妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

124.

「聖十字霊拳、、、」

シンでさえ聞いたことがない名であった。これを鵜呑みにするのも如何なものかとは思うが、バルバがそんな嘘を吐いてどうなるのか、とも思える。

「なるほど、、、南斗六星を己の象徴としながら、何故に紋章は十字形だったのかわかった」
となると、サウザーが六星のひとつ将星と南十字星の、この二つを背負うことにも意味があろうか。

「ジンガは己が拳を高め、技を磨き、聖十字霊拳を弟子たちに伝承した。伝えるべきものは伝えた。こうして、ジンガの役目は終わった。一つを除いて」
「、、、」
「彼は逃亡と隠遁の旅を終わらせ、拳士としての誇りのために、北斗神拳に挑んだ」
結果は聞かなくても理解できた。それが南斗聖拳の歴史なのだ。
「かつての兄弟弟子ケンガイも次代の伝承者に拳を譲ったばかり。新たな伝承者との戦いにより傷を負ってはいたが、ジンガとの宿命の対決を拒むことはなかった」
「一子相伝のサダメから逃げた男を始末する好機でもあったのだな」
シンの言葉にバルバは薄い唇で笑う。
「結果は言うまでもないな?」
「、、、言うまでもないな」

と、シンは目を閉じた。


北斗神拳打倒を生涯の目的とした師父を倒された怒りと慚愧。それは弟子たちに受け継がれ、時の経過とともに怨念へと姿を変えた。同時に北斗神拳への畏れも受け継がれて行く」
それを聞き、思いを巡らせながら、シンは自分そっくりの石像に目を戻した。

「駆け足で続けるぞ」
「ああ」
北斗神拳から隠れながら、聖十字霊拳は少しずつ裾野を広げ、先代からの技の継承と工夫を重ね、更には才能ある拳士を外部から招き入れ、徐々にだが進化を続けていた。そうして幾世代を超え、遂にこの男が現れることとなる」
と、バルバも石像に目をやる。
「聖十字霊拳に現れたこの天才拳士レイゲン。彼は今の聖十字霊拳では北斗神拳に勝てないことを若い時分に悟り、更なる研鑽の末、、、」
「なんだ?」
「突き抜けた」
というバルバの右手のゼスチャーは「ボン」と何かが弾けたようなものだった。
「その拳はいかなる刀剣よりも鋭く、どんな四本脚の獣よりも速く、そして人のものではなかった空中を他の追随を許さない領域へと変えた」
「それが南斗聖拳、、、」
「そう。北天に北斗七星あれば南天南斗六星あり。新しき拳その名に誇りをかけ、敗れ去った聖十字霊拳の創始者ジンガと、北斗を恐れ拳士としての沈黙を強いられた先人たちの無念を晴らすべく、宿敵北斗神拳に挑むことになる」

南斗聖拳創始者として崇められ、しかしそれでいて彼を形取ったかのような石像には侮蔑の一撃を刻み込まれている。その理由は一体?

南斗星君の伝承に則し、レイゲンは真っ赤な拳法着に身を包んだ。レイゲンもその時の北斗神拳伝承者リュウソウも齢は40前後」
高齢だな、、、とは思わなかった。むしろ最盛期であろう。このよくできた石像は色こそ着いていないが、この拳法着は赤なのだろう。

40前後、、、
加齢による衰えそのものは南斗北斗の拳士たちと云えど確実に訪れる。
だが、彼らはその訪れを極限にまで遅くできる。もちろん氣の働きによるものだが、となると、その分強い身体を持ったまま若い拳士よりも多くの技を練ることができる。
しかも拳の特性上、全てが命に直結する技術である。故に安定した精神性も求められるのだ。若さにありがちな攻撃性の強さでは、勢いの余り墓穴を掘りかねない。
拳のみでなく、様々な経験を経た人間としての円熟が重要になる。

「そしてこの対決には、双方の弟子たちが立ち会うことを許された」
弟子たちは自分たちの師父の勝利を信じ、願う。勝負の行方がどうあっても、結局怨嗟を含んだ戦いの輪廻は終わらない。その終わらない闘争の宿命が、その時始まったのだ。

いや、既に聖十字の時から、、、いいや! 北斗神拳伝承者争いに敗れた者がいる時から、つまりはことの始めから、この怨嗟の輪廻は始まっていたのだ。 

 

「技の応酬、奥義の掛け合い。二人は互角に戦った。「流石に北斗神拳!」とも「これが敗者から生まれた筈の南斗聖拳の強さ!」とでも思ったであろうな」
シンはいつの間にかバルバの話に引き込まれていることに気が付く。知りたい、もっと知りたい。南斗聖拳はどうなった? 決着がつかなかったことは予想できるが、真の答えを知りたかった。

「そうして、、、二人は全ての奥義を出し切り、互いにそれらを凌ぎ切った。奥義を以ってしても相手を打ち負かすことができなかったのだ」
「、、、」
「双方これ以上の拳技なし。それでも勝敗分かれず。レイゲンは父祖の拳北斗神拳の偉大さを讃え、リュウソウも最強北斗神拳に唯一対為す拳として南斗聖拳を認めた」
「遺恨なし、、、か?」
北斗神拳南斗聖拳は互角、という言い伝えもこれに起源があるのだろう。

「だがもちろん、、、」とバルバは楽しそうに口元を緩めている。腐った匂いが鼻につく。
「これで大団円とはなっていないのが、今この時この場からも理解できよう。 、、、レイゲンの高弟の一人にして実子、そう、この石像を彫った男だ。この者は父レイゲンの本当の強さを知っている」
「何、、」
意外な展開だった。

北斗神拳との宿命の、そして念願の対決で見せたレイゲンの力は、、まるで本来のものではなかったのだ」
「どういうことだ?」
「レイゲンは北斗神拳を凌ぐ力がありながら、、、」
と、バルバは言葉を溜める。
「手を抜いたのだ」
「、、、、、」
「理由は不明だ。その理由は南斗聖拳の伝承にも記されていない」
北斗神拳の、そのリュウソウという男が北斗神拳伝承者として相応の実力を有していなかったからではないのか?」
そうではないと思いながらシンは言っていた。
「それなら尚のこと北斗神拳を倒す好機ではないか。それに北斗神拳伝承者を名乗る男に、力足らずの者などおらぬ。例外はそなたが一度倒した男だけだ。だが、その後は確りと名に恥じぬ伝承者となっておる」

ケンシロウ、、、、ケンシロウ

「さて、、次代への南斗聖拳の伝承を終えたレイゲンだが、彼は北斗神拳との戦いを最後に、誰とも拳を交えることなく、自身の拳を封印し姿を消した。遠くから、手の届かぬ所から南斗聖拳の成長と拡大を願うとして」
「姿を消した、、、、」
「ここまでが、、、」
石像を見、シンに目線を戻し、バルバは言う。

「レイゲンの話だ」