妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

レイ.23

北斗神拳伝承者ケンシロウでなければサウザーには勝てない、、、
シュウはそう言い切る。望みはケンシロウだけなのだと。同感だ。ケンシロウはこの乱世の光となる男。
口下手で朴訥とした男だが、紛れもなく北斗神拳の正統伝承者。あの圧倒的な強さは決して向かう先を間違わない。
とは言え、そのケンシロウの足取りが掴めない。こんな時に頼れるのがシュメだが、先の戦禍により絶対数も減っている上に、俺は馴染みの人員を持っていない。
ならばシュウは?というと、敵が敵、つまり同じく南斗の、それも将星サウザーとなると事情は複雑らしいのだ。
シュメの中でもサウザーに使えるのは精鋭のみの別働隊らしく、実質的にシュメの中でも支配者クラスだ。
いや、、シュメは忠実だ。感心するほど南斗によく従う。シュウはだからシュメに頼めないのだ。
サウザーを倒す為にケンシロウを探す、という南斗にとっての不利益が為に、彼らの助力を得るということができないのだ。
不利益とは言ったが、南斗の帝王を名乗り悪の覇道を疾走するサウザーを止めることは、実際のところ、南斗を利するもだ。
それはもちろんシュウも理解しているのだが、関わりの深いそれこそズブズブのシュメであっても南斗の内部抗争には巻き込みたくないようだった。
それで俺はというと一旦シュウの組織を後にして、再びこの村に戻って来ている。もちろん、村には入らない。この辺りは拳王の占領下に入っている。
拳王軍の副将リュウガはここを直轄地とし、常駐せぬかわりに信頼の置ける規律正しい兵士を置くと言っていた。なるほど確かにまともな兵たちのようで、既に村人たちとも上手くやっている様子が見て取れる。
拳王軍の兵たちイコール獣のようなならず者たち、というのは偏見だったようだ。リュウガの言う通りだった。
俺同様トキも既にこの村にはいない。出て行く、それが条件だったからだ。ただ、トキの病だけが気になる。


、、、、、、マミヤの姿が見えない。アイリも、リンとバットの姿も見えない。シュウから借りた双眼鏡を持つ手が汗ばむ。
獣のような兵士たちではないにしても、あの拳王の支配下に入るというのを受け入れられは、やはりしなかったのか? この村で起きた悲劇を思えば当然か。
「やむを得ない」
俺は斜面を急降下して、、行こうとした時だった。
遠くに砂煙が見える。その大きさからして一部隊未満と言ったところか。双眼鏡を向けた。
「!」
あれは聖帝の旗!
「!!!」
その隣にはためいているもう一つの旗印を見て、俺は驚愕した。
「UD! ユダ!!」
バカな! ユダの旗が何故聖帝のものと並んでいる!?
どうする、、、、?
あの一団は間違いなくあの村に向かっている。が、あの小集団で村を落とすことはできまい。まさか和平の申し出? 不可侵?
いや、もともと拳王と聖帝は一応の不可侵の約束を元にそれぞれで覇を推し進めている最中だ。
村の兵士たちも気付いたようで慌ただしく動いているのが見える。
そして俺が再び迫り来るバイクやバギーの小集団に目を戻したとき、バギーの助手席に座る赤い髪の男に気が付いた。

 

ユダ!

 

やはり「UD」の旗は何かの間違いではない。理由はまだ知れぬが、奴は拳王からサウザーに鞍替えしたのだ。
俺は双眼鏡を投げ捨て斜面を走り出した。
いや、落ち着けレイ。
双眼鏡は今時超レアなアイテムだ。これひとつで生き死にに関わる場面を想像するのは容易い。自分を落ち着かせる意味も含め、俺は斜面を登り、投げ捨てた双眼鏡を拾った。
大丈夫だ。壊れてはいない。肩掛けバッグにしまい込んで、大きく息を吸い、そして駆け出した。
ユダがいるとなると、あの少人数でも村を落とすことに困難な要素はない。拳王軍とは言え、遠目に見たあいつらは至極真っ当で、村人たちとも良好な関係を築きつつあった。
くっ! 俺はあのラオウの手下どもを守る為に走っているのか!?

 

 

「? 、、、止めろ!」
恐ろしいほどの速さで何かが斜面を駆け下り近付いて来る。
「あれは!?」
ガッ!
急いて立ち上がったが為、俺は頭をバギーのフレームに打ち付けた。実際かなりの痛みではあったが、今はそんな時ではない。
「嘘だろ」
俺はそんならしくない言葉を吐いた。
だが、こんなところで、こんな形で宿命の相手レイと出会おうとは!!
ズザザ!
レイが俺たちの前で急停止した。
黒髪のまま、、、全てを受け入れて且つ超越したような「あの時」の顔ではない。だが、この俺の前に立つということの意味を忘れてはおるまいな。
「ユダ!」
レイの口調、、やはり懐かしの対面ということではないらしい。と言っても、奴と再会し、死合ってから、まだ一月も経っていない。もちろん、「あちら」での話だ。

 


「久しぶりだな、レイ」
どこかいつも皮肉めいた口調だったユダの言葉ではない。
それよりも、あの派手なメイクもしておらず、服も聖帝軍のものとは異なるようだが黒の皮製ジャケットと、下はモスグリーンのカーゴパンツだ。こんなユダは見たことがない。
、、、、手強い、、、、

本能的というのか、南斗の拳士として培われた勘がそう告げる。かつて拳王ラオウと対した時は、その武威を見抜けなかった俺だが、今の俺は「向こう」の経験とトキとの一戦による成長がある。
そのトキほどだとは思わないが、このユダはあの時より間違いなく強い。いや、これこそ本来のユダの武威。道化こそが仮の姿だったのだ。
「かつて俺の心を盗んだほどの南斗聖拳最麗の拳、そのキサマを醜く切り刻む。それが俺の願望だった」
唐突に何を言う、ユダ!
「悪くはないが、今のキサマは南斗水鳥拳を使えるというだけの凡夫。去れ! もう俺は今のキサマの拳には酔えない」
南斗水鳥拳を身に付けた凡夫などいるか!
面白い、、、、、だが先ずはユダの目的から聞かなくては。俺はユダに問うた。
「知れたことよ。あの村の水資源は貴重にして豊か。あの地を押さえることは我が軍、聖帝に利する」
ザッ、、
派手に跳び出すでもなく、ユダは降車した。
その落ち着いた立ち姿を前に、俺は戦慄した。「あの時」のユダと違いスキがない。安定感がある。地に足が着いている。
その上、俺は俺であの時の境地に立てていない。更に言うなら、ここでやり合う理由に欠ける。もちろん、マミヤの過去のことはユダを討つ理由にはなるが、今ぞこの時!というような心構えができていない。
「どうした?レイ。この俺の前に立ちはだかるというのであれば、そのつもりなのだろう?」
俺は内心ユダに感謝した。迷う俺の闘志に火を点けてくれたからだ。心構えも何もあるか。南斗の拳士ともあれば常住座臥、戦地にいるのと同じことではないか。
南斗の呼吸を開始した。ピリピリするような氣が巡り、俺の身体が昂る。


ユダとの「再戦」に俺は臨む!