妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

78.

ピゥ!!
ガルダの爪が空を裂く!
「南斗神鳥拳!扇裂掌!!」

ガルダの手はまさに猛禽類を思わせる。指の節々が太くゴツゴツしており、爪に至っては人の物とは思えないほどに厚く、先端も研ぎ澄まされ真っ黒に染められている。
シンにはそれが不思議だった。
南斗聖拳は指で斬るわけでも拳(コブシ)で砕くわけでもない。肉と骨に集中させた南斗の氣である。ここまで人間離れするほどに筋骨肉を鍛える必要はない。
分かりやすいのが南斗紅鶴拳のユダだった。ユダの手は男にしては指も細くきめ細やかな肌であった。本人のこまめなケアがあったにせよである。
南斗の修行に入ってすぐに氣による「聖拳」を会得していれば、指が変形するほどに鍛え上げる意味はない。
斬るにしても貫くにしても砕くにしても、或いは指でぶら下がるにしても「氣」でほとんどを賄えるからだ。
ユダもまさしく天才であったが、ナルシシストでありマキャベリストでありサイコパスであった。加えてサディストでもあった。
拳は天才であっても人格が伴わなければ身を滅ぼす。それは同じく天才と呼ばれたシンにもある程度は共通した事実でもあった。

一撃一撃は鋭いが、連打の速さは真・千首龍の召喚士であるシンにはさほどのことではない。ボルツ戦のダメージは引き摺っているが、ガルダの虚の突きを全て捌き、ついに実の拳を掴み取る。

ニヤッ
ガルダが笑う。
瞬間!
「照射」
コオウ!!
炎というよりも可視化できる熱線がガルダの両拳から発せられシンの胸を焼く!
思いがけない攻撃だが、元斗皇拳を見たばかりであることに加え、南斗聖拳も指先から伸びる刃を使う。最速の反応によりガルダの手を離し背後に退く。焼損は最小で抑えられている。

「遅いな。俺を相手に真っ直ぐ退くとは」
と、ガルダには余裕がある。もちろんシンとて退がりながらも迎え撃つ準備はできていた。
「もういいだろう」
と返したのはシンである。
「ん? フフ、、知ってたか」
ガルダの拳は本気ではなかった。それをシンも見抜いている。

パッパッとシンは胸の周りにこびりついたコゲを払い落とす。ダンからもらったばかりのコートが早くも台無しだ。だが流石にあの一瞬では戦闘中のシンの肌を焼くことはできていない。
「南斗神鳥拳。慈母星空位に於いては本来六聖拳の一つ。そして五車と同じく慈母星降臨にあってはその守護をする」
六聖拳の一人シンが知らないわけはない。
「そうだ!」
余裕を見せつけていたシンよりも若い男の目が鋭く変わる。
「他の五聖拳に劣らない、、いいや!鳳凰拳に匹敵する力がある!」
南斗将星を抑制する正統血統のその守護者。南斗五車星の拳も南斗聖拳の流れを汲むが、この神鳥拳もまた「南斗」を冠しながら108派には数えられない。

神鳥拳の宿星は忘星。慈母星の裏面を引き受ける宿命。


シンが蔑む南斗の名を使っているだけの流派とは違う。南斗神鳥拳ガルダ。侮れない男。それにしても鳳凰拳に匹敵するとは随分と言い過ぎだ。
それなら実力で証明してもらうしか他にない。

「まあいい。アンタを喰いに来たわけじゃない。逃げる兵たちを見てボルツが敗れたのはわかった。だがボルツごときにそのザマではなあ」
元斗皇拳を知るために敢えて戦いを長引かせたが、ボルツ自身が決して容易な敵であったわけではない。むしろ強敵であるが故にシンの拳の成長に資した。
「俺はひっそり生き残っていた南斗六星のアンタを見に来ただけだ。サウザーならまだしもアンタは別に的じゃない」
「何故サウザーだ?怨みでもあるのか?」
とは言ってみたが、あのサウザーなら多くの者に怨まれ呪われていただろう。
「六星というのは本当にバラバラだったんだな。サウザーが俺たち神鳥拳の村を襲ったことも知らないのか。老若男女の区別なく!」
南斗の六将と言われても、どこかで集まり無駄に会議をしていたわけではない。地理的な距離もあった。その動向を細かく知っていたわけではない。
サウザーは南斗を力で統べるべく組織内の敵対者を次々と粛清していた。その多くの兇行の中に紛れてしまった、、、ということだろうか?

そうであったとしても一つの村を女子供まで全員虐殺したとなるとあまりに凄惨すぎる。
シン、レイ、ユダの三人はまだ正統伝承者となったばかりかその手前の段階でサウザーがより増長する条件にはあったが、あのシュウが黙っていたわけがない。
南斗の良心と称されたシュウには多くの賛同者がいた。シュウを中心とした勢力はサウザーにも無視は出来なかった筈だが、、、