妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

121.

闘技場を抜けて更に奥へ、石に囲まれた道を進んで行く。異臭が混ざる空気が煩わしい。

「北斗の善を覆す?」
善とは言ってもあくまで闇世界という枠組みの中の話だが、確かにその枠の中では北斗神拳伝承者というのは善の部類に入るだろう。少なくともシンはそう思っている。

「そうだ。では先ず、、、西斗月拳から北斗宗家の拳は秘孔術を奪ったと言ったな。その後、秘孔術を奪われた西斗の術者たちはどうなったと思う?」
「北斗宗家の拳士に素晴らしい秘伝の技を授けてみんなで良かった、めでたしめでたし。ハッピーエンドだ」
薄気味悪い声を発しながらバルバは笑う。冗談は通じる男なのだ。
「そんな北斗宗家であれば良かったのだがな。真実は真逆だ。西斗の拳士や術者たちは皆漏れなく、、、、殺害された」
「だろうな」
と、シンは答えたが、それは当時の情景を思い描いたからではない。もっと単純にバルバの話の流れから答えたに過ぎない。
元より西斗は他流且つ太古の流派。既に滅びているのだ。それだけで北斗イコール悪というのはあまりに短絡的だ。

「理屈はこうだ」
バルバは勝手に続ける。
「北斗宗家の拳士その名をシュケンという若者は西斗月拳の秘孔術があまりに素晴らし過ぎて、、、、それで独り占めしたくなったのだ」
「北斗の、いや、、その西斗の秘孔術が現在の北斗のものの前身ならば、その危険性は無視できまい。使い方を違えれば世界は余計に乱れる」
「ふむ。もちろん表向きはそうだ。あまりに危険なために他の者どもが使い、余を乱すのが気に入らなかったということだ。だがあまりに身勝手すぎると思わんか?」
あまりに今更すぎる、そう思えた。物事のルーツを遡れば、何かしらの不都合や汚点の一つや二つは出て来るだろう。北斗神拳を善と呼ぶとしても、あくまで仮の善、「こちらの世界」での相対的な善だ。
自分自身が南斗聖拳の拳士である以上、綺麗事を並べてケンシロウの前に差し出すことはできない。無意味だ。

「そもそもなのだが」
シンは気になっていたことを訊くことにした。
「何故俺だった? 何故サウザーではなかった?」
ローブの奥のグレーの目は、西斗の悲劇に思いの外乗って来ないシンにやや気落ちした感が見えた。
「そのことはもちろん話すつもりはあった。サウザー、、、あの男は、滅びた筈の我らの存在に勘付いたようでな、ずっと調査を続けさせておった」
「、、、」
流石サウザー、、、というよりも、分裂した南斗の組織を、動機はどうあれ一つに纏め完全に支配しようと画策している内に、嵌らないピースとして南斗宗家の影が見え隠れしたのだろう。

「だがまだまだ甘い。我らは遥かなる過去より実体を隠し、世界に、、裏の世界にではないぞ? 文字通りの世界に暗躍していたのだ。当然、南斗聖拳の中にも我らの「草」は方々に生えておった」
バルバはニヤァと笑い話を続けた。腐った口臭がする。
「そうこうしている間に世界は大いなるリセットが為された。この乱世でのサウザーは悪、まさしく悪だった。それがな、面白いものでな」
と、バルバはクフフと笑う。
「まあ良かろう、そのことは。さして大したことではない。サウザーを選ばなかった理由の一つ目は、あの男が我らに与する筈がなかったからだ。これが最大の理由であろう」
「、、、、」
「もう二つある。仮にあの男がこちらに協力的な男であったとしても、この二つ故に、我らの方でもあの男を選ぶことはなかった。相応しい男ではなかったのだ、南斗聖拳伝承者に」
サウザーを差し置いて自分が選ばれた、或いは利用されているということ、、、、。

シンとしても自分の拳力を上げる好機と捉えているが、何より「人質」を取られた点が大きい。
一方、サウザーであれば他の南斗聖拳や将星専属の精鋭シュメたちを使い、宗家の浸食を阻むことは可能だったということか。この見えざる脅威に対して。

「考えてみよ。サウザー南斗鳳凰拳を棄てられるか?」
「棄てる?」
「そうだ。当然だ。シンよ、そなたにも南斗孤鷲拳は棄ててもらうことになる。と言っても安心してほしい。そなたが既に始めていることと何ら変わりはない」
「孤鷲拳の枠を棄てて新たに拳を学び、更に付け加える、ということか」
バルバは向き直りシンを称賛した。
「その通りだ! サウザーは師父オウガイより受け継いだ鳳凰拳を棄てられぬ、絶対にな。あの男は南斗最強の鳳凰拳を究めたが、それで終わりではない。南斗聖拳にはまだ先がある」

俺はその先とやらを知りたいのだ。

「三つ目の、、、、理由は、、、」
と、バルバは言葉を溜めながら幾分か早足で歩き、
「その理由はこの中にある」
と、古く大きい鉄扉の前に立ち、シンに微笑みかけた。
「よくぞ生きてここに辿り着いた、シンよ。私はそれが嬉しい。誇らしい」
そしてバルバは細い両腕で鉄の門扉を押した。
「う、、ん、、、重い」
シンは手伝うことなく、この門が開いた先に何が出るのかと訝しげに眺めている。

ズズ、ズズ、ズ、、、
門扉の下に車輪の類が付けてあるようだが、錆び付いてしまっているのか、開放に手間取っている。
「使えばいいだろう」
と、シンは冷たく言い放った。
「確かに、、、これぞまさに徒労」

使えばいい、、、南斗の力を。

呼吸を変えたバルバは鉄扉を軽々と押し開いた。