妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

レイ17 ユーディーン②

二人目、、、ここで意外だろうがレイの名を挙げる。

南斗紅鶴拳南斗水鳥拳は地理的にも比較的近く、そして先代伝承者同士もそれぞれ六将の一人でありながら懇意な間柄にあり、下部流派を含めての交流があった。

レイのことはもちろん元から知っていた。お互い外から南斗に組み入れられた者同士。俺はすぐに南斗紅鶴拳伝承者候補として才覚を現し、レイも南斗水鳥拳において同様だった。
だが別段俺はレイに関心はなかった。元より俺は他人に興味がない。天上界の光のように神々しく美しい母以外に関心はなかった。

その頃の俺は南斗紅鶴拳こそ最も華麗且つ最強だと信じていた。最強とは言っても他の六聖拳が侮れないであろうことは知っている。
中でも、南斗鳳凰拳が真の意味で南斗最強と呼ばれるのは当然知っている。だがだ、六聖拳ともなればどれもが一撃必殺の拳。相手が何者であろうと、自分の拳を究めて行けば最強への道は明確に見えて来る。
俺は自分の拳を愛した。誇りも持った。まるで舞踊のように流れながらも、その中で絶え間のない静と動が相なす南斗紅鶴拳の武舞。その静から動に転ずる際の拳の速さは、南斗聖拳全てにおいても最速だ。
自分の武舞こそが至高、自分の拳こそが最強。俺は驕り高ぶった。今思えば、井戸の蛙だ。

既に拳士としては師を超え、南斗紅鶴拳の全てを伝授された俺は、正式な伝承者として、その認可を待つばかり。そんな頃だった。
「ユダ様、水鳥拳の新伝承者レイ様の演武が見られますぞ」
噂には幾度か聞いている。心奪われるほどの空舞だと。
「フッ、俺の拳よりも洗練された武舞があろうか」
心底からの紛うことなき本心だった。だいたいこいつらと来れば、俺の武舞を見てはいつも口を空けている。
物珍しい水鳥拳の軽い舞に感心しているだけだろう、すぐに見慣れて見飽きてしまう程度のものだろうと、俺は高を括っていた。
何故なら、先代の南斗水鳥拳には華麗さなど微塵も見当たらないものだったからだ。無縁だったと言ってもいい。その先代と比較して多少舞にキレや麗があったとて、、、

レイ

その表情が気に入らなかった。
谷底から伸びる長々とした杭の上に片足で立ち、俺を含む見物人のことなど一切気にも留めず、静かな顔でただ自身の拳を内観している様子がどことなく気に障った。
だが同時に、その超然とした様子と、やや下を見る涼しげな流し目に気を取られていたのも事実。
俺はいつの間にか不覚にも口を空けていた。俺の武舞にいつも心奪われる周りの奴らのように。
そして、、、この後だった。


南斗水鳥拳飛燕流舞


気付けば俺は血だらけの手で、自ら化粧を施していた。
屈辱、、、、
俺は最強よりも最麗であることにこそ、強い拘りを持っていたのを思い知らされた。だが、強い者は美しい。美を究めたなら、俺は最強である筈だと無理に言い聞かせた。
それでも怒りは治まらない。屈辱が消えることはない。認めてしまったからだ。思い知らされたからだ。

奴を超えることは出来ないのでは?と。

俺よりも強く美しい者は、この世界に存在してはならない。
嫉妬と言われて大いに結構。奴を亡き者にすれば、強さも美も本来の居所に、俺の元に戻って来る。

俺はその日の夜から、女を抱く機会が増えた。それこそ数倍にもなった。
俺は化粧をするような男だが、決して男色家ではない。南斗聖拳組織は同性愛を強く禁じている。死罪だ。稀に同性愛が発覚し処刑される者たちもいた。
もちろん、その処刑は若い拳士たちの試し斬りに使われた。
とにかく、俺は雄の本能そのものよりも強い衝動によって女を求めた。
女を求め、抱く。これをしなければ俺は男色の気があるのではと自身を危惧したからだ。恐れたからだ。俺は男色家ではないと自らに証明するために、俺は女を抱き続けた。
それほどレイの武舞には心を奪われ、奴の姿が片時と言え、心の中から立ち去ることがなかった。

俺はもちろん男色家ではない。
だが今なら、これは素直に認められる
俺が心に描きながらも、その美麗の高みに到達できなかった南斗の舞と、そして俺が遠く届かなかった麗を究めた末に手にした最強の武、その二つを有するあの男レイには強い憧憬を抱いていた、と。
俺は最強でもなければ最麗でもない。ただ俺は俺に過ぎないのだと、奴の奥義をこの身に受けて思い知らされた。
いや、言い直そう。喜んでそれを認めよう。甘受しよう。

死を前に俺は本心を曝け出すことができた。虚栄心という全裸になっても脱げない最後の一枚を脱ぎ去ることができた。その解放感、自由。

重力からさえも逃れた俺はレイの胸の中で消え去った、筈だった。

何故、今俺がこうしてここにいるのか、その理由は知れない。夢ならとっくに覚めている筈だ。それともこれは死後に見る長い夢なのか。

罪深い南斗妖星の俺には死さえも許されていないのか、、、

 


さて、最後の一人、、、、
俺はこれから、その男に会いに行く決意を固めたところだ。