妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

122.

扉を開くとまた薄暗い石の通路が続いていたが、バルバに合わせた遅い歩でも一分も経たない内に円筒形の広い石室に繋がった。壁面には篝火が並び、室内を明るく照らしている。
中央には台座が据えられており、その上に置かれているのは等身大の男の石像だった。
腕を組み、長い拳法着の裾から出した右足を一段高い石の上に乗せ、長髪を靡かせる端正な横顔のその目は、真っ直ぐに遙か遠くを見ているようである。
それがわかるほど精巧に彫刻された石像だった。
篝火よりも高い位置にあるため、光が下から照らす形となり、そのせいか見るものに威厳を感じさせる。

、、、これは、、、

「気付いたか?シンよ」
石像はシンに似ていた。というよりも、まるでシンをモデルにして製作したかのようである。

「この石像の男こそ、南斗聖拳真の伝承者。北斗神拳伝承者との死闘で互角に戦い、南斗聖拳北斗神拳と表裏一体とまで言わしめさせた」
シンは石像を見つめたまたバルバの話を聴いている。石像から目が離せない。髪は今にも風に揺れそうで、顔は触れれば柔らかく押せるのではないか、と思える程滑らかに仕上げられている。
恐らくこの石像は南斗聖拳の拳士によって、つまり南斗の裂気で彫られたものだ。細かい部位にまで及ぶ繊細な技を見て、これはかなりの達人が手掛けたとわかる。
何故なら、南斗の攻撃時には放出した氣を集中させる技術がいるものの、その時々において放出量は適宜変えるものであり、熟練するほどだいたいの「目分量」になって来る。
それに対して、破壊目的ではなく、彫刻に南斗の拳を使うとなると、それもこれほどの物を作り上げるとなると、氣の扱いには微細な制御が必要になる。
しかも、その状態を維持しながら絶えず作業を繰り返すのだ。もちろん、拳士としての力量にそのまま比例するとは言えないが、氣の制御に関しては正に匠と言っていい。

 

「この偉大なる男の名は、レイゲン。後に敬意を込め、セイケンとも呼ばれた。もちろん聖なる拳のことだ」

レイゲン、セイケン、、、、南斗聖拳「真の」伝承者。

「レイゲンもそなたと同じ聖銀羅髪だったと伝えられる。もちろん、この当時にそんな呼び名はなかったが。 シン、像を真正面から見てみよ」
「、、、」

まだ像の左側からしか見ていない。右目が潰れているなど、そんなところか?とシンは予想しながら移動する。それにしても見れば見るほど自分に似ていて、落ち着かない奇妙な気持ちになっている。

 

「む! これは!?」

石像のど真ん中、正中線に沿うようにして細い線が引かれている。石像の背後に回って確かめると、やはり同様に細い筋が通っている。
この石像は南斗の手によって、、
「斬られている?」
「その通り。このレイゲンの像は、最後の斬撃を以って完成となったのだ」
「何故?」

 

石像はレイゲン本人を知らない以上比べることはできないが本当によく仕上がっている。恐らく造形だけなら本人そのものだろう。
レイゲンに対する敬意、、、いや、それよりも執着に近いような念を以って彫り上げたのではないかと思えるほどだ。

「レイゲンの三人の高弟の中でも一番弟子と伝えられる男により、この石像は作られた。敬意と、畏れと、恩義と、愛情と、そして、、、」
「何なんだ?」
焦れる。

「侮蔑だ」
「侮蔑?」

予想外の答えにシンはバルバの言葉をおうむ返しした。

「ちなみにだが、レイゲンの一番弟子、それは彼の実子だった。そしてレイゲンの命脈は今も尚続いている」
「そういうことか」
飛躍気味な考えかも知れないが、その憶測が正しかったということを、続くバルバの言葉から理解した。

「だから我らはサウザーを選ばなかった。確かにあの男は強い。野望も強い。カリスマでもある。南斗聖拳の歴史においても比類なき男。だが!サウザーでは南斗聖拳を蘇らせることはできない!」
興奮気味にバルバは声を上げる。
「レイゲンの拳を復活させるに相応しいのは、その血を受け継ぐシン、そなたより他はない」

この石像が本物のレイゲンを細かく再現しているなら体型もほとんど同じであろう。体型が同じなら、同じ技を会得しやすいという利点はある。
しかし、同じ技と言っても、この当時の南斗聖拳はまだまだ発展途上の筈。血族に拘らず才ある者を外部から受け入れ、分派を繰り返すことで多様に発展した今日の南斗聖拳とは比較できない。


それにしても「血」でいうとなると、、、
六聖拳のうち、シュウはと言えば自分と同じく南斗の血筋。一方でレイ、ユダ、サウザーは確かに外部の出だ。
ユリアに至っては正統血統とさえ、、、いや、本来は正統血統者はリュウガであり、ジュウザであった筈だ。
一部では血統主義が根強く残っていたとは言え、「唯才」を掲げた完全実力主義南斗聖拳は栄えた。今更血筋などと言ったところで、、、、
第一、その血筋にある、しかも源流直系の孤鷲拳は鳳凰拳に敗れているのだ。

「生憎正統血統は滅びたが、形骸化したあんなものに価値はない。本質的には正統血統者が女な時点で、ユリアが存命であろうと打ち止めだったのだ」
リュウガもジュウザも拳の才能は間違いなくあった。尋常ではなかった。サウザーとの政争で敗れたが故に南斗を追われたが、あの二人に子はいないのか?

「女系という時点でか」
「その通りだ。ユリアが子を設けようとも、その者にレイゲンの血は流れていない。もっとも、正統血統など後付けの文言に過ぎぬ。組織を潤滑に回すための口実だ」
「、、、、」
「「外」の者でありながら六聖拳になったレイ、ユダ、そしてサウザーも先祖を辿ればレイゲンに至るということもあるやも知れぬな」

「、、、」

「だがそれよりも!この像を見て明らか。そなたこそ!このレイゲンの生まれ変わりよ。血統、、、そなたの血筋にだけは敬意を払う」

 

生まれ変わり、、、バルバが発した言葉が本気の文字通りなのか、喩えなのかわからない。
自らの言葉に酔っているようなバルバを横目に、シンは自分にそっくりの石像を見ながら問う。

「それで、この石像に刻まれた侮蔑の斬撃にはどんな意味があるんだ?」
「うむ、レイゲンは南斗聖拳伝承者だが、実のところ創始者でもある」
よくわからない言葉だが、シンは黙ってその先の言葉を待った。

「レイゲンが先代から継承された拳はまだ南斗聖拳ではなかった。まだただの南斗聖拳の前身の拳に過ぎなかった。それを彼は更に昇華し、後に南斗聖拳を名乗ったのだ」

六聖拳の一人であるシンでさえ、実のところ南斗聖拳の起源に関してはよく知らされていない。というより知る者がいないのだ。憶測が伝説に化けたような話しか知らない。信ずるに値しない程度のものだ。

南斗の人間にとっても、その原点はブラックボックスの中。北斗神拳の伝承者争いに敗れた者たちが興した拳であるという話自体、六聖拳の面々や高位の者しか知ることはない。
バルバが作り話をしているのでない限り、流石は南斗宗家と言うところだ。それが何故に内乱の結果、滅ぼされた、、、表向き滅ぼされたのか。