妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

レイ⑥

「マミヤ」

成果の出ない鍛錬をぶっ続けたその日の夕刻だった。
先ず俺がやるべきことはマミヤを気遣うこと。それ即ちあの男と対決するということだ。
「何?」
今更ながら女という生き物には驚かされる。こちらは南斗水鳥拳の拳士。牙一族との戦いで俺やケンシロウの脱人間的戦闘力を目の当たりにしている筈だ。
なのに女と来たら、その力が自分に向くことはないと知った途端にフレンドリーだ。
「レイ?何?」
「は!」
無駄なことを考えながらも、惚れた女に心を奪われていた。マミヤがその気なら峨嵋刺で刺し殺されてもおかしくはない隙だった。
心を奪われるということの大きな隙、、、

「お前の身体には消えない傷があるな。それは心にも刻まれているだろう」
「!」
キッ、、という表現に全く以って当て嵌まる睨み顔だ。だが、それも美しい。怒りは人の顔を醜くするというのは全ての人間に当て嵌まるわけではない。
「あの時、、見てたのね、、、あの時」
「う、、そうだ、、悪く思うな」
、、、ん?、、涙、、、?
そうだ、、マミヤはユダに連れ去られる時、両親を目の前で惨殺されていると聞いた。ユダによって。
俺は見返りを求めない。だが、ユダは俺が倒してやる。
「俺はその傷を消すことはできない。だが、その心の傷は浅くはできる。ユダを、俺が倒してやる」
今俺は死人の境地にはいない。だがやはり、マミヤのためにユダと戦うのは宿命だったのだ。
その事情を知っていて、ユダを放っておくことは俺にはできない。
「何言ってるの!?」
「う、、」
「何勝手なこと言ってるの!? レイ!あなたに何がわかるの!?」
「あ、、マミ、、」
「憎い! ええそうよ! わたしはあの男が憎い! 八つ裂きにしたい! でも、でも、、そんなこと、、わたしにはできない。そんな力が、、、ない」
「だから、それを俺が」
「違うわ」
急に冷静に?
「レイ、わたしはあなたのことを好きよ。共に戦った仲間としてね。でも、だからってあなたにわたしの仇を討ってもらうなんて筋合いはないわ」
しまった、、、やはり愛の告白とそして俺の身に迫る確実な死、、、その二つがあったからこそ、マミヤは俺がユダと戦うことを咎めなかったのだ。
いや待て! それだけではない。
あの時はユダの方から俺を、この村を訪ねて来た、、、
いや待て待て、、ユダも俺の死期がすぐそこに迫って来ていたからこそ、この村へ来たのだ。
「レイ、、もうこの話は二度としないで。そしてできたら、、、少しの間わたしのことを構わないで。昨日からずっと、、何か変よ?」

、、、、、空回りだ。
そうだ、、、俺はかなりある意味で焦っている。ラオウからの死の時限爆弾を回避できたというのに、この三日間で何かを成し遂げねばならないと思い込んでいる。

だが、、、では、どうしろと?

ユダ、シュウ、ユリア、、、この三人の内二人は平和を望んでいるだろう。だから彼らに会う前に「当初」の通り、ユダとの因縁を片付けておく必要があると思っていた。
それが空回りしまくっている。
俺は去って行くマミヤの後ろ姿を見送った。
マミヤ、、、お前はケンシロウを愛しているのだろう。お前の女の本能は正しい。ケンシロウは間違いない。正解だ。お前が奴の心の空白を埋められるならだ。
だが悲しいことに、「先」がある俺はお前の愛を欲しいと思う。見返りを求めないと思ったばかりだが、それは本音ではない。
「レイどうした?」
「クェン!!」
気配を消すのはやめてくれ!
「いや、何でもない。何でもないんだ。ただ、、、いや、すまん。何でもないんだ」
「鍛錬の疲れが出ているんだろう。もう休んだ方がいい」
「はぁ、、フッ。そのようだ」
俺の後ろ姿を怪訝な顔で見ているのがわかるぞ、ケンシロウ
ん? トキ。
トキは俺と目が合うと、ただ目で挨拶してすぐに仮住まいに戻ってしまった。
やはり俺のことをおかしな妄想の類に取り憑かれた哀れな男と思っているのか?

、、、、疎外感がある。

せっかく生きてこの世界に時を遡って戻ったというのに、、、居場所がない?
これも一種のタイムパラドックスなのだろうか?
あそこで死ぬべき俺が戻っても居場所がないことを周囲の人間は無意識に知っているのか? でなければ、時空の神とやらがこの世界に調整を施している?







「コマク」
「はいユダ様」
「レイは、拳王との戦いを避けることができたのだな? 間違いはないか?」
「もちろんです。我らシュメの腕利きが拳王軍に潜入しております。偵察隊に。拳王と一触即発の場面には出くわしましたが、戦闘に至ることもなく拳王が去って行きました」
「拳王の方から、、、」
あの拳王という男は正に剛拳そのもの。単純で豪快な性格だ。

だが反面注意深いところがある。その慎重さが働いたか?
今後訪れるであろうサウザーとの覇をかけた決戦を前に負傷を恐れたか?
「ユダ様、、、、?」
「うむ、ご苦労。またすぐにお前の力を借りることになろう」
「喜んで」

レイは拳王と戦っていない、、、、
三日後に迫る死を刻印されていない、、、、
あの「数日前」と状況が変わっている。
もう疑いようはない。

「俺は時を戻ったのだ」