妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

レイ.28

南斗聖拳は六聖拳を最高峰とした総勢108派からなる大所帯だ。


ただ南斗と名乗るだけのような流派がある中で六聖拳の力はいうまでもないが、他にも極一部だけ上位の流派が存在している。

その最たるものが、この南斗鵷鶵拳、、、

短めの黒髪を立てた俺と同年代の男。鋭い目をしたその男の名はセイランと言っていた。
流派の力からしても聖帝の副将であってもおかしくはない。ユダと上手くやれているのか?などと思える俺には余裕はある。
場合によっては、つまりこの男の力次第では余裕ではなく油断になってしまうのだが、、、

 

、、、なるほど、、、、

 

聖帝軍は黄色というか金色のつもりなのか、そんな色を軍色にしている。鵷鶵とは、もちろん架空の鳥だが鳳凰によく似た、或いは黄色の鳳凰だとさえ言われている。
俺は、なるほど、とまた心の中で同じ言葉を繰り返す。
セイラン、、、構えるその姿にスキはない。

 

「レイ! まんまとかかったようだな」
「ぅ何!」
「ガキどもを載せてクルマで回っていれば、キサマかメクラがおびき出せると思っていたわ!」

 

タン!!


こういうのは良くない、、、だが俺は友人シュウを侮辱するかのような発言に、血が上ってしまった。

 

「でや!」
!!


俺の突きを読み、セイランは宙に逃げた。身動きの取れない空中に?などとは思わない。南斗聖拳が跳んだのなら、それなりの対策はある。そうと決まっている。


それが南斗聖拳というものだ。

 

ズン!
ズン!
ザン!!


逆十字架のように脚部を真上に向けた、なかなかきれいな下向きの十字架のような姿勢から吐き出した南斗鵷鶵拳の斬撃が地面を刻んだ。
一度瞬間沸騰し、突きを容易く回避された俺は、逆にそれで冷静さを取り戻しており、上からの強力な裂気の斬撃を、俺は三度(みたび)退がって避け切った。


が、直後にスタンと着地するこのセイランには、やはりスキがない。

 

「速いな、レイ。だがその距離からでは俺を捕まえられはしない」
「その言葉そのまま返そう。上からの距離のある斬撃などで俺を討てると思うな!」
「、、、」

 

油断のない冷たい視線。いい表情をする。この手の「悪役」は大抵こちらを侮る言葉を突き出すものだ。
本当なのか、本人が勝手に言っているだけなのか、サウザーの片腕と言うだけのことはありそうだ。
聖帝勢力に南斗聖拳諸派が従っているのは、別段驚くことではないが、それにしてもこれほどの拳士がいたとは。
この一連のやり取りのみで、セイランの腕前がかなりの手練れであることは確定した。


これに加えてユダがサウザー麾下に収まったとなると、、、、

単純に考えてこちらは俺、ケンシロウ、シュウという三人の「斗」がいるのに対し、
向こうにはサウザー、ユダ、そしてセイランという南斗の拳士が、これも三人いる。
ケンシロウサウザーを倒せばそれまでかも知れないが、ことはそう簡単ではないと、俺の南斗聖拳で培った本能が告げている。

 

「うう!?」
ズキン!!


強い頭痛がした。そしてビジョンが見えた。例によってはっきりくっきりと。
ケンシロウサウザーに斬り刻まれている!?

 

「は!」
セイラン!!


セイランは、俺のこのスキを見逃すようなボンクラではなかった。速く力強い踏み込みで俺の間合いを割る寸前だった。
セイランは腕を胸の前で交差させ、そして、、、


一閃!!
こいつ!!鋭い!!

 

俺は、すんでのところで奴の間合いから出て、斬撃をやり過ごした。だが、「ちっ」と俺は苛立ちを口にする。浅く胸が斬られている。

ほんの数ミリだが、ゾッとする感覚が突き上がって来た。
ほんの数ミリといっても、さらにほんの数ミリ深く刻まれていたなら、致命傷にはならなくても不利にはなりかねない。


もっとも、、、


その数ミリを詰めさせないのが、南斗六聖拳の一つ、南斗水鳥拳

 

「セイラン、侮るな。貴様の間合いは俺の間合いでもある」
「?」


と、奴も自身の胸に深さ数ミリの傷が刻まれていることに気が付いた。


「おお、これは、、確かに侮れん。恐ろしい斬れ味だな。痛みも感じさせぬとは。流石は六聖拳」

 

セイラン、、危険な相手だ。だがこの危険な相手を相手にするからこそ、「現場」の技は練り上げられる。
俺は、意識をトキの柔の拳に移行した。南斗水鳥拳とトキの柔拳の相性はいい。そう信じている。
それが間違いでなかったと、少しずつでも自身に証明して来ているつもりだ。

 

しかし、このトキの拳は基本的に「受け」から始まる。

しかもそれは、相手の先手を十分に前以て避け、安全圏に避難する、というようなものではない。
ギリギリまで相手の攻め手に付き合う技量と度胸が必要だ。トキは死人の境地にあるため、故にこそ度胸を超えた達観の境地にいる。
その境地は俺自身立ったことがあるというのに、一度そこから離れて命ある道の上に立つと、再びその精神を取り戻すことは思った以上に困難だ。

 

そんな思いが俺の構えを変える。

 

俺の手は手であって手ではない、刃よりも鋭い南斗の拳だ。二刀を構え、そして斬る。
だが今俺はトキのように両掌を相手、この危険な男セイランに向けている。トキの真似事をしているのではない。
僅かでも相手の挙動を見逃さない、空気の変化さえも見逃さない、という思いが反映されているのだ。
自分の南斗の拳士としての経験と本能、そして覚悟が自然と俺にこの構えを選ばせた。
もちろん、過程だ。俺の南斗水鳥拳はまだ進化の過程にあるのだ。

 

南斗水鳥拳は舞踊、いや武踊の拳と聞く」

耳に届く音は同じ「ブヨウ」。だが字に起こしたときの違いは理解できる。


「その水鳥拳が静止し、俺の出方を待つ、と」

 

セイランは決してこちらを嘲って言っているのではない。自分自身に言い聞かせている。油断も思い込みもしない。こんな奴は危ないと決まっている。


「ならば、、こちらから行かせてもらおう。南斗鵷鶵拳、参る!」
「!」

 

セイランは構えを解き、両腕を下げて堂々と近付いて来る。こちらが受けに入ったからなのか?
俺たちの距離およそ5メートルで動きがあった。だが俺たち南斗聖拳にとっては一歩の間合い。

もう動くのか?という意外さは全くない。


セイランの膝が瞬間的に下がった。いや!それ以上! ほとんど、屈むと言っていい低い体勢。

どう考えても一気に来る。奴の氣は正直で少しの嘘も吐いていない。

 

ズバン!!

 

奴のだらりと下げた両腕が、またその胸の前で交差された! 十字ともエックスとも言えるような微妙な角度の斜め十文字に斬気が光る。
もちろん氣眼でなら見える光だ。
その斬気をまるで盾のようにして、セイランは迫り来る!
しかも、いや、もちろん速い!!

 

これは参った。

南斗の裂波を柔拳で流すことなどでき、、、いや、致死性の高い一撃という意味ではラオウの大砲のような剛拳も同じじゃないか。

 

刹那の逡巡!

 

ダン!

 

十文字斬りを斜め後方に下がって回避! 俺の長い黒髪が数センチほど舞い散った。
しかし、この後が本番! 速い詰めからの突きの速さも尋常ではない! この二つを合わせたセイランの拳速は六聖拳に並ぶ。
だがだ、その詰めの速さ故、一度避ければ僅かに距離が空く。これが奴の弱点だ。

向き直ったセイランが再度俺を殺ろうという氣を全開にして間合いを詰める!


ズバン!

 

まただ。また十字斬りのセット。今度は十字の斬気を真横に移動して回避した。

そこを!


ドシュン!


と鋭い突きが俺を追う。しかし予想通りだ。決して難しい読みではない。十字斬りで先を取り、敵を即ち俺を「後」に回す。
そして直後の突きで後の先を取る。これが南斗鵷鶵拳の極意か。


セイラン、強い。
が、見えている。

やはり六聖拳には及ばない、そんな完成度の低さ、危うさが見えた。


ならばちょうどいい。


トキの拳の実践訓練に利用させてもらおう。
ところが、セイランの拳はそんな俺の予想を超えて来た。俺の読みは甘かった。甘い読みだった。
次のセイランの攻め手も同様だったが、この後だ。

俺は奴の三撃目を、今度は真横左に一歩動くことで躱した。
その直後の突きも知っている。速く鋭いが、来ると知っている今、どうということはない。

その後だ!

奴は俺の回避に合わせて短いステップで追って来た。いや、逃げる相手を追うのだから当たり前?

違う!

 

その小さな素早い一歩の移動でも、奴は十字形の斬撃を盾に俺の間合いを割らんとする。
刃でもあり盾でもある。


俺はそんな禍々しい武具を想像した。

 

もっとも、南斗聖拳の刃はそんな想像上の武具より、よく斬れる。