妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

117.

「よくぞ来られた。南斗聖拳唯一の伝承者、、、現在のな」
真ん中の男が小馬鹿にする様子で話しかけて来た。両脇の男たちもヘラヘラしていて薄気味悪い。
三人ともニヤけた面の左目の下には殴られたような痣があり、身体の運びにも壊れかけの機械地味た不自然さがある。
そして微かに異様な悪臭が漂っていた。死を連想させる匂いだが、この男たちが死臭を発しているということではなさそうだった。

こんな奴らが俺に会いたいと?、、シンが思った時、、、


「私が迎えると言った筈だが?」
「!!」

シンが慌てて振り返る先には、やはり黒いローブを纏ったもう一人の男が立っていた。かなりの老人だった。

その老人に気付かずに背後に立たれているという異常事態にシンの警戒度が上がっていく。南斗聖拳の氣と共に。

 

「こ、これはバルバ帝」
と先の三人は焦っているのか、ニヤけたような態度は残っているが、明らかに落ち着きをなくし、軽く挨拶を済ますと光に驚いたゴキブリのように素早く建物同士の隙間にそれぞれ消えて行った。

 

「俺に気配を感じさせぬとは。キサマはさっきの奴らとは違うようだな」

この気配の消し様は暗殺拳に違いない。

よく見るとその男のローブは黒ではなく、濃い赤であった。ほとんど黒に近い赤だった。
そしてこれもわかりづらいが胸と額に当たるフードには刺繍が施されている。十字形を煩く派手にしたような紋章だ。
言うまでもなく南斗の紋章をいじったものだ。

 

「生きているかどうかも定まらない私なのでな。それで気配を感じなかったのだろう」
と、謎の男は低い声で笑った。
「私は南斗宗家宗主バルバ。何故か他の者どもは帝(テイ)という尊称を付けておる」
「俺の自己紹介は必要ないな」
他の者「ども」とバルバは言った。部下を思いやる上司ではなさそうだ。そしてその「ども」たちの忙しない様子。宗主という肩書きも伊達ではない。

宗家の他の連中は知らないが、この男だけ全く格が違うのは間違いない。
それに、バルバは冗談めかして話したが、シンの背後を取ったのは事実。まだその素性は知れぬまま。
ガルダや蝙蝠に聞いていた話から害意はないと考えられるが油断はせぬに越したことはない。

 

「もちろん知っておる。私がここに招いたのだから。ところでどうだ?この街は」
自分が来いと言えば誰でも来ざるを得ない、というそんな自信が醸し出される。自信というよりも、そうして来た実績と言うべきか。或いは傲慢か。


「白一辺倒で俺の好みではない」

バルバはやはり低い声で、そして先よりも楽しそうに笑った。
一瞬覗いたバルバの目は落窪んだ暗い穴のよう。瞳は薄いグレーだった。この男にも左目の下に痣がある。

「その目の下の痣は何なんだ?」
「これか」
とバルバはまた笑う。
「これは我らが王族、真の支配者であることの証。いずれ理由を知る時が来よう。そなたが真の勝利者となればの話だが」

勝利者、、、それは北斗神拳に、あのケンシロウに勝った時のことを言っているのか、、、?


「この街の居心地は良いぞ。一日居たらもう外には戻れん。当然であろう。外は悪鬼羅刹の跋扈する地獄界。対してここには電気もきれいな水も、、」
「人質の住まいか」
「そうではない」
遮るように発したシンの言葉が言い終わる前に被せ気味でバルバは否定した。

「報酬だ。誰でも大切な者たちには快適な生活をしてもらいたいと、そう望むのであろう? かつてはそなたもユリアにそれを望んだであろうて」
「キサマ!」
シンの温度が一瞬上昇した。以前よりはマシになったが彼の沸点は今も低い。
あの兇行は今やシンの汚点。それを容易く口にすることは侮辱に他ならない。
だが、直後に驚いたのはシンの方だった。
バルバはさりげない動きの中でシンの間合いを外していたのだ。速さではなく、機を逸らしていた。
もちろん、追えば捕まえられる。だが流石にそこまでする必要はない。
シンを挑発し、どこまで温度が上がるか、その後の急速に冷却するタイミングまでも読み切っていたということか。

 

「キサマは一体、、、?」
「その激しやすい性向は嫌いではないが、北斗と戦う時には有利となるかな?」
「、、、」
「まあ、ついて来るがよい。いずれ私に感謝することになる。それまでの時間はたっぷりとある」
と、無防備な背中を見せながらシンを先導していく。その背中にも十字形の小煩い紋章が刺繍されている。


、、、、、、、
しばらく歩いた後、遂にこの白の街の端に達した。頑丈な鋼鉄と思しき重々しい門がある。この門だけがこの白の街の中にある唯一の黒色だった。
バルバが軽く手を挙げるとどこからか見ているのか、巨大な門が機械音を出しながらゆっくりと開いて行く。同時に湿った密度が高く生暖かい空気が流れ込んで来る。
街と対称をなすように、その先に広がるのは暗い洞穴だった。

 

「さあ、シンよ、、、ここからだ。我ら南斗聖拳の真実がこの先にある」