、中央へと入り込んで行った。
つまらない頭のおかしな犯罪者が、誰にも知られぬよう、どこかで自分が拐った被害者を監禁しているのではない。
あのケンシロウ北斗神拳伝承者だ。
いかにもここだ、というような場所に囚われている筈だ。逆の意味で特別待遇に決まっている。
厳重な警備がなされている、そんな所に違いない。俺はまさに風のように暗い街中を走り回った。それでも俺に気が付く奴はいない。

「?」
物陰に隠れる黒装束の男が、俺の目に入った。闇夜に紛れるための黒装束。油断なく辺りに気を配る仕種。
猿のような身軽さで塀を乗り越え、壁を登って行く。しかし、そこに氣の流れは見えない。だからこそ、逆にその体術の見事なことに尊敬を覚える。
誰がどの角度から見たって聖帝に与する者ではない。俺はその男の背後に忍び寄る。完全に背後を取ったが、黒装束の男は俺に気付く様子はない。
男の視線の先、、、一際明るい街中の一角だった。想像していた通りの堅固な守り。護衛の数は他の比ではないほどに多い。
これが思わせぶりをしているだけの罠の可能性は少ないように、、何となく思える。
俺に背後を取られていることに気が付かない謎の男は、変わらずその街中の一点を凝視している。
侵入経路や見張りの交替の機を伺っているのだろうか。だとしたら、この男の目的はケンシロウの奪還ということになる。
そう、先ずは「救出」ではなく「奪還」と言わせてもらおう。
俺は一旦、その男から離れ、遠巻きに監視を続けることにした。
南斗聖拳の俺とは比較にならないが、この男もかなりの体術の使い手。この男がどのような侵入経路を見出し、そして実際に入り込んで行くかに少なからず興味を持った。
そんな時間的余裕があるのか?とは自問したが、夜中でも麓付近を炎でライトアップされたあのピラミッド然とした建造物の土台にケンシロウを据えるというなら、
恐らく日の中も日の中、真っ昼間にケンシロウを犠牲に捧げるのではないか。
そのようにして北斗神拳に対する南斗聖拳の勝利を公然のものとし、歴史にも聖帝サウザーの最大の偉業として語り継がせる気であろう。
俺は、、、南斗の男だが、表裏一体の北斗神拳は敵視するよりも、むしろ手を組むべきだ、という考えに傾いている。
だが問題はそこではない。
俺は北斗神拳伝承者の「ケンシロウ」にこそ、この乱世を治世に変える光と希望を見ているのだ。

「!」

などと考えに囚われていると、謎の男が動き出した。そして、やや遠くの炎の微かな光が照らす男の顔を見て、俺は驚いた。
いや、もちろん黒布で隠していたが、その額にエンブレムと言おうか、彫刻された装飾がしてあった。
翼を持ったコブラ

「拳王の!」
俺は思わず口に出していた。
何故だ!?
まさかラオウが弟のケンシロウを救うために? それとも単に同門北斗神拳が、しかも正当なる伝承者が南斗聖拳に敗れるを許さじとしてか?
、、正確なことはわからない。
しかしそれにしても、、、拳王の手の者とわかる紋章を付けて忍び込むとは。
まあいいだろう。
平和のテーブルに着きながら、足元では蹴り合っているような仲ではない。聖帝と拳王はな。

俺はその手練れの拳王の手下を忍び見しながら、距離を保って付いて行く。
奴はそこそこ間隔の広いビルの間を跳躍し、見張りの想定外の経路で、明るく照らされた中の陰から陰へと素早く移動して行く。

「やるな」

そして暗がりに着地した男は、二人の見張りを背後から一瞬で、しかも悟られる間もなく始末して見せた。

「やるなぁ」
俺は再度感心した。

奴が始末した二人の遺体を跨ぎ、俺はその背中を追う。
外はなかなかに厳重だった警護も、中に入れば割と兵士の数は少ない。これは異様なことに思える。


その時だった!

「どぅい!」
拳王の手下、謎の男が意味不明な言葉を発した。いや、それは短い断末魔の叫びだったのだ。

「フフ、、ここまで忍び込めるとは、かなりの腕前だったが、、」
と、男の死体の頭部を足で踏み付ける、また別の男が視界に飛び込んだ。まさに飛び込んだと言える衝撃だった。

「おまけとして面白い男を連れて来たものだ」

まさかの登場に俺は血の気が引いた。明確に敵としての立ち位置で以って、その男と向かい合うということ故、だ。

「まさかお前が来るとはな、レイ」
サウザー!!」

あの拳王ラオウには、壁が押し寄せるような圧迫感があった。
このサウザーには、、、剣を突き付けられたような威圧感がある。

南斗の勘が告げる。
危険だ、逃げろ、と。
勘てのは当てにならないこともある。だが、今回に限って言えば、この勘が外れということはない。

100パーセント、、、ない!!