妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

123.

「最強にして一子相伝暗殺拳北斗神拳の伝承者争いに敗れた者に待つのは、拳を砕かれるか、記憶を奪われるかの運命。命を奪われることもあったであろうが、場合によってはその方がマシかも知れんな」

南斗聖拳にあって一子相伝を謳うのは最強鳳凰拳のみ。ただし、実質的には二人の伝承者を認めない流派は幾つもある。新伝承者が他の使い手を排してしまうからだ。
特に六聖拳となれば拳の伝承者というだけでなく、それぞれの宿星を持つのだ。白鷺拳のように宿星が仁星固定の流派もあるが、シンの場合は巫女の神託によるものだった。
当てずっぽうなのか、それとも伝承者の顔を見て決めるのかわからないが、恐らくその性状の評判から、相応なものを付与してるだけであろう。
だが、、、、これがなかなかに侮れない精度なのだ。一度宿星として定められると不思議なことに、、、それが根付く。


「その通り。南斗六聖拳も実質は一子相伝であろう。ときに、、、南斗孤鷲拳もう一人の拳士、ジュガイの末路は聞いておるか?」
末路か、、、奴ほどの男の名が知れ渡らないこの乱世ではない。となると新世界の初期に命を落としたのだろう。相手はラオウだろうか。

「知らんのか?」
と、バルバは呆れたような顔をした。
「知らんな」
ケンシロウだ」
思い掛けない一言だった。
「何!」
ジュガイが、、それもケンシロウによって、、、
「知らぬのも無理はない。そなたがキングとしてユリアのために奔走しておった頃だからな」
ということは、少なくともあの1年の間にかつての兄弟子であるジュガイは、、、、

ケンシロウとの再戦。敗北の理由は、そなたがユリアを手放し、腑抜けていただけではないのだ」
そういうことか。既に我が拳はジュガイとの対戦を経たケンシロウには存分に知られていたということか。
ケンシロウ南斗孤鷲拳をジュガイからも見ている。尚のこと、そなたは勝ち目がなかった。そしてだ」
「、、、」
ケンシロウ、即ち北斗神拳伝承者は一度戦えば全てを知る能力を持っている」
「全てを知るだと?」
「奥義、水影心。水に映る影、心と書く。この奥義の存在が南斗を更に貶めていくのだが、今は順を追って行こう」

南斗の上位拳士ともなると、一度拳を見ればその者の癖を把握することはできる。それ故に拳士は自分の技を他者に見せるのを好まない。
昔、演武会でのサウザーは構えのある拳を見せていた。シュウも脚技は封印していた。だが、戦えば全てを知るというのは訳が違う。信じ難い話だが、、、、
そして貶める、とは?

シンの小さな困惑を無視し、バルバは話を進めて行く。

「恐怖だったであろう、北斗神拳伝承者に追われるということは」
「恐怖などしていない。いずれ改めて決着をつける時は来る、そう思ってはいた」
というよりも、ユリアを失って以来、キング組織とサザンクロスという巨大な負の遺産を破壊し消し去ってくれるケンシロウを、心のどこかで待望していた。

「そなたではない。 、、、、その名はジンガ。北斗神拳の伝承者争いに敗れ、そして敗者の行く末を知り逃げた男だ」
北斗神拳の、、、」
バルバはまるで自分が目撃したかのような顔芸をしながら話し始めた。


ジンガは北斗神拳から命を狙われる恐怖から同じ場所に留まったことは一度もなかった。知己も作らず、もちろん家族を持つなど考えられない状況であった。
今日、東に逃げたなら、明日は北へ、次は西へ、その次は更に西へ、、、と当てのない逃亡を繰り返した。
道ですれ違う全てが北斗神拳の手がかかった人間に思えて仕方ない。もし、本当にそうであっても、本人は自覚せずに自分を探している可能性さえある。
かと言え、堂々と戦っても、自分の知らない奥義を会得した伝承者には勝てない。ならばと、正面から堂々とではなく暗殺を試みようにも、北斗神拳の隙を突くなど不可能だった。

 

逃亡生活を強いられる毎日ではあったが、そこは不完全ながらも北斗神拳の使い手である。
人目のつかない奥地でも獣を恐れる必要もなく、秘境と呼ばれる僻地でも軽々と越えることができた。
とは言え、そんな自分を追うのは北斗神拳伝承者ケンガイ。かつては互いの拳を高め合う仲間と信じていた。それが伝承者を決めねばならない頃合いになると、奴は変わった。

 

いつかあの男が俺を殺しに来る。

 

ジンガの思いは常にその恐怖と理不尽さに埋め尽くされていた。

ところが、そんな終わらない放浪の旅路に、ある男との出会いがあった。
その男は北斗劉家拳伝承者であり、北斗神拳伝承者との戦い、即ち天授の儀にて敗れ去った片手片脚の男だった。
ジンガはその男の元で数年の間匿われ、同時に北斗劉家拳を学んで行った。
その男はジンガの素性を全く尋ねることもなく、劉家拳の秘技を余すことなく伝授して行った。
ジンガがただの拳法家でないことは明らか。それどころか経絡秘孔の秘術を知っているのである。どこから見ても北斗の拳の男である。しかし、一度も男はそのことをジンガに触れることはなかった。
ジンガにしても、男が自分の所在を北斗神拳伝承者に密告するかという疑いはあったが、長い逃亡には疲弊し切っており、北斗劉家拳さえも学べたことに、拳士としての本懐も果たされたという境地に至っていた。

それでもだ、、、
劉家拳を得ても尚、北斗神拳伝承者に勝てる気がしない。その劉家拳伝承者も北斗神拳に敗れ去り、不具の身になっている。
拳士としての正々堂々とした対決の結果である、と恨みがましい言葉は発しないが、忸怩たる思いはあらゆる所作に滲み出ていた。
既に友と呼べる仲になったジンガと劉家拳伝承者。漸くにして逃亡の旅は終わらせねばならないと決意するに至った。
とは言え、わざわざ拳を封じられるために北斗神拳伝承者の前に姿を見せてもしようがない。
不完全な北斗神拳と、そして北斗神拳に勝てない北斗劉家拳を不完全な形でしか会得していない。
北斗神拳に打ち勝つ新たな拳を、、、存在しないなら創始するしか他にない。


ジンガは北斗劉家拳伝承者に別れを告げ、更に当てのない旅を続けることとなった。しかし、これはただの逃亡の旅ではない。
最強北斗神拳を倒すためだけに特化した拳を編み出すためのものだった。

 

ジンガは新流派創始のための旅を続けた。

そして遥か南を訪れた時だった。
大陸中央からでは見えない、夜の暗天に輝く小さな星座を見つけた。現在でいう南十字星だった。
北天では天帝太極星を中心に星々が回っている。北斗神拳の本尊、北斗七曜の星は天帝を見守るように、その周りをめぐり続けている。
一方で南天には北天の北極星にあたる、南極星がない。
長い逃亡の旅、生活を強いられていたジンガには、その十字形の小さな星座が天の宿命から解放され孤立した、しかし自立した孤高の存在に思えた。
そして、、、
この「小さい」ということがジンガにとっては一種の天啓となった。
北斗劉家拳は北斗神拳よりも強力で絶大とも言えるほどの氣を駆使し間合いを狂わせる。が、、それでは北斗神拳に勝てない。
南十字星の存在感は大きいが、星座として「小さい」。
北斗神拳で学んだ氣の制御、北斗劉家拳で会得した強力な闘気。その氣を、、、、極限まで「小さく」する。一点に集める。
あらゆる刃物がそうだ。先端を尖らせれば貫通力が増す。刃を研ぎ澄ますほどに斬れ味は増す。
秘孔点穴の勝負では北斗神拳に勝ち目はない。ならば、相手を斃すことにおいては経絡秘孔を離れてみてはどうか?
代わりに強力な氣を鋭く集中させれば?
しかし、それは北斗宗家の拳、「光掌」のように光るという無駄な氣を発しない。光る必要はない。
ただ鋭く、ただ疾く、そして秘孔に依らず全てを破壊せしめる拳。


「それが南斗聖拳の前身、、、聖十字霊拳だ」