妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

レイ14

一週間が経った。

旧世界では、それなりに大きい公園だった森の中で、今は点く筈のない街路灯の上に片足で立っている。
鳥の声、蝉の声さえ聞こえて来る。世界は滅びた、というが、そうではない。世界を支配した気でいた人間の世界が滅びただけだ。管理されていないこの自然の鬱蒼さ、、、
風が俺の顔を優しく撫でながら通り過ぎる。自然の香がする。落ち着いている。いい状態だ。
「          」
無になった。

僅かに身体を下げる。
トーン!と跳ぶよりも身体の連動を感じながら、俺は跳んだ。
「!!」
これだ! 俺は飛んだ。今まで、これほどまでに空と一体化した感覚はない。ユダ戦のときを除けば。

だがこれぞ、、、

南斗水鳥拳
飛燕流舞

更に驚いたのはその後、着地だった。
スゥ、、、タ

何ということか! この感覚、知っている。そう、ユダ戦での死人の境地に立って漸く辿り着いたあの空舞だ。
もちろん、まだまだあの時には及ばないが、確実な変化、成長を実感できている。トキと手合わせできたのが、とにかく大きい。
自身でのみ拳の研鑽をしようにも、それだけではあのトキの柔の動きに至ることはなかったろう。
師父が繰り返し言っていた言葉を思い出す。
「私が真の南斗水鳥拳を会得していたなら、オウガイにも引けを取らなかった筈だ」
師父はよく、その悔恨の言葉を口にした。俺は南斗組織の外の人間だったため、南斗聖拳の修行に入ったのは異例なまでに遅い、10歳だった。
それ故、南斗鳳凰拳伝承者即ち、南斗最強の男オウガイを知らない。俺が組織に組み入れられた時、既に鳳凰拳伝承者はサウザーだったのだ。
外部上がりの人間がため、俺を疎む者も多かった。そのせいもあり、俺は「組織」というものには全く関心を持たなかった。
そんな俺が南斗水鳥拳伝承者、そして南斗六聖拳の一人に数えられるまでになれたのは、もちろん師父のおかげ、これに尽きる。
元々は俺の前に、次期伝承者候補がいたが、師父との伝承の儀で命を落としたのだという。
「私はやり方を間違っていたのだ。ただ強さを追究してもオウガイには及ばず、水鳥拳ではない何かを身につけていたに過ぎない」
「そんなことはありません! だとしたら私は何を会得しようとしているのでしょう? 私は南斗水鳥拳を学んでいるのです」
「すまぬ」
「師匠、、」
その謝罪は、俺に本当の南斗水鳥拳を教えられない悔しさと、そして同様に水鳥拳を会得していなかった旧い愛弟子を殺めてしまったことへの後悔、その両方に対してのものだったと、知っていた。
「私は強さを求めた。それでも鳳凰拳には敵わなかった。レイ、強さを求めるな。南斗水鳥拳を究めよ! 私にはできなかったが、お前ならできる!」
そういう師父だったが、六聖拳の一人としての力量も他の拳士たちに劣ることはなく、故に発言力もあった。
俺は南斗水鳥拳伝承者という時点で既に六聖拳の一人に数えられるのは決まっていたが、外部の人間に対する偏見がある中、俺を次の六聖拳の一人として十分な資格があると、強く推してくれた。
師父、、、俺は南斗水鳥拳を会得してみせます!

 

 

「レイ?」
「何だ?マミヤ」
距離を置かれてはいるが、無視はされていない。しかし、こちらから話しかけるのも憚られ、挨拶程度にしか言葉を交わしていなかった。
「う〜んと、、手伝ってくれるのは嬉しいんだけど、、、ううん、ありがとう。すごく助かってる」
「どうした? 何か間違っているか?」
マミヤ、、、俺はお前を、やはり愛している。
「この頃、レイの動きが、、、悪気はないから言うわよ」
「ああ」
「なんか変」
と、マミヤは笑った。
変な動きの理由はわかる。トキの動きを模索しているがため、普段の動作の中でも試行錯誤を繰り返しているからだ。
「レイの動きは変な力みがなくて、軽くて、なんかエレガントって感じだったけど、この頃は何か変よね」
その笑顔を俺に見せないでくれ、俺のものにならないのなら。
だが、マミヤが俺のことを気には留めていてくれたのが嬉しかった。その気持ちがケンシロウに向いていたとしても。
「そうか、それはすまない」
「謝ること?」
と、笑い、そして他の用事があるから、と去って行った。忙しい女なんだ。知ってるさ。みんなが必要としている。戦う女リーダー。
マミヤは俺がトキと手合わせしたことを知らない。死合った、という言葉に近い手合わせだったことを。
もちろん、他の誰も知ることではない。誰も知らないが、間違いなく俺にとってターニングポイントだ。
過去にタイムスリップし、「三日後」をとっくにやり過ごし、「死人の拳」を会得しない代わりに、成長していく拳と、不透明なのは仕方なしとしても、未来を得た。
未来、、、か。
拳王ラオウ、聖帝サウザー、、、、、
たまたまだ。たまたま今は静かに暮らせている。食糧調達も簡単ではないが、それでも今はこの夕刻の暖かい日差しを感じられる。

明日にでもこれが壊されてもおかしくない世界なんだ。

そんなことを思った翌日、一人の男が村を訪れた。