妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

レイ⑤

早朝、、


今のところ辺りに人の気配はない。
村から少し離れた森の中で見つけた透き通るほど綺麗な池。魚の姿も見えている。自然の回復力は人間の思うよりも遥かに高く、確実に元の状態を取り戻して来ているようだ。
、、、この森を生活圏にする人間がいないとは思えない。
今はたまたまいないのか、それとも逆に外道共を警戒して住まいは別にしているのか。とにかく今は誰もいない。

俺は池の中に進んで行った。
予想より冷たい水だ。気持ちも引き締まる。水の深さはあの時と同じ、腰の高さだ。
俺はもう一度辺りを見回した。うむ、確かだ。誰も見ていない。

「ふぅぅ」
南斗聖拳の氣を身体中に巡らす。しかし、殺気を込めるな。これは鍛錬、というより確認だ。
気持ちを上げすぎるな。あの時は咄嗟に、無意識に近い感覚で繰り出していただろう?

「はぁぁ!」
カッ!
飛翔白麗!

バシャッ!!
水面を叩く音に驚き、枝に止まっていた数羽の鳥たちが慌てて飛び去って行った。

失敗だ。まるでできる気がしない。あの時は水面を叩いてはいない。始めから間違っている。
足場ならぬ手場と言おうか、とにかくあの時には疑うこともなかった。水を多く含んだ流砂の水面に手を着き飛び上がるということを。
そんなことができるわけない、という疑いは全くなかった。きっとあの時の俺なら水面どころか宙ででも手を着けただろう。きっと。

結局、幾度繰り返しても、惜しいと思える結果さえ出せなかった。


昨夜、、、、、、、
「少し、、考えさせてくれ」
俺のトキへの頼みは保留とされた。
もちろん北斗神拳を教えてくれと言ったのではない。そんなことを頼むほど俺は身勝手ではない。
トキの柔の動きを教えてほしいとの願いだったが、考えてみれば断られても当然だ。保留としてくれただけでありがたい。

ん?
この気配、、、完全には消さず微妙に感じられる程度に抑えている。

「レイ」
お前だったか。
ケンシロウ
「鍛錬か」
「そうだ。己の技を見直すことは大切だからな」
「うむ」
思えば俺は激しやすく、特にアイリのこととなると前後見境がなくなるほどだった。あの毛皮を被った蛮族の男に手を刺し抜かれるような失態も犯している。
精神的に追い込まれると俺は、正しい判断力を失う。その最たるものがラオウへの無謀な攻めだった。
空襲を一度跳ね返され、その後にまた空からの攻撃。どうかしていた。意地になっていた。馬は斬りたくないという思いも実は少しだけあった。
いや、全ては言い訳に過ぎない。結果を逆転させるほどの手は俺になかった。
だが思うのだ。あの境地にいた俺なら、どこまでラオウと競れただろうかと。
生憎、、、あの境地にはもう、、、、そうあれは死人の境地だ。迷いも悔いもない悟りのような境地。
命を失う代償で俺はあの境地に立てたわけか。
「レイ、どうした?ブツブツと」
「は!」
ケンシロウ、お前という男は。
「いや、すまない。考えごとをしていた。、、、ケンシロウ、お前は北斗神拳伝承者だが、まだ会得していない技はあるのか?」
「ある」
「そうか、、、」
北斗神拳千八百年の歴史が織りなす秘奥義の数々に、まだ俺は到達していない」
「ならば、あの男、拳王ラオウはどうだ?」

今のお前がラオウと戦ったなら、俺はその結果を高い確率で当てることができる。
ケンシロウ、、、この世界ではまだお前はラオウと戦っていない。
ラオウと戦った経験がさらにお前を強くしている。俺はそう思っている。ラオウによって負傷した左腕が完全に治るのを、あちらで俺は見ていないが、きっとあの後のお前は更に強くなっている筈だ。
俺の今回の行動は、その貴重な経験をお前から奪ってしまったのではないか?

ラオウ。かつて兄と呼んだ男だが、奴も北斗神拳の多くの技は会得している。しかし、全てではないだろう」
それであの域に達しているのだ。ラオウ恐るべき。
「いずれ戦うことになる。それが北斗神拳伝承者の宿命」
だろうな。


ラオウにとって、この村を攻略することに大きな意味はないだろう、、、そう思っていたが、ならばラオウは徒らに兵を向けたのか?そればかりか自らも姿を現している。

世紀末覇者と呼ばれるほどの男なら有能な部下も少なからず属しているだろうに。その者たちに一任しても良い。
そうか、拳王軍としての戦力拡大のためというよりも、軍略上観点からこの村に意味があったのだ。近隣にはこの森のような良質な水源もある。
あのラオウが慎重にならざるを得ない状況は考えられるか?、、、、

考えられる。

村の遥か先の話になるが、もう一つの勢力が拡大している。
ラオウが警戒し慎重にならざるを得ない男。トキを別にすればただ一人しかいない。
サウザーだ。
奴がこの乱世にあって大人しくしている理由を、俺には考え付くことができない。

「レイ」
「は!」
「どうした? 考え事か」
「ん、、いや、ちょっとな」
サウザー南斗聖拳では倒すことができない。奴の拳は六聖拳でも頭一つ以上は飛び抜けている。最強の南斗鳳凰拳というだけではない。サウザーの能力の高さだ。
だが、六聖拳の内、既に散った殉星の男シンを除いた五人中三人が手を組めば、サウザーばかりではなく拳王をも抑止できる筈だ。
しかも、このケンシロウとトキがいるなら、聖帝と拳王を抑止どころか滅ぼしもできる。

俺が何故この世界に戻っているかはわからない。それは、、、その理由は俺がこれから為す行動で造られていくものだ。

 

南斗の男である俺にできること、すべきこと、、、。

、、、ユダ、シュウ、そしてユリア、、、
まずは、、、、