妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

レイ22.ユダ

「ユダ、うぬも入るがいい」
まさかの拳王の申し出に俺は戸惑った。と、同時に俺を「うぬ」と呼んだことに怒りを覚える。
もっとも、、、俺はこれからキサマに一泡吹かせてやるつもり。少々のことは多目に見よう。
「何を言う拳王。客人をもてなすため用意したものに自分で与かるなど」
「構わぬ」
プール、、、広い風呂に座したまま、重い声で拳王は告げる。
「しかし、、、」
「何かやましい企みでもあるというのか」
ギラン! 拳王の目が、そんな音を立てるかのような強さを秘めて俺を睨んだ。
これ以上断るのは不自然か?
違う、、、こちらに一物あるを悟った上で問い詰めているのだ。
「フッ、、それではこのユダも邪魔するとしよう」
俺は服を脱ぎ始めた。もうあの頃の俺ではない。それ故に、このどこぞの軍服を真似たような悪趣味な服を脱ぎ捨てられるのは、今の俺には快感でさえあった。
ひとつ、、、問題がある。
先ほどは拳王の白フンを笑ったが、俺は紫フンなのだ。紫と言っても赤が強い紫だ。数多ある中で、たまたま今日はその色に当たってしまっていた。
、、、、致し方あるまい。
巨体の拳王と比較すれば、俺のこの肉体でさえヤワに思えるだろうか? 俺はサイドに控える美しい女たちを横目で意識した。
虚栄心は捨てている。間違いなく棄てている。女を意識するのは自然なことだ。だが、あの拳王の女たちは、奴の強さに惹かれているのだろう。
そうでないとしても、強者に寄り添うことで生存確率は飛躍的に上がる、それを知っての賢い、いや、当然の選択だ。


拳王ラオウの隣に座り、互いにしばらく無言で美しい景色を眺めている、、、、のは表向きだけだ。
俺は拳王の出方に細心の注意を払っている。一方の拳王も、俺が仕掛けるのを待っているような気配。氣配。
拳王の要求により温度を上げた湯が心地良い。それだけがこの緊張を緩和させてくれる。
「道化を演じても、既にうぬは道化ではない」
「、、、、」
急に拳王が言い放った。
「あの悪趣味な長髪でもなく、、、」
そう、たしかに俺は髪を前より短くしている。まだ長髪の範疇に入る長さだが、一部を三つ編みにするような手を込んだ真似はやめている。
「何より、まだ落ちぬその化粧の下は、、今は男の顔だ」
ゴクリ、、、俺の出した音ではない。声が聞こえた側近の兵が、この高まる緊張のあまりに唾を飲み込んだのだ。
「流石は拳王。見抜いた上で、この興に付きおうてくれたか」
拳王、、、ただの筋肉バカではなかった。流石に「王」を名乗るだけのことはある。サウザーとこの下天をかけて争うだけの格がある。
俺は吹っ切れた。
バシャ、バシャ!
化粧が暑苦しくて敵わない。湯だけでは完全に落ちないが、それでも俺は顔を擦り続けた。湯が濁っている。落ちた化粧の成分で濁っていた。
俺は立ち上がり、「拳王」と言いながら距離を離して行く。
「この新しい世界に覇をもたらす者は誰か、、、」
更に湯を掻き分けながら、眉間のシワが深い拳王から離れて行く。水面の高さは俺の腰。拳王が立っても股下まではある。
バッ!俺は勢いよく振り向き声を高らかに上げた。俺の声はよく通る。
ラオウ!」
これは合図。部下たちへの俺の合図だ。拳王と呼んでいながら、ここで「ラオウ」と言う。お前は「王」などではない只の男よ!という含みを持たせていたが、今では認める。お前は王だ。
だが、俺は王の王であるサウザーを我が頭上に頂く!
ラオウ!キサマとの同盟は今日を限り破棄させてもらう!! 俺は道化をやめるぞ!ラオウ! そして!聖帝サウザーをこの世の覇者とする!」
「フフ、、愚かな。ならばうぬはこの瞬間から我が進む覇道に落ちた小石」
小石!?、、、
「こんなことと思っておったわ!」
ラオウが立った!
南斗紅鶴拳奥義!
「伝衝裂波!!」
受けろラオウ! 南斗の衝撃波の中でも最強の、この紅鶴拳の鋭き刃を!!
バゾ!! ズゾゾゾゾ!!
裂気が水を巻き込み威力は増す。キサマも、その豪の氣で敵を討つことはできよう。だがこの距離は俺の、この南斗妖星ユダのものよ!!
「むう!」
バゾン!!
十字受け! そうだろう、速くは動けまい。そのために湯を張った。元より速さは俺が上。湯が動きを妨げるのは同じ条件でも、キサマが詰めたとて俺には追い付かん。
これは「あちら」でレイに仕掛けた罠の簡易版というところ。長引く戦いではない。流砂でなく、この湯で足りる!
そして、「あちら」でレイを切り刻んだように、、キサマも斬れろラオウ!!
「裂波狂斬舞!!」
安心しろ、これで倒せるほど楽な相手でないことはちゃんと知っているぞラオウ! だがここは、、、
「斬れい!裂けい!」
この水面の激しい乱れがキサマに届いた時、、南斗聖拳の恐ろしさを知れい!
「むぐお!!」
凄まじい音を発して、俺の裂気と水の刃がラオウを撃った。飛沫が上がり、辺りには霧のように小さい水が舞った。
、、、、その水には少しも「色」が着いていない。
まだ乱れの激しい水面に立ったままのラオウ。その十字受けの隙間から強い双眸が覗く。
「小鳥が囀りよるわ!」
「!!」
「ごうわぁ!!」
ぐくっ、、、ラオウが闘気を放つ! 無傷!? まさかの無傷!!!
「むん!!」
「はあ!」と俺は口を開いていた。ラオウが放出した圧倒的な熱量を持つ闘気が、奴の周囲の水を全て弾き飛ばしていた!
「臆病者が!この程度で、この拳王の不死身の肉体に傷一つでも付けられると思っておったか!!」
う! ラオウが力強く踏み出した! プールの底に亀裂が入る。だがたった一歩だ! まだ俺の間合い!!
俺は再度、伝衝裂波を乱発した。南斗紅鶴拳の奥義だ!その筈だ! 効かないわけはない!!

そうだろ?

「どりゃあ!」
バリッ!!!!!、、、ィィ
一撃!?
俺の裂気乱舞が、、、たった一撃の拳で、、?
ちっ!
俺が勝てなかったレイに完勝した男。その男がまた一歩踏み込み拳を構えた。俺は反射的に更に距離を取ろうとしたが、こちらの有利とすべく用意した湯が俺の脚を掴む!
跳ぶしかない!!
身の危険を察知したから、というよりも、正直俺は恐怖を感じて水面から脱した。もう一歩踏み込んだラオウが拳を放つ姿を見た瞬間に。
プールサイドに着地した。兵士や女たちが俺を見て恐怖に慄き後ずさる。殺気と屈辱と、このユダの理解を超えた拳王の力への敗北感、そして恐れ、、、、俺のその禍々しい凶相が兵士たちを退かせたのだ。
「流石だな!拳王!!」
恐怖を振り払うべく、俺は気丈に、すこぶる勇んで振る舞った。
「やはりこの程度では傷一つもらえぬか!!」
レイは無闇矢鱈に飛び込んで負けただけではなかったのだ、、、あちらの話だが、「こちら」で策を練っても結果は変わるまいて。
「この地はくれてやる! ゆっくりしていけい! そうしている間に俺とサウザーが、この下天をもらうとするわ!!」
ブワッ
俺は背後のフェンスを飛び越え、「フハハハハ!」と大笑いしながら、ほとんど全裸のまま駆け出した。この速度には拳王の精兵たちでも、何もできずに通り過ぎるのを呆けたよう見るばかり。
俺は笑い続けた。笑わなければ自己が崩壊しそうだった。
「フフハハハ!、、、流石だラオウ! 見事なり拳王!!」
「ユダ様!ここです!」
俺は用意してあったクルマに文字通り飛び乗った。制止しようと道を塞ぐ敵兵を睨む。どんな形相だったかは、それを見た敵兵の顔から察せられる。
南斗紅鶴拳のユダだから、、だけではないだろう。それこそ敵兵は「ひぃ」と言わんばかりに慌てて道を開けた。

 

「ユダ様、お怪我は?」
「フフ、、、」
「ユダ様?」
危なかった。咄嗟に跳んだのが良かった。俺は自分の胸と腹にできた痣を見た。これはまるで秘孔を撃たれたかのような銃創を思わせる傷跡だ。
ブフッ、、、口を拭うと血反吐が付いていた。
「ユダ様!」
「フフフフフ、、、大丈夫だ。衝撃の強さに少しばかり血を吹いただけ」
「血を吐くって普通の人間なら、かなりのヤバさですよ?」
「いいからちゃんと運転しろ」
フフ、、、フフフフ、、、、
これは良い土産ができた。
拳王の氣は俺の想像を大きく超えている。だがそこじゃない。
南斗の極一部で噂されている通りだった。
フフフ、、、もう噂ではない。
俺は痛む脇腹を押さえた。
感覚からしても秘孔は撃たれていない。幸運にもそれを避けられた。
そう!
北斗神拳は闘気によって秘孔を突ける!!
これは間違いなく奥義だ。北斗神拳の奥義を見せながら敵を逃したのだ、ラオウ
俺が見せた南斗の衝撃波は、北斗勢にはとっくの昔から知られている。
「つり合わんな」
「はい?」
このダメージは予想外の損害だ、、、だが、長い目で見れば、今日は俺の大勝利だ。

この収穫、、、南北の明暗を分けるものになろう。