妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

151.

白の街の中央広場。


高い天井から照らされる光が、街の中を昼間のように明るく照らしている。決して大袈裟ではなく、昼間の様に明るかった。

違うのは人工の光が故か、自然の温かみがないことだった。冷たい光だった。

「戦場の拳ねぇ」

警戒は互いに最大限である。間合いを保つのにも神経使う。体力よりも気疲れが、双方に出始めていた。

しかし、まだ余裕があるのはシュライン。ガルダの言葉に口の左側だけを吊り上げている。

「そうだ」

「でも南斗聖拳も戦場の拳なんだけどね」

「フフ、言うのは勝手だ。好きにしろ」

よし!、という意気込みがガルダの目付きに表れる。

両腕を斜めに広げ上げ、それでいてやや低く身構えた。あえてスキを大きく作り、敵の困惑を誘う、迎撃に特化した構えだった。

ガルダとて、それで優位に立てるとは考えないが、浅い間合いのやり取りが繰り返される西斗月拳の特異な間合いが不気味だった。

警戒を超えたシュラインへの不気味さがガルダの鼓動を早くする。だがまだ、それは恐怖には変化していない。

現時点でのダメージは自分よりもシュラインの方が多いのだから、、その筈だった。

しかしだった。

ガルダが与えるシュラインへの斬撃は、回をこなすほどに浅くなっている。

浅い一撃がさらに浅くなり、先の一合では遂に、その黒い服しか斬れなかった。

ガルダの拳の斬撃筋は見切られて来ていた

「あと」

ガルダの構えに呼応せず、シュラインは不意に言い放った。

「あと一手だ」

「ぅ何?」

「将棋でいう王手を、俺は一度もかけていない。だが若造、今のお前は次の一手で、詰み、だ。必至の状態だ」

「、、、」

シュラインは構えも取らず、余裕の笑みで話すが、左脚前の半身を保ち、決して油断はしていない。

「将棋のことはよく知らない。だが、ここから王手だけ狙えばいいんだろ?」

「ハハハハ! お前はずっと王手を狙っていたのだろう? 一撃必殺とやらで」

「!!」

シュラインの言うその通りだった。

こちらには一撃で倒せる爪がある。しかし、シュラインはその一撃と向き合わずに最小限のリスク、まさにローリスクローリターンで拳を交わし続けていた。

今更ここで自分の完全な一撃が極まるとは、それはあまりに楽観視しすぎているというものだった。

「だが、安心しろ若造。俺は浅い一撃入れればいいことに変わりはないが、流石にトドメの一撃となると、俺も少しは硬くなる、かもな」

ニコッ

ガルダの狙いは先読みされていた。浅い深いに関わらず、詰めの一手はこれまでと違う心境にはなる。そこがガルダの狙い目だった。

半歩のさらに半分でも間合いを詰められるなら、神鳥の炎の爪はシュラインの命に届く。

「フッ、読まれていたが、俺のやることに変わりはない。なら次の一手に全てを賭けるだけ」

「バカめが。ギャンブル勝負をするな。俺には一切賭けの要素はない。理詰めだ。お前は俺の策に、つまりは西斗の戦法に最初から嵌っていた」

ツツー、、、ガルダのこめかみに汗が滲み、そして細い一条の流れとなった。

「行くぞ若造」

「む?」

シュラインが取った構えは異様なものだった。

利き手と思われる右手を自身の背後に伸ばし、ガルダの視界から隠したのだ。

一見無意味な構え。しかし、浅い一撃で極まるこの間合いにあってはそれほど無意味ではなかった、、虚を突くことに目的があるのなら。

「フッ、おっさん。随分と用心深いな。そんな大層な真似をせずとも北斗神拳ならはじめの一撃で俺を倒せるぞ」

「だから若造だと言うのだ」

シュラインは笑った。

「若さ故か、すぐに一発入れたがる。そうじゃない。大人の拳はそうじゃない。じっくり時間をかけ、少しずつ「高めて」行く」

背後に隠した拳でどう来るか。

しかし予測に頼り切らぬ様、ガルダは思案した。予測半分、反応半分だった。

背後に隠した手をそのまま回転裏拳のように撃ち放つか?

或いはその右手は思わせぶり。前に出した左拳で来るか?

それとも右手を脇の下を触る様にして最短のどストレートで来るか?

その複合? それともまるで違う別の何か?

読み過ぎを自戒し、ガルダは身体の無駄な力を抜いた。

「若造、焦らしたが、次の一触りでイかせてやる。というわけで俺の勝利は確定的。99%俺の勝利だ。ここで油断して1%を拡げる俺ではない」

今ここで出るか!?

ガルダは思った。勝利を確信し話している今こそ最大のスキ、油断ではないか?

気配。氣が動いた。

ガルダの氣を察知し、シュラインも氣と機をずらす。全ては彼の想定内だった。

「イかせる前に教えてやる。俺の拳、西斗月拳は複数の秘孔を突き必殺とする。お前に浅く入れた拳はその一つ一つだ」

「ウザってえ。北斗神拳も俺の南斗神鳥拳も一撃必殺!」

「フハハハ! その一撃必殺がために危険な間合いを取ることになろう」

「多撃必殺で、戦場でどう立ち振る舞うってんだ?」

「わからんか?」

随分と辺りは静かになった。シュメたちも帝軍もこの白の街から撤退を余儀なくされていた。

雑兵の集まりでも銃器を持った敵に、物陰に困らない市街戦の有利で戦えていたが、全てこのシュラインに逆転されてしまっている。

シュメの棟梁モウコだけは、やや離れて二人の対決を見守っていた。

「矢が飛び交い、どこから伏兵の剣が振り下ろされるかわからない混乱極まる戦場で、そこそこやる標的に必殺の一撃を極めることは困難だ」

「、、、」

「故に西斗月拳は戦場において確実に勝ち、且つ自分が安全に生き残るための戦法を自らのものとしたのだ」

「、、、、、、」

ガルダと言ったな。俺はお前が嫌いじゃない。元々お前の命を奪うのは俺の仕事ではない」

「、、、、、、、、、」

「負けを認めて去れ。そうすれば俺はお前を追わん。だが一生敗北感と逃げ恥を背負って生きろ」

去れと言いつつ挑発もしている。これでは真意も理解しにくい。そんな曖昧な境界を、この男シュラインは楽しんでいた。

フウ、、、ガルダは一呼吸ついた。

「おっさん。あんたはやっぱ凄えわ。強い。でもね?おっさん。この勝負、俺の勝ちだわ」

「あん?」

「戦場の拳か。さっきも言ったが、南斗聖拳も戦場の拳なんだよ。天帝の城の六つの門、そのそれぞれを護って、混乱極まる戦場に身を置いたんだ」

「、、、」

「戦場に順応特化したのが西斗月拳と言いたいんだろ?」

「ああん?」

「あめえよ、、、南斗聖拳はせこせこと戦場に順応なんかしない」

「何だってんだよ」

「やろうぜおっさん!! 俺のぶっといのぶち込んでやるよ!!」

ガルダが跳躍した!

そして氣の炎を六枚の翼にし、上から、自らの逃げ場のない上からの攻撃を仕掛けた!

「応よ! そんなにイかせてもらいてえか!?」

「南斗神鳥拳 炎翔千烈破!!」

「西斗月拳 相雷拳!!」

ガガッ!!!

「おお!!」

傍から観ていたモウコが唸った。