妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

レイ.25

「謎の男たちか」

複数あるシュウたちレジスタンスのアジト。
その一つで合流した俺は、ユダとの対戦のこと、そして結果的にその戦いを止めることとなった四人の男たちのことを伝えた。
「その中の一人、岩のように大きかった、と」
心当たりがあるのか?シュウ。
「となるともう一人、その大男ほどでないにしろ、やはり大きな男はいなかったか?レイ」
「いや、他の三人は皆俺と同じくらいだった。遠くからだったから、はっきりしたことは言えないが、それほどの大きさではなかった」
「なるほど。そして、そのうちの一人が異様に目立っていたと」
その通りだ、シュウ。見た目が目立っていたのではない。雰囲気だ。他の者たちも異質な氣を感じさせたが、その男は南斗の裂気を放っていた。
「恐らく、、あれは南斗の男だ」
「南斗の、、、、」

あの氣からして、相当な腕の筈だ。その名が知られずにいる男ではないだろう。

「一人、思い当たる男がいる。だが、その男は死んだことになっている」
「シュウ」
「不確定な段階で、その名を言うのは気が早いとは思うが、、、うん?」
シュウの表情が和らいだ。
シュウよりやや遅れて、俺にも足音が近付いて来るのを感じ取れた。若い走りだ。弾むようで、その者の気持ちの昂りが感じ取れる。
コンコン!
急ぐようなノック。しかし、それが深刻な報せでないことは、ほとんど確信できる。
こちらの返答を待たずにドアが開いた。
「レイさん!」
「?、、、、まさかお前は、、、?」
「はい!そうです!」
「シバ!?」
この暴虐に満ち溢れた世界に生きているとは思えないほど真っ直ぐなシバの視線。俺は耐え切れず、一瞬だけ目を逸らした。
「お久しぶりです!レイさん!」
「おお!大きくなったな、シバ!」
それなりに男の顔になっている。戦士の顔をしている。
だが、、、、
暗殺者の顔ではない。

久しぶりの嬉しい再会を果たし、シバが去った後、俺はシュウに訊いた。
「シバには白鷺拳を継がせないのか?」

シバの顔を見れば、南斗聖拳の修練に入っていないのは明白だった。
「そのつもりだ」
「では白鷺拳はどうなる?」
「、、、、」
シュウは暫く無言だった。言葉を選んでいるのだ。それはわかる、俺にもだ。
「息子は、、、私よりも、亡き妻に似ている」
シュウの目を考えるなら、シバの顔は見えてはいないだろう、多分。
多分、と思えてしまうあたりが、シュウの異能さを物語っているのだが、この「似ている」という言葉は、他の多くのことも意味していよう。
「使い途を誤ることのないよう教えても、南斗聖拳の将の一人として、暗い道を歩むというのは、、わかるだろう、レイ」
俺は頷いた。人間の領域を大きく飛び出すことで、何物にも縛られない真の自由を得た気持ちになれる。だが、それはほんの初めだけだ。
すぐにわかる。日が射すことのない、血の匂いで満ちた真っ暗闇の道を歩くのが、南斗なのだと。
怨嗟が荊のように絡みついて脚を取り、振り向けば自分が手掛けた者たちの屍が積み重なって腐臭を放っている。
その死者たちの血は皮膚を通して魂にまで達し、その怨念に満ちた悪臭は鼻腔にこびりついて離れない。
それでも気が狂わないのは、心の訓練の賜物ではあるが、個々の適正と言えばそれまでだ。でなければ、既に狂っていて、それを自覚できていないだけだ。
南斗の道、、こんな時代でも光を失わない陽の男であるシバを歩かせていい道では、決してない。
「義の星を宿命として背負うレイなら、分かると思うが、南斗聖拳としての道を往きながら、仁の、即ち人の道を歩むというのは至難なことだ。矛盾と言った方が正しかろう」
シュウ、、、
「だから私は、そんな矛盾する道を息子に歩ませたくはなかった」
、、、わかる。
サウザーは当然として、あのユダや、既に乱世に散った殉星の男シンのように、人の道を否定して南斗の道を好きに進んでいたなら、さほどの苦痛はなかろう。
シュウは違う。

暗殺拳の使い手でありながら人の道を歩むことの苦悩を、シュウは知っている。背負っている。逃げずに向き合い苦しんでいる。
獣なら獣として生きればいい。獣が人であろうとするから、苦悩が絡み付いて来るのだ。
ならばここで伝承者であるシュウが、南斗白鷺拳を終わらすと言うのであっても、それも止む無しなのかも知れない。
、、、いや!違うぞ!
「シュウ! その苦悩、わかるとは言わぬ! だが!」
俺には子はいない。欲しいとも思ってはいない。だがもし、、もし、この乱世が終わり平和な世界が訪れたなら、そんな俺の考えも変わるだろうか?
「だが、シュウがいなければ、南斗六星は早々に散り散りになり、世界がこうなる前に自滅していただろう」
「、、、、」
シュウが見えない筈の目をきつく閉じている。
「すまぬ」
!?
「何がだ?」
何への謝罪なんだ?シュウ。
「レイ、シン、ユダ、そして姫、、、私やサウザーよりも若い世代の将たちに対してだ」
姫、、か。シュウはまだ幼い時分のユリアを、姫と呼んで可愛がっていたと聞く。元々感情を持たないと言われていた少女に、心が戻ったきっかけは果たして何だったのか。

ユリアは南斗の将の中で最初に散った。南斗慈母星の役割を果たすことなく、同じ南斗の将シンによって命を散らした。

だが、それは決して、、、
「シュウ、、、六星の乱れはシュウの責任ではない」
「いいや、実力では文句なしの南斗の将であっても、まだ若いことには変わりがない。若さを侮る気はないが、やはりそれでも若さというのは、時に脆いものなのだ。若い故にこそ、その力の向かう先は変わりやすい」

六星の崩壊を防げなかったと、シュウは再度俺に詫びた。

「やめてくれ、シュウ」

導師の役割がいなければ乱れてしまう、そんな程度なら南斗の将というのは、所詮その程度なだけだろう。シュウが負い目に思うことではない。
、、、、本来、、、、、

俺はシュウが言うこの若さで世を去っていた。シュウの言葉を実感できるほど、俺は生きられるのだろうか?
平和な世界で子を作り、育てる時はあるのか? その時、俺の隣で一緒に我が子を見つめる女は、、誰なんだ?
「すまん、、変な話になった」
いいさ、シュウ。あなたにもそんな時はあるだろう。
「ところでだが、レイ。さっきの話だ。不確定な段階とは言ったが、恐らく、、、恐らくその男はシン!」
「何!?」
シン、、、実際、俺は奴のことをよくは知らない。
良くも悪くも噂では散々聞いているが、奴が生粋の南斗聖拳組織の男であるのに対し、俺は外部の出身だ。孤鷲拳と水鳥拳の関わりも疎遠であったため、余計に俺は奴を知らない。
いや、そこじゃない。問題はそこじゃあない。
奴はケンシロウとの死闘の末に敗れ、自ら命を断ったのではないのか?
「シンは死んだのでは?」
深刻な話の最中に駄洒落みたいなことを言ってしまい、俺は何となく恥ずかしいというか、申し訳ない気持ちになる。
「シュメの腕利きが関与したらしい。シュメの中でも一二を競うほどの手練れという話だ」
「そのシュメが救ったと?」
「もう一つ気にかかることがある。その時に見たという大きな男、、、、」
この時代、、、化け物のような大男は思った以上に多い。恐らくその多くが、元は秘密施設の実験体だ。
ケンシロウが倒したという羅漢仁王拳の化け物は特例中の特例としても、牙一族の王であったり、カサンドラ獄長のようなサイズの人間も、いるにはいる。
「いや、いい。忘れてくれ、レイ。憶測で語っても仕方がない。今我々に必要なのは現実への対処だ。希望的観測は絶望的結果になりかねない。希望は一つでいい」
希望、、、北斗神拳ケンシロウか。
あのヴィジョン、、、シュウが矢で射られ、トドメの大槍で貫かれるあのヴィジョン、、、予知なのか、あちらの世界線での未来なのか、それを知る術はない。
とにかくだ。あれを起こしてはならない。現実にしてはならない!
とは言え、ユダがあそこまでの力を手にしてサウザーの下に付いた。拳王には泰山天狼拳のリュウガがいる。他にもかなりの猛者はいるかも知れん。
こちらはどうだろう?
シュウとてラオウには敵わないであろうし、サウザーには勝てないと言い切っている。兵力の規模も比較した場合、言ってみればゴミのようなものだ。
やはりケンシロウだ。ケンシロウを探し出すのが急務だ。それをわかっていても、例のヴィジョンのせいでシュウの元を去ることができない。
どこにいる?
どこにいるんだ、ケンシロウ

この南斗の乱れに、北斗は姿を見せないのか?