妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

レイ20.

シュウは俺がレジスタンスに合流することを、喜んで受け入れてくれた。


「好きなところに座ってくれ」
さっき救い出した子供たち、、、親からさまざまな形で引き剥がされたばかりだ。その悲しみは計り知れない。そんな彼らの世話をしてくれる女たちも、ここには多くいるが、悲しみが癒えることはあるだろうか。
シュウは幾人かの部下に子供たちの実親を捜索に向かわせているが、結果が思わしくないだろうことは、ほぼほぼ見えている。
「悲しいものだな」と俺が呟くのをシュウが拾う。
「そうだ。この世には避け得ぬ悲しみがある。だから、せめてサウザーがこの世に増し加える悲劇を止めねばならない」
サウザーか、、、だが俺にはまだ他の敵もいる。
シュウの横顔は悲しみから転じてサウザーへの怒りが表れている。しかし自制したのか、すぐに真顔になるとこう言った。
「ただ、残念だが、結局はサウザーという男を直接止めなければ、私たちに本当の勝利はない」
どういう意味だ?とは訊き返さない。その必要はない。シュウの言いたいことは、こんな俺でもよくわかる。
一人の人間の力、それがサウザーともなれば、仮にどんな苦境に陥ったとしても、奴は自力でやり直すことができるのだ。それに、六星の二人がここにいたとて、二対一の戦いは南斗聖拳の拳士にはない。
始めから対になって戦う南斗の流派もあるが、組織のことなど無関心だった俺でさえ、南斗六聖拳、六将の一人としての誇りを持っている。シュウと組んでサウザーとやり合うことはない。
となると、、、
「私はサウザーの力を知っている。本気ではないサウザーの力だ。それでも、サウザーの力は飛び抜けている。恐らく、いや間違いなく、南斗聖拳では倒せないだろう」

「シュウ」

「だから、北斗神拳伝承者の力が必要なのだ。サウザーを倒せるのは拳王でも、北斗の次兄トキでもない。この世にただ一人、北斗神拳真の伝承者、ケンシロウだけなのだ」

シュウの顔に刻まれた六本の傷、光を自ら消した痛ましい疵痕。それがケンシロウを助けるためだったことを知らない南斗組織の人間はいない。

古今、北斗神拳伝承者は多くの奇跡、まさに神の業で世界の均衡を保って来たという。俺はケンシロウの力を認めているし、だからこそ、その思いをしたためた書簡をシュウに送っている。

そんな俺と比べても、シュウが北斗神拳伝承者ケンシロウに賭ける思いは遥かに強い。

北斗神拳伝承者か、、、

う!!
ズキン!!
「どうした?レイ!」
ビジョン。はっきりとした映像が俺の脳裏に浮かんだ。はっきりとだ。
ピラミッドの頂点のような、、あれが完成した聖帝十字陵か? その頂の岩を持ち上げたまま、多くの矢に撃たれ、そしてトドメにサウザーが投げた槍で胸を貫かれ絶命するシュウがはっきりと見えたのだ。
あまりにはっきりと見え過ぎた。

多分だが、、「本来」の世界線の先が見えたのだ。確証はないがそう思えた。いや、わからない。とにかく、そうであろうとなかろうと、これは予知能力?だろうか?
「シュウ、、」
「どこか痛むのか?」
「いや、、、大丈夫だ。ただの疲れだ」
南斗六聖拳の一人が、疲労から頭痛を起こすことは、まずない。我ながら無理のあるゴマカシだが、シュウはそれ以上尋ねて来なかった。
「レイ、顔色が悪いぞ」
と言うものだから、俺も思わず口元の締まりが緩くなる。
「フフ、シュウ」

このシュウなら顔色さえ本当にわかるのかも知れない。
「レイ、たしかに疲れはあるだろう。大した設備はないが、今日はもうゆっくりと休んでくれ」
「ああ、そうさせてもらおう」
今日はもう本当にそうさせてもらう。サウザーの件もあり、思い煩いは増えそうだが、トキの柔拳をまた頭の中で反芻したい。

「では、また明日に」

と、部屋を出た俺の耳に、子供たちの悲しき泣き声が届く。
ケンシロウ、今お前は何をしている?

 

 

「どうされました?ユダ様」
副官のダガールが話しかける。俺が道化のような身なりをやめると、この男もダンディ路線の貴族崩れのようなナリをやめた。合わせる奴だ。
あちらの世界線では、俺の策略に使われたことに激怒し襲い掛かって来たが、まだこちらの世界線では忠実な男を装っている。
あの時、、俺はケンシロウの拳筋を見ることができ、それでその癖を見抜いたつもりでいた。だが、今の俺からすれば思い上がりも甚だしい。
あの負傷した腕、そして格下ダガール相手に見せる拳など高が知れている。拳王と引き分けたほどの男の力を侮ってはならない。
とは言ったが、、、こちらの世界線ではケンシロウと拳王は戦っていないのだから、どうにも複雑な話だ。
ダガール」
「はい、ユダ様」
はじめダガールは、俺がサウザーの下に入ることに難色を示していた。だが物は言いよう。あくまで、「ユダ王国」は継続させる、形上は同盟のままだと説明した。
それでもどこか納得していないダガールだったが、「南斗六聖拳と同じ構図だ。サウザーは南斗の将星だが、俺も将であることに変わりはない」との喩えには得心が行ったようだ。
「しかし私はユダ様がこの世界の真の一番になるところを見たい。それだけは心にお留め置き下さい」
「わかった」
ダガール、、生憎俺は王の器ではないのだ。ならサウザーは?、、、奴は南斗の帝王から、この世界の覇王になろうとしている。覇王、、、王の王。奴ほど相応しい男は他にいまい。
「して、どのように拳王と?」
「既に伝令を向かわせた。拳王も叶わぬ覇道に忙しかろうて。ならば奴の徒労をせめて労ってやろうと思ってな。風呂でも馳走してやるつもりだ」
「風呂?、、ですと?」
「イエローヴィレッジ」
「おお!」
ポン、とダガールは手を叩いた。
「なるほど、あそこなら確かに温泉が、、ってユダ様、あそこで何を?」
「拳王の力を味わうには丁度いい場所だ」
と、回答になっていない答えを返した。俺の力が拳王を名乗るあのラオウと比較してどうか。
俺があちらでは敗れたレイ。そのレイを倒した男がラオウ
しかし、俺が戦ったレイではあるまい?
俺も、そのレイと戦った俺ではない。
拳王を侮る気はない。ただ、俺の拳どこまで届くかを見極める。