妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

148.

時は少し戻る

 

、、、バシュッ
赤い飛沫が舞った。

幾度か拳の応酬を経て、遂に二人が互いの間合いを掴み始めた。

シュラインの右肩が浅く斬られている。その一方でガルダの右肩にもシュラインによる指突の痛々しい跡が残る。
血が舞うかわりに、ガルダの肩当てに装飾された白い羽が超速の二人の拳と対照をなすかのようにゆっくりと地に落ちた。

ケンシロウと戦ったガルダならわかる。必殺の経絡秘孔を極められたガルダだからよくわかる。シュラインに受けた一撃は致死点には当たっていない。

 

「ほお、、、この俺に触れるとは少しはやるな若造」
「あんたもな。だが、そんな浅い踏み込みと間合いじゃ俺は取れないよ、オッサン」
「フフッそれでいいんだよ、まだお前にはわからんだろうがな。それにしても、、」

何が「それでいい」のかガルダに疑問が芽生えるが、続くシュラインの問いが思いを脇に追いやった。

「凄い手だな。ニワトリの足のようだ」

ニワトリの足というような印象は受けなかったが、シュラインは辛辣な表現を選んだ。

「ああ、この手ね」

一方のガルダは自身の手について語れるのが誇らしかった。ニワトリと揶揄されても、真に誇りと自負するものは揺るがない。

「この手は俺に才能がないことの証。才能ある拳士なら歳若い頃から南斗聖拳の氣を以って岩を斬り鋼を断つもんさ」
「なんだ若造。お前は凡人か?」
「そうだ。南斗の氣を上手く扱えなくて、何度も何度も岩壁にこの手を叩き付けて来た結果がこれだ」
と、言葉とは裏腹に愛しげにその猛禽類の足のような両手を、ガルダは見つめた。

「今こうして南斗の爪を身に付けても、既に傷の上に傷を重ねたこの手が戻ることはない」
「ふうん、なるほどお前は才なしか」

シュラインは素っ気なく言い放ったが、本音ではますますこの若い拳士が侮れない相手であるとの認識を改めた。
今現在、この「地点」にいるのなら才能の有無は関係ない。才能でここにいようが、努力の末にここにいようが、ここにいる、ということに変わりはないのだ。
むしろ、才能がないという分、様々に遠回りしているやも知れない。それが、実戦の機微に寄与することは十分あり得る。
それに才能なしもガルダ自身の申告に過ぎない。

そもそも西斗月拳の達者であるシュラインに傷を負わせるだけの能力があるのだから、この若造も自分と同じ地点にはいるということの証。

 

「アンタは俺と逆に才能があるみたいだな」

しかし、そんな言葉に気を良くするほどシュラインは単純ではない。その後に続く言葉にどんな嫌味が含まれるか。

「だってそうだろ? 俺はアンタも西斗の名も聞いたことがない。それでいてこの俺に一撃を入れる程度の力がある。今までどこで何してた?
かつてはこの地に拳王や聖帝、他にも南斗聖拳元斗皇拳の猛者たちがいた。そんな拳の巨人たちの時代にオッサン、アンタは現れなかった。それでそこまでやるんだから天才に決まってる」

皮肉を込めて言ったものの、どことなく全容が知れないシュラインの拳、西斗月拳が小気味悪い。
自分を汚物のような肉片にしようとするシュラインの意思は感じる。それは大有りだ。もちろん、お互い様ではあるが。
それでいて間合いが浅い。明確な殺意は感じるのに、それが技に反映されていない。
もちろん、勝敗を一瞬一撃で決することのできる超越者同士の戦いなのだから、殺気全開で正面から踏み込むのは愚かである。
だが、そういうことではないのだ。シュラインの拳技なのか、はたまたこれが西斗月拳とやらの戦法なのかはわからない。
確かなのは、ガルダとて下手な真似をすれば一撃で死点を抜かれるということ。それは全く変わらないのだから、シュラインのペースに乗らざるを得ない。

 

「蝙蝠、そなたの焦りが伝わる。シン様を憂いているのだろう。ここはガルダ様に任せる他はない。先に行くがいい」

モウコが蝙蝠を見ずに言う。ガルダとシュラインから目を離せないのだ。
モウコは将星付きのシュメその棟梁である。ガルダサウザーを仇として憎んでいたことを知らぬ筈はない。
だが、既にサウザーもいない今、そして南斗聖拳自体が滅亡に瀕しているこの現状故か、ガルダは自身の拳南斗神鳥拳を南斗の一派であると矜持を以って認めている。
いかに南斗宗家が様々な南斗聖拳の秘伝書を有していたとしても、それだけで真の拳技が伝わることはない。
良くて無慈悲な快楽殺人者を造るのが関の山。いや、良くはない。悪い事態だ。
それをガルダは理解している。それが伝わる。

変われば変わるものだ。

一応はガルダも自分たちシュメの主人にあたる。だが聖帝への叛意ありとして監視対象にはなっていた。
しかしだ、今こうして南斗聖拳の名を負い戦うその姿は、既に六聖拳の一人として数えるのに申し分ない。
ケンシロウとの戦いを経て、ガルダには何かしら変化があったのだ。
間違いない。改めて知らされる。南斗聖拳北斗神拳の影響から逃れられない。いや、全ての超戦士たちの中心に北斗神拳がある。

南斗神鳥拳と謎の西斗月拳。

この二人の戦いからでさえ、北斗神拳という最強の称号を冠する拳の重い存在を頭上に感じる。
あれだけ我道の、たった一人帝王の道を突き進む彼らが主サウザーが拳王に並んで、いや、実はそれ以上に気にかけていたものが北斗神拳伝承者。
今ならながら、そして尚のことモウコにはそれが理解できた。


蝙蝠はモウコに一言礼を言い、その場を後にした。