妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

レイ.27

小高く、今にも倒壊しそうに傾くビルの屋上から頭を上げ、俺は前方を確認する。既に聖帝勢力下の中心部に近い。
堂々と歩いて行けばすぐにでも聖帝兵に見つかるだろう。
その一方で北斗神拳によると思しき遺体はなく、兵士たちにも敵襲来を感じさせるような慌ただしさはない。
流石のケンシロウも無駄な戦闘は避け、サウザーのいるであろうあの巨大建造物へ向かっているのだ。

賢い。いいことだ。あのケンシロウでも雑魚相手に思わぬ負傷をすることはあるだろう。反面、追い詰められた雑魚たちが子供を人質にバカをやることも考えられる。

ケンシロウは大胆すぎるが、決して無思慮ではない、、と俺は無理に得心しようとする。
それにしても感心する。建材や食糧を運搬する自動車の数は多く、中心部に近付くに連れ、忙しく稼働している工場がやけに目に付くからだ。
また、聖帝軍は完全にこの地帯を掌握しているのか、賊の輩が見当たらない。ある意味秩序立っている。弱者には安寧の地ではないが、混沌とはしていない。
この組織だった運営、、、やはり南斗を率いていただけのことはある。もちろん、南斗聖拳内には分裂もあったが、大部分を一人制して来たのは伊達じゃない。
南斗最強の男だが、だからと言って力だけで支配して来たのではないのだ、あのサウザーという男は。
組織はまさにあの聖帝十字陵が如くにピラミッド形式だな、などと内心上手いことを言った気になり、俺は歩を進める。

「うん?」
遠くに見える砂煙、、3台のバイクと輸送車。俺はバックパックから双眼鏡を取り出した。
「、、、」
予想通り。荷台は拉致された子供たちが詰め込まれた檻となっている。既に泣き疲れたのか、みんな下を向いて大人しく座り込んでいた。

その輸送車のスピードはさほど出ていない。俺は決心した。


スゥゥゥ〜
カッ!


一呼吸で俺は常人レイから南斗水鳥拳のレイに変化した。傾いたビルの急斜面を落下速度に負けるな!とばかりの速さで駆け下りる。
わかっている。目的はケンシロウを追うこと。サウザーを倒せば繰り返される悲劇は止む。ここは自制してことの大局を見据えるべきだと。だが、義の星というのは不自由な宿命を背負うものなのだ。そして義の星の、その宿命の通りに生きることが俺を最も光らせる。

俺のための光じゃあない。
俺も、、、この乱世という闇を斬り裂く一条の光でありたいのだ。

 

南斗聖拳が軽功術を得意としているとは言っても、全力で駆け抜けた場合、いいところ数十メートルしか保たない。そういうものなのだ。
だから氣の発動を減らし、一方で肉体への負担を軽減する。言わば中距離用の走法にシフトする。
これでスポーツの祭典などという笑えるような偽物の栄華を誇ったアスリートたちを遥かに後方に置き去りにできる状態に、俺はなった。

 


ケンシロウの100m走は9秒台
日本人も今は9秒台が出せているので、このケンシロウの記録は、氣なしの純粋な肉体の力と考えていいでしょう。しかも、北斗神拳の鍛錬で出来上がった肉体なら9秒台前半かも知れません。

 


悪路を走る遅いクルマ。俺はすぐに追い付き、そして、、、
「ほおう!」
と高い声を発しながら跳躍し、子供たちが閉じ込められている鉄檻の上に着地した。
間抜けな運転手は気が付かないようだったが、前と両脇に護衛役で配置されているバイカーモヒ官は、俺を見て取り乱した。
俺を南斗水鳥拳のレイとまで知らないまでも、走るクルマに追い付き、しかも上に飛び乗るというそんな真似ができる常人はいないのだから、当然の反応だ。
「あ! きっさまは! 同じ南斗でありながら聖帝様に逆らう、、、」
長い。さっさとそのぶら下げたニードルマシンガンを向ければいいだろう?
その男が漸く腰のニードルガンに手を伸ばした。俺はその時既に輸送車の側面から倒れ落ちるような体勢になっている。もちろん、何もしなければこのまま落ちる。
ニードルガンがこちらを向く直前に、俺は檻を強く押し蹴った。俺よりもずっとずっと重いこの鉄の塊を、南斗の脚が強く押す。
つまり、俺は常軌を逸した速さで横に跳躍した。
「しゃう!」
走るクルマから飛び出した着地の勢いを無理に抑えることは、このスピードなら不可能ではなかった。
ただの気分だ。
俺はゴロッと転がり着地の衝撃を緩和する。もちろん、状態のいい地面を選んでいる。この時やっとバックパック内の双眼鏡に気が回る。壊れていなければいいが、、、

とりあえず今、それはいい。
バン!と手で固い地面を叩き、一度転がった身体を浮かせてバランスを戻す。
目をバイクに戻し、今度は最速の走りでそれを追う。
つまり、先程まで乗っていた男が、手にしたニードルガンとともにスライスされて、ダルマ落としのように上からスライドしながら離れ離れになっていく様を見ながらだ。
無人のバイクが、いや、半人とでも言おうか、下半身だけ乗せたバイクが倒れる前に俺は肉片を避けて追い付き、ハンドルを掴む。
脚を上げながら、先程の半分になった彼を蹴り落としてバイクに乗った。
アクセルを握り込みスピードを上げる。聖帝軍仕様のオフロードバイクの装飾は悪趣味だが、バイクに乗るのは久しぶりだ。

下を見れば瓦礫のオンパレードだが、見上げた空はそんな人間たちの事情とは無関係に蒼く綺麗で、むしろ澄んでいる。
「てぇめえ!」
バックミラー、、背後に回り込んだもう一台が、俺にニードルガンの狙いを定めてようとしている。
フワッ
俺はバイクから軽く跳躍し、身体の隙間を通り過ぎる風を感じながら後方のバイクに身を委ねた、、、尻を委ねた。
ドン!
「うお!」
と叫び、サングラスをかけたモヒ官はバイクから落下し、俺が乗り捨てたばかりの付き合いたった数秒だったバイクと並んでゴロゴロと転がっている。
俺は新しいバイクをそのまま代わって乗りこなし、アクセル全開でツーストの軽くて騒がしい音を上げてスピードを増す。
「運が良かったな」
と俺はニヒルな笑顔を作る。南斗の斬撃を受けずに済み、「事故」を起こしても何とか命は助かったようだ。
輸送車はこの悪路だというのにスピード上げるものだから、ガタガタと大きく揺れ、それでもこの俺からどうにか逃げようとしている。運転モヒの必死な顔が覗く。
「!?」
驚いたのは俺だ。
どうというスピードではない。だが、あまりに予想外の出来事には反応も遅れる。油断していたということだ。
俺の前方を走る残った一台のバイクから、今し方俺がやったばかりのように男が跳んだ。
だが、先の俺と違い尻を向けてはいない。バイクから背面跳びしたモヒカン頭ではない男は、空中で綺麗な逆十字架然としたまま俺に迫った。
そして手を胸の前で交差させ、
ビシュッ!
裂気の発動!?
咄嗟にバイクから跳躍し、俺は謎の男の奇襲を回避した。空中で身体を捻り、男を目で追うと、既に男は見事な着地を、切断されたバイクを背景に極めている。
俺も空中で風を身体に受けながら、可能な限り柔らかく着地した。

謎の男、南斗聖拳の使い手に違いない。
「流石は南斗水鳥拳のレイ!」
「! 、、、、」
俺は怪訝そうに男を睨む。俺は「外様」でも南斗六聖拳の一人。俺が知らなくても奴は俺を知っている、、、よくあることだ。
「貴様は何者だ!」
男は「フッ」と笑った後に名乗った。
「南斗将星、いや南斗聖帝の片腕、南斗鵷鶵拳(えんすうけん)のセイラン!」
南斗鵷鶵拳!
「ならば貴様は!!」
、、厄介な敵かも知れん。
「そう、知っての通り。我が南斗鵷鶵拳は鳳凰拳の陰! 六聖拳と言えど聖帝様の邪魔をするなら十字に斬り捨てるのみ!」

だが相手にとって不足なし!